いい子で待て

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
1 / 10
第一章

デート

しおりを挟む


「あっ、また囲まれてるー」
 待ち合わせ場所に到着したチカが目にした光景。それは彼にとって見慣れたものであり、さまざまな感情を呼び起こすもの。
「今日は何人? えーと、五人かぁ。まだ少ないほうだね。それにしてもお似合いだなぁ」
 待ち合わせ相手を囲んでいる女性たちの人数を数え、苦笑するチカの脳裏に最初に浮かぶ感想は、——お似合いだな。
 五人の女性たちは、チカの目から見て、まるで花のよう。それぞれカラーの違う魅力的な容姿で、その場を明るくしている。
 チカの待ち合わせ相手、端麗な容貌の壱琉いちるにはこんな女の人が似合うのでは? と、ついつい考えて気落ちしてしまう。
「一応、チカがいっちゃんの恋人なんだけどぉ。でも……とても綺麗ないっちゃんには、華やかな女の人のほうがお似合いだよねぇ」
 大学二年になっても身長が百七十センチに届かない、ちんまりした男を恋人にするよりは、愛らしくスタイルの良い異性と付き合うほうが、断然、壱琉のためかもしれない。と、ネガティブな思考に寄ってしまう。
「おい」
「ひゃっ!」
「着いてたんなら、さっさと声かけろよ。待ちくたびれただろうが」
「い、いっちゃんっ?」
「何?」
「あ、あのね? 声かけずにぼーっとしてたのは悪かったけど。いきなりこれは困るから、ちょっと離れてっ。公衆の面前だから!」
 全くの不意打ちだった。ネガティブ思考にはまって俯いていた身体ごと、長い腕に閉じ込められている。が、良識の塊であるチカは、すぐにその腕からの脱却を試みる。
「嫌だね。離さねぇ」
 けれど、不機嫌を隠さない美声がチカの頼みを拒絶してきた。それだけでなく、さらに強く抱きすくめられる。
 声色は不機嫌だけれど、待ちくたびれた、とチカを包むその動作は愛おしいオーラが全開。正直、嬉しくて堪らない。
 うーん。少しだけなら、このままでもいいかな?
 とことん壱琉に甘いチカの思考が、わがままな恋人を甘やかす方向に傾いた。
「とっくに着いてんのに、突っ立ったまま、いつまで経っても俺の名を呼ばなかったお前が悪い。そのせいで、雑音の発生源が五人にまで増えたんだからな」 
 え? チカが到着した時から、いっちゃんを囲む女の人は五人でしたけど?
 望まない状況で自分を待っていてくれたことはわかったが、チカは遅刻していない。女性たちの人数云々には関与していないから、壱琉のこの言いようは理不尽だ。
 ただそこにいるだけで女性を惹きつけてしまうフェロモンボンバーな壱琉に、大方の責任があるのでは?
「いっちゃん? 女性に対して雑音ほにゃにゃらー、なんて失礼な比喩をしちゃ、だめだよ。それから、お待たせーっ。早くレストランに行こ? チカ、お腹すいちゃった!」
 けれど、諸々の思いをチカは一つも口にしなかった。
 振り向けば、先ほどまで壱琉が立っていた場所には誰もいない。
 自分が来たことを知った壱琉が追い払ったのか、オープンすぎる男同士のハグに毒気を抜かれたのか。どちらにしても、チカを気落ちさせていた存在はすっかり消え失せている。
 しかも、今、壱琉が希少な笑みを惜しげもなく見せているのは自分だ。
 とても綺麗な壱琉には、子どもっぽい自分などより華やかな女性のほうがお似合いなのだろう、という、さっきまでのしょんぼりは全てどうでもよくなっていた。
 いっちゃんのためを思ったらチカは身を引くべきなんだけど。でもでも、チカだって、いっちゃんを好き! 大好きなんだもんっ。
 いっちゃんがチカを特別に見てくれてるうちは、別れない。
 いくらネガティブ思考にはまっても、ぜーったいに! 別れませんっ!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔王を倒した勇者の凱旋に、親友の俺だけが行かなかった理由

スノウマン(ユッキー)
BL
スラム育ちの二人は、スキルを得た事で魔王討伐に旅立つ勇者と彼の帰還を待つだけのただの親友となる。 勇者と親友の無自覚両片想いのじれったい恋愛の物語。

happy dead end

瑞原唯子
BL
「それでも俺に一生を捧げる覚悟はあるか?」 シルヴィオは幼いころに第一王子の遊び相手として抜擢され、初めて会ったときから彼の美しさに心を奪われた。そして彼もシルヴィオだけに心を開いていた。しかし中等部に上がると、彼はとある女子生徒に興味を示すようになり——。

『2度目の世界で、あなたと……』 ― 魔法と番が支配する世界で、二度目の人生を ―

なの
BL
Ωとして生まれたリオナは、政略結婚の駒として生き、信じていた結婚相手に裏切られ、孤独の中で命を落とした。 ――はずだった。 目を覚ますと、そこは同じ世界、同じ屋敷、同じ朝。 時間だけが巻き戻り、前世の記憶を持つのは自分だけ。 愛を知らないまま死んだ。今度こそ、本物の愛を知り、自ら選び取る人生を生きる。 これは、愛を知らず道具として生きてきたΩが、初めて出会った温もりに触れ、自らの意思で愛を選び直す物語。 「愛を知らず道具として生きてきたΩが転生を機に、 年上αの騎士と本物の愛を掴みます。 全6話+番外編完結済み!サクサク読めます。

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

悋気応変!

七賀ごふん
BL
激務のイベント会社に勤める弦美(つるみ)は、他人の“焼きもち”を感じ取ると反射的に号泣してしまう。 厄介な体質に苦しんできたものの、感情を表に出さないクールな幼なじみ、友悠(ともひさ)の存在にいつも救われていたが…。 ────────── クール&独占欲強め×前向き&不幸体質。 ◇BLove様 主催コンテスト 猫野まりこ先生賞受賞作。 ◇プロローグ漫画も公開中です。 表紙:七賀ごふん

だって、君は210日のポラリス

大庭和香
BL
モテ属性過多男 × モブ要素しかない俺 モテ属性過多の理央は、地味で凡庸な俺を平然と「恋人」と呼ぶ。大学の履修登録も丸かぶりで、いつも一緒。 一方、平凡な小市民の俺は、旅行先で両親が事故死したという連絡を受け、 突然人生の岐路に立たされた。 ――立春から210日、夏休みの終わる頃。 それでも理央は、変わらず俺のそばにいてくれて―― 📌別サイトで読み切りの形で投稿した作品を、連載形式に切り替えて投稿しています。  エピローグまで公開いたしました。14,000字程度になりました。読み切りの形のときより短くなりました……1000文字ぐらい書き足したのになぁ。

処理中です...