恋微熱

冴月希衣@商業BL販売中

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恋微熱

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「はあぁ……さむーい」
 吐息の白さにも、すっかり慣れた冬の朝。
 でも、冷たい風に頬を刺されるような感覚には、全然慣れたくはないんだけど……。
「おはよう、涼香すずか
奏人かなと! おはようっ!」
「ふっ……今日も元気だね」
 ふんわり微笑んで、奏人がそっと頭を撫でてくれる。
 冬の柔らかい陽射しに、奏人の藍色の眼鏡がキラリと反射した。
 寒空に溶けていく綺麗な光が端整な顔立ちに彩りが添えられるさまに、思わず見惚れてしまう。
「涼香、口が開いてるよ。それに、よだれが……」
「えぇっ!」
 嘘っ?
 やだ、やだっ! 奏人の前でよだれだなんて!
 泣きそうになりながら、口元を両手で隠そうとしたら、奏人に手首を掴まれた。
「嘘だよ。口が開いてたのは本当だけどね」
「ひ、ひどっ」
「ごめんね? でも、あんな可愛い顔、外で見せるからいけないんだよ?」
 覗きこんで、私の口唇に人差し指をあてがいながら囁く。
「俺以外を誘っちゃ、駄目」
 何、言ってるの? さそっ、誘うって……。
「そんなことしてないもん!」
「うーん、無自覚かぁ。さて、どうするかなぁ」
「奏人! 聞いてる?」
「はいはい。そろそろ行くよー」
「もう! 聞いてないじゃん!」
「聞いてる、聞いてる。さ、おいで?」
 にこっと悪びれずに笑って、いつも通りにさらっと流されてしまう。
 もう! その綺麗な笑顔が少し恨めしい。
 睨む私をスルーして、掴んだままの私の右手をポケットの中へ入れて彼氏が歩き出す。
 奏人のコートの左ポケット。そこは私の指定席。
 末端冷え性の私。真冬は、いくら手袋やカイロで温めても、手がかじかんでしまって、授業のノート写しにも一苦労なんだ。
 そんな私のために、奏人が学校に着くまで、ずっとポケットの中で温めてくれてるの。
 実際は、右手だけじゃなくて身体中が……ううん、気持ちまでポカポカ温められてる。
 たまに、よくわからないことを言い出したり、掴みどころがない時があるけど、奏人に想われてるってことだけはわかる。
 まあ、私のほうが何万倍も好きだけどねっ!
 もうすぐやってくる、カレカノになって初めてのバレンタイン。奏人に手作りのチョコレートケーキをプレゼントするの。
 お菓子作りが苦手な私が、とびきり可愛くて美味しいケーキを作れたら、奏人はきっとびっくりする。
 だけど、ほんとは驚く顔よりも喜ぶ顔が見たい。
 私の作ったケーキを食べて、「美味しいよ」って笑う顔が見たいだけなの。



「――涼香ちゃん、土岐ときくん。おはよう!」
「あっ。チカちゃん、おはよう!」
「おはよう。秋田もいつも元気だな」
「まあね。チカは元気だけが取り柄だから」
 ケラケラと笑って応えるチカちゃんの名前は、秋田正親あきたまさちかくん。
 こぼれ落ちそうなくらいの大きな瞳が印象的な、ふんわり可愛い顔立ちの小柄な男の子。元気が取り柄だなんて謙遜してるけど、明るい性格と分け隔てない態度で男女両方から好かれてる。
 所属してる料理部でも、アイドル的存在だ。
「俺、ちょっと部室に寄ってから行くよ。涼香、後でね」
 そう言って、奏人がそっと離した右手が急に冷たさに包まれて、寂しく感じてしまう。
 あーあ、もっと繋いでいたかったなぁ。


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