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恋微熱
【4】
しおりを挟む「奏人? 帰らないの?」
「いいから」
もう誰も残っていない体育館は、照明も落とされていて、私と奏人のシューズの音だけが響く。
ほんとは、試合の時だけじゃなく、ここで練習する姿も見たいんだ。
「ここ、座って?」
床にベンチコートを広げて、私を座らせると自分も目の前に座る。
「さて、聞かせてもらおうかな。武田と何があった? 返答次第では、お仕置き決定だよ?」
「お仕置きって! 私はっ……」
「涼香」
冷たい声で遮られて、ひやりとする。
見上げた奏人の瞳の色に竦んだ。
怒ってるの? やだ、怒らないで。
えと、説明!
「あ、あのねっ。いつも通り部活が終わるのを待ってたら寒くなってきて、それでチョコを食べてたら武田くんが来て、俺にもくれよって勝手に食べちゃったの。あっ、チョコはね、さっき部活で作ったものなんだけど、珍しく、すっごく美味しく出来てね。でも、一個丸ごと口に入れちゃったからなかなか飲み込めなくて。それで武田くんの名前を思い出そうと、ずっと彼の顔を見てたら奏人が……」
「君の手作りのチョコを? 武田が?」
「う、うん。ほら、これっ!」
慌てて、自分用のチョコを奏人に見せる。
「トリュフと生チョコ! すっごく美味しいよ! チカちゃんにも褒められて、これならバレンタインのケーキも楽勝だわ!」
お仕置きって言葉にテンパりすぎたのと、奏人が反応してくれたのが嬉しくて、余計なことまで口走っていたことに、この時は全然気づいてなかった。
「つまり、武田は俺より先に涼香の手作りチョコを食べて、可愛く見つめられたと」
「勝手によ? あげたわけじゃないし。私、見つめてもないわよ?」
「んー。あ、これかな?」
私の言葉を無視して生チョコを取り出した彼氏が、密やかに囁く。
「涼香。口、開けて?」
「んっ」
いきなりチョコを口に押し込められて。
驚いて、奏人の指を噛んじゃうとこだった。
「そのまま閉じててね」
次に、生チョコを摘まんで指で溶かすようにしてから、私の下唇に押し当ててくる。
ゆっくりと、紅を刷くようにチョコでなぞられる。
「んーっ!」
声が出せない代わりに、目で訴えたのが伝わったのか。指についたチョコを舐めとりながら、にっこりと答えてくれる。
「ん? 美味しくしてるだけだよ」
言うなり、下唇をペロっと舐められた。
「ふっ……甘いね。もう口の中のチョコは溶けた?」
眼鏡を外して、今度は優しく唇が重ねられる。
身体が火照る。
奏人から送り込まれる熱が、じわりと全身に広がって、じんと痺れたように動けない。
「その表情、ヤバいね」
「……んっ」
こんなキス、初めて。
深く深く、甘さを分け与えるように。
分かち合いながら熱く蕩けてく。
「涼香?」
最後に、唇からはみ出たチョコを舐めとって、大好きな人が囁く。
「俺以外を誘っちゃ、駄目。――俺、妬くよ?」
艶やかな笑みに、また熱が上がった。
【了】
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