恋微熱

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
1 / 4
恋微熱

【1】

しおりを挟む



「はあぁ……さむーい」
 吐息の白さにも、すっかり慣れた冬の朝。
 でも、冷たい風に頬を刺されるような感覚には、全然慣れたくはないんだけど……。
「おはよう、涼香すずか
奏人かなと! おはようっ!」
「ふっ……今日も元気だね」
 ふんわり微笑んで、奏人がそっと頭を撫でてくれる。
 冬の柔らかい陽射しに、奏人の藍色の眼鏡がキラリと反射した。
 寒空に溶けていく綺麗な光が端整な顔立ちに彩りが添えられるさまに、思わず見惚れてしまう。
「涼香、口が開いてるよ。それに、よだれが……」
「えぇっ!」
 嘘っ?
 やだ、やだっ! 奏人の前でよだれだなんて!
 泣きそうになりながら、口元を両手で隠そうとしたら、奏人に手首を掴まれた。
「嘘だよ。口が開いてたのは本当だけどね」
「ひ、ひどっ」
「ごめんね? でも、あんな可愛い顔、外で見せるからいけないんだよ?」
 覗きこんで、私の口唇に人差し指をあてがいながら囁く。
「俺以外を誘っちゃ、駄目」
 何、言ってるの? さそっ、誘うって……。
「そんなことしてないもん!」
「うーん、無自覚かぁ。さて、どうするかなぁ」
「奏人! 聞いてる?」
「はいはい。そろそろ行くよー」
「もう! 聞いてないじゃん!」
「聞いてる、聞いてる。さ、おいで?」
 にこっと悪びれずに笑って、いつも通りにさらっと流されてしまう。
 もう! その綺麗な笑顔が少し恨めしい。
 睨む私をスルーして、掴んだままの私の右手をポケットの中へ入れて彼氏が歩き出す。
 奏人のコートの左ポケット。そこは私の指定席。
 末端冷え性の私。真冬は、いくら手袋やカイロで温めても、手がかじかんでしまって、授業のノート写しにも一苦労なんだ。
 そんな私のために、奏人が学校に着くまで、ずっとポケットの中で温めてくれてるの。
 実際は、右手だけじゃなくて身体中が……ううん、気持ちまでポカポカ温められてる。
 たまに、よくわからないことを言い出したり、掴みどころがない時があるけど、奏人に想われてるってことだけはわかる。
 まあ、私のほうが何万倍も好きだけどねっ!
 もうすぐやってくる、カレカノになって初めてのバレンタイン。奏人に手作りのチョコレートケーキをプレゼントするの。
 お菓子作りが苦手な私が、とびきり可愛くて美味しいケーキを作れたら、奏人はきっとびっくりする。
 だけど、ほんとは驚く顔よりも喜ぶ顔が見たい。
 私の作ったケーキを食べて、「美味しいよ」って笑う顔が見たいだけなの。



「――涼香ちゃん、土岐ときくん。おはよう!」
「あっ。チカちゃん、おはよう!」
「おはよう。秋田もいつも元気だな」
「まあね。チカは元気だけが取り柄だから」
 ケラケラと笑って応えるチカちゃんの名前は、秋田正親あきたまさちかくん。
 こぼれ落ちそうなくらいの大きな瞳が印象的な、ふんわり可愛い顔立ちの小柄な男の子。元気が取り柄だなんて謙遜してるけど、明るい性格と分け隔てない態度で男女両方から好かれてる。
 所属してる料理部でも、アイドル的存在だ。
「俺、ちょっと部室に寄ってから行くよ。涼香、後でね」
 そう言って、奏人がそっと離した右手が急に冷たさに包まれて、寂しく感じてしまう。
 あーあ、もっと繋いでいたかったなぁ。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる

椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。 その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。 ──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。 全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。 だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。 「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」 その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。 裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。

雪の日に

藤谷 郁
恋愛
私には許嫁がいる。 親同士の約束で、生まれる前から決まっていた結婚相手。 大学卒業を控えた冬。 私は彼に会うため、雪の金沢へと旅立つ―― ※作品の初出は2014年(平成26年)。鉄道・駅などの描写は当時のものです。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

恋の終わりに

オオトリ
恋愛
「我々の婚約は、破棄された」 私達が生まれる前から決まっていた婚約者である、王太子殿下から告げられた言葉。 その時、私は 私に、できたことはーーー ※小説家になろうさんでも投稿。 ※一時間ごとに公開し、全3話で完結です。 タイトル及び、タグにご注意!不安のある方はお気をつけてください。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

処理中です...