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第七章
花霞にたゆたう君に−To the future−【2−4】
しおりを挟む「――ね、涼香?」
「なぁに?」
「今度、うちに来る?」
「えっ、いいの?」
絡めた指は、小指から五本の指全てに変えて。俺と同じ強さで握り返してくれる手のあたたかさを噛みしめながら、新しい〝約束〟をするべく、切り出してみた。
「もちろん。いいに決まってるよ。幸音が居る時に、おいで? 会いたいんでしょ?」
「うん! うん、行くっ。あ、違った……お、お邪魔させて、くだ、くだ、さい?」
「ふっ。言い直ししなくてもいいのに」
勢い込んで「行くっ!」と言ったことを恥じたのか、口ごもりながら丁寧に言い直しするんだが、やっぱりカミカミで疑問系だ。
「ふふっ。涼香は、こんな時の表情が、一番可愛いね」
「か、かっ、かわっ?」
あ、口に出してたか。ま、いいよな、別に。
「可愛いよ。可愛い。このまま抱きしめて、ずっと離したくないくらい」
「え……」
ほら、その表情だよ。
「いい? 今の、実行しちゃっても」
「え? あの、その……」
「ほら、そっちの手も貸して?」
「え? え?」
涼香が戸惑ってる間に、繋いでいないほうの手も捕まえて、こちらを向かせた。
「ギュッてして」
「え……」
「俺が抱きしめちゃおうと思ったけど、やめた。今日は、涼香にギュッてされたい」
「えぇっ!? ギ、ギ、ギィィーッ!?」
「ギィィ、じゃなくて。ギュッ、だよ。ほら、早く」
テンパってる様が可愛くて堪らない。
が、ついニヤけてしまいそうになるのを必死で押し殺して、冷静に突っ込んで催促をした。
ヤバい。口元が、ひくつきそうだ。
「奏人? あの、どうして私……」
「ん? どうしたの? 俺、待ってるんだけど?」
何で、こんな流れになったのか。その質問は、最後まで言わせてあげることは出来ないよ? ごめんね。思いつきの無茶ぶりだって、しっかりと自覚してるんだから。
「駄目?」
それでも、じっと目を見て問いかければ。ピンク色に染めた頬を、ふるふると振ってくれる。
「ん。じゃ、お願いします」
繋いだ手を緩めて、後は涼香に委ねる。
たっぷり、数十秒ほどが過ぎて。
「や、やっぱり。むっ、無理ですうぅぅ!」
制服の裾が、きゅっと引っ張られて。胸元に温もりが擦りつけられる。喉をくすぐるように掠めながら、栗色の髪が、何度も左右に揺れた。
駄目だ。マジで、可愛すぎる。「無理です!」って言ってるけど。この体勢。俺にしがみついてるって、自覚してないのか?
「涼香?」
「ごめんなさい! でも、無理ぃ」
涼香が首を振る度に、その髪から漂う甘い薫りが鼻腔をくすぐっていく。
うん。これもヤバい。引き際を逃さないようにしないとな。そろそろ、言うか。
「わかったよ。無理なら仕方ないね。せっかく、通行人の皆さんが〝ほんの数人〟にまで減ったのにね」
「えっ?」
ガバッと上げた顔をグリンッと回して周囲を見渡した後、俺に目線が戻ってきた。
「す、す、数人? これがっ?」
おっ。疑惑の目線もなかなか、そそられるものがあるな。
「間違ってないよ。数十人もいないでしょ?」
正確には、数人じゃなくて十数人だけど。誰にでも、言い間違いはあるものだからな。これは仕方がない。
「でも、数人って」
「ん? 合ってるよね?」
涼香の目線が、通り過ぎていく生徒たちから、公園内に置かれてる幾つかのベンチに陣取ってこちらを見ている生徒たちに向けられた。その数は、明らかに数人なんかではないと、その目が語ってきてるが。
「それに、ほら。涼香は『ギュッとするのは、無理』だったんだし。大したことしてないんだから、気にする必要ないよ」
それをわかった上で、敢えてにっこりと微笑んだ。
「ちょっと手を繋いだり、お互いの耳元で告白し合ったり、俺の胸にグリグリと顔を押しつけてしがみついたりしてただけなんだから。ね?」
あと、俺が頬にキスしたことは言わなくてもいいか。
「うぅ」
唸りながら俯いてしまった、小さな身体。
「……い」
「え?」
何て言った? まさか、『嫌い』? やり過ぎただろうか。普段の涼香の声からは想像も出来ない、低めの、こもったような声色に、ヒヤリとした感覚が胸に広がる。
泣かせたか? それとも、怒らせた? 「涼香?」
慌てて頬に手を伸ばすと、少しだけ顔を上げて、呟くように声を返してくれた。
「奏人って、ずるい。意地悪なこと言ってる時が、一番綺麗に笑うんだもの。そんなの……ずるい」
……何だ、これ。ずるいって何? どこの国の言葉だ? 日本語の意味って、何だ?
この現状に当て嵌まる意味が全然理解できないんだが、取りあえず、これを先に言わせてもらおうか。
涼香。君、何度、俺を再起不能にすれば気が済むのかな?
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