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第一章
デート
しおりを挟む「あっ、また囲まれてるー」
待ち合わせ場所に到着したチカが目にした光景。それは彼にとって見慣れたものであり、さまざまな感情を呼び起こすもの。
「今日は何人? えーと、五人かぁ。まだ少ないほうだね。それにしてもお似合いだなぁ」
待ち合わせ相手を囲んでいる女性たちの人数を数え、苦笑するチカの脳裏に最初に浮かぶ感想は、——お似合いだな。
五人の女性たちは、チカの目から見て、まるで花のよう。それぞれカラーの違う魅力的な容姿で、その場を明るくしている。
チカの待ち合わせ相手、端麗な容貌の壱琉にはこんな女の人が似合うのでは? と、ついつい考えて気落ちしてしまう。
「一応、チカがいっちゃんの恋人なんだけどぉ。でも……とても綺麗ないっちゃんには、華やかな女の人のほうがお似合いだよねぇ」
大学二年になっても身長が百七十センチに届かない、ちんまりした男を恋人にするよりは、愛らしくスタイルの良い異性と付き合うほうが、断然、壱琉のためかもしれない。と、ネガティブな思考に寄ってしまう。
「おい」
「ひゃっ!」
「着いてたんなら、さっさと声かけろよ。待ちくたびれただろうが」
「い、いっちゃんっ?」
「何?」
「あ、あのね? 声かけずにぼーっとしてたのは悪かったけど。いきなりこれは困るから、ちょっと離れてっ。公衆の面前だから!」
全くの不意打ちだった。ネガティブ思考にはまって俯いていた身体ごと、長い腕に閉じ込められている。が、良識の塊であるチカは、すぐにその腕からの脱却を試みる。
「嫌だね。離さねぇ」
けれど、不機嫌を隠さない美声がチカの頼みを拒絶してきた。それだけでなく、さらに強く抱きすくめられる。
声色は不機嫌だけれど、待ちくたびれた、とチカを包むその動作は愛おしいオーラが全開。正直、嬉しくて堪らない。
うーん。少しだけなら、このままでもいいかな?
とことん壱琉に甘いチカの思考が、わがままな恋人を甘やかす方向に傾いた。
「とっくに着いてんのに、突っ立ったまま、いつまで経っても俺の名を呼ばなかったお前が悪い。そのせいで、雑音の発生源が五人にまで増えたんだからな」
え? チカが到着した時から、いっちゃんを囲む女の人は五人でしたけど?
望まない状況で自分を待っていてくれたことはわかったが、チカは遅刻していない。女性たちの人数云々には関与していないから、壱琉のこの言いようは理不尽だ。
ただそこにいるだけで女性を惹きつけてしまうフェロモンボンバーな壱琉に、大方の責任があるのでは?
「いっちゃん? 女性に対して雑音ほにゃにゃらー、なんて失礼な比喩をしちゃ、だめだよ。それから、お待たせーっ。早くレストランに行こ? チカ、お腹すいちゃった!」
けれど、諸々の思いをチカは一つも口にしなかった。
振り向けば、先ほどまで壱琉が立っていた場所には誰もいない。
自分が来たことを知った壱琉が追い払ったのか、オープンすぎる男同士のハグに毒気を抜かれたのか。どちらにしても、チカを気落ちさせていた存在はすっかり消え失せている。
しかも、今、壱琉が希少な笑みを惜しげもなく見せているのは自分だ。
とても綺麗な壱琉には、子どもっぽい自分などより華やかな女性のほうがお似合いなのだろう、という、さっきまでのしょんぼりは全てどうでもよくなっていた。
いっちゃんのためを思ったらチカは身を引くべきなんだけど。でもでも、チカだって、いっちゃんを好き! 大好きなんだもんっ。
いっちゃんがチカを特別に見てくれてるうちは、別れない。
いくらネガティブ思考にはまっても、ぜーったいに! 別れませんっ!
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