花霞にたゆたう君に

冴月希衣@商業BL販売中

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第四章

天花舞う【4−1】

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「ごちそうさまでした」
 食後の挨拶の後、目を瞑った白藤さんが小さく息をつく。
 じっと見つめていると、こちらを向いたその子の口元には控えめな笑みが浮かんでいる。
「食べ終わるのが遅くて、ごめんなさい」
「そんなに遅くなかったよ。それよりも火傷したところは大丈夫?」
「あ、うん。すぐに冷やしてもらえたから」
 左手首に巻かれた包帯が痛々しいが、実際の火傷の部位はごく小さなものだと知っているから、少しは安心出来るな。
 本当に、すぐに冷やせて良かった。後で、痕が残らないように、塗り薬を調達しないとな。
 包帯を右手でそっと撫でてから、俺を見上げてくる彼女。その口元に、目が吸い寄せられていく。呟くような「ありがとう」とともに、咲き零れる花。
 あぁ。『花笑み』って、こういう表情のためにある言葉なのかもしれないな。
 艶やかな花が、ゆっくりと開いていくようなその笑みから、目が離せない。
 目が離せないどころか、その微笑みに吸いこまれるように、クラリと眩暈にも似た感覚に襲われる。椅子に座ってて良かった。心から思う。
 包帯に目線を落とした彼女が、それを二度、三度と指先で撫でさすって、また笑みを零す。
 穏やかな笑みが俺を見上げて、さらに深まった。
「私ね。お湯で火傷したの、初めてなの。応急処置してくれて、ほんとにありがとう」
「いや。いきなり氷水に突っ込んだりして、びっくりしたよね。ごめん」
 あの時は、咄嗟に身体が動いたし、焦っていたから、かなり乱暴にした自覚がある。怖がらせたんじゃないだろうか。
「ううん。あ、びっくりしたのは、したけど。それは別のことにって言うか、何と言うか……」
 最後のほうは俯いて、ごにょごにょと呟かれたから聞き取れなかった。
「え、何? ごめん、よく聞こえなかった」
「あ、大丈夫! びっくりしてないよ?」
「そう?」
 元気よく、誤魔化された気がするが。
 その後は、食器の洗い物をどっちがやるかで彼女と揉めた。
 せっかく手当てした手を濡らさないように。そんな配慮からだったんだが、自分も一緒に、と食い下がってくる彼女が可愛くて、思わずその頭に手が伸びてしまった。
「気持ちは嬉しいけど、ここは俺に任せて? 白藤さんは食器を拭く係だよ」
「うぅ……はい」
 宥めるように、ゆっくりと撫でていたら、俯いたまま小さく返事をしてくれた。途中で、嫌がられるんじゃないかと一瞬手が止まったんだが、じっとしてくれてるのをいいことに、そのまま続行した。
 この髪に触れてもいい存在になれるのかと、思い悩んでいたはずの自分なのに。
 少し、距離は縮められているんだろうか。
 ほんの少し下唇を噛みしめて、見上げられる。俺に向けられたその顔が、うっすら朱に染まってるのを見下ろして、知らず知らず頬が緩む。
 この反応、堪らないな。


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