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第五章
君に、捕らわる 【6−2】
しおりを挟む「よっしゃ! 腹いっぱい食ったことだし。今日も頑張るか!」
「山田くん、朝からすごい食欲だったね」
「そうか? 秋田が少食すぎんじゃね? それよりさ――」
朝食が済んで、今はスキー講習に出発する為の準備中だ。秋田の言った通り、山田は小柄な割には大食漢だなと俺も思ったが、口に出すのはやめておこう。
「なぁ、基矢ぁ。俺のゴーグル知らない?」
「昨日、自分でスキーウェアのポケットに入れてただろ?」
「あ、そう言えば……あぁ、あったよ。サンキュ」
従兄弟たちのこの会話も相変わらずだな。
「――あ、土岐。ソレ、昨日言ってたスポーツサングラス?」
「あぁ」
レンズを拭いていたら、高階が目を留めて聞いてきた。
「そうか。残念だったね」
「は? 何がだ?」
「ふふっ。色々あるんだよ」
何だ? わけのわからん会話を仕掛けてきといて答えを濁すとは、いい度胸だな。
「おい、高階」
――バタン!
「チャオ! ただいま帰還いたしましたぁ! みんなぁ、心配かけてごめんちゃい!」
高階に会話の意味を聞こうとした途端、ドアが勢いよく開けられて。異様な元気さで声を発しながら賑やかに入ってきたヤツがいた。
「あ、お帰り。もう帰ってきたんだ」
「ちょっ! 何? その冷たい反応!」
ドアの一番近くに居た高階がお約束の対応をした。
「悪い、悪い。緊急搬送されたとはとても思えない勢いだったからな。つい」
「ひでぇ!」
「武田。取りあえず入って座れ。検査結果は大丈夫だったのか?」
「あ、うん。えっと……大丈夫だったから退院してきたよ?」
ん? 何だ? 急に大人しくなって。しかも微妙に上目遣いとか、らしくないじゃないか。
「武田ぁ! 心配したんだぞ!」
「おー、山田。悪かったなー。イェーイ!」
いや、元気よくハイタッチしてるな。何だ、勘違いか。
「武田くん、お帰り。ねぇ、スキー講習はどうするの?」
「おー、秋田。昨日はサンキューな。今日は駄目だってよ。だから見学しとくわ」
「見学? どこで? ていうか、部屋で安静にしとかなくていいの?」
「病院に迎えに来てくれた先生がさ。スキー場の中にあるロッジで待機する担当なんだって。んで、不参加者はそこで一緒に見学するらしいぜ」
今、何て言った? 不参加者は見学?
「えっ! 武田くん、それ本当?」
「おー、マジマジ! なんか、俺の他にも見学者が居るらしくてさ。車で送り迎えしてくれるんだってー」
「――おい、武田」
秋田と会話してるのはわかっていたが、我慢出来ずに会話に割り込んだ。
「え! な、何?」
明らかにびくついている様子が気になったが、質問を先にした。
「その、病院に迎えに来た先生って、誰なんだ?」
「えっと、ほっしーだよ」
「ほっしー? あ、保科先生か?」
「う、うん。そう」
保科先生が見学者を連れてスキー場へ? ということは、武田の他にも居るというその見学者が彼女かもしれない。
今日も姿を見ることが出来るんだろうか?
ふっ、おかしなものだな。まだ確実に会えると決まった訳でもないのに。
少しの希望が灯っただけで、さっきまでの暗然とした気持ちが嘘のように浮上していく。それどころか、口元までがだらしなく緩んでしまって、慌てて引き締めた。
「うわっ、すげぇ」
緩んだ表情をごまかすように誰も居ない方向に顔を向けると、後ろで武田の声がした。
「あれ? 武田はまだ免疫なかった? これの」
「俺……初めて見たかも」
「なかなかの破壊力だろ? 本人に自覚がないから、余計に」
「あ、そうだね。チカも、いまだにドキドキする時があるよ」
「わかる! 俺、今、すげぇドキってるわ。これ、やべぇな!」
何の話をしてるんだ?
振り向くと、武田、高階、秋田がこっちを見ていて、ちょっと驚いた。三人の目線の先には俺しか居ないんだが、話の内容がわからない。
「おい、何の話だ?」
「あー、もう通常モードに戻ったよぅ」
俺の問いかけに、武田がさも残念そうに小さく呟いた。
「武田、何なんだ?」
「あ、いや! えーと……」
あからさまに目線をさまよわせて、挙動不審なヤツだな。
顔を赤らめてニヤニヤしながらなのが、少々気色悪い。
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