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恋微熱
【3】
しおりを挟む「じゃ。涼香ちゃん、またねー」
「うん。チカちゃん、今日もありがとね。バイバイ!」
体育館へと続く渡り廊下の手前で、チカちゃんと別れる。
奏人、まだかなぁ。
部活の見学は禁止されてないから、覗きに行っても怒られたりはしないんだけど……。
あ、出てきた!
何人かのグループに分かれて、ぞろぞろと生徒達が歩いてくる。
その中から、睨むような強い視線を投げてくる人と目が合った。バスケ部のマネージャーさんだ。
この人、苦手。前に奏人に誘われて練習を見学してた時、このマネージャーさんの視線が怖くて、それ以来、行かなくなった。
だから、部活の後も、こうして渡り廊下の手前で待つことにしてるの。
チカちゃんには、彼女なんだから堂々としてればいいって言われるけど、私のせいで奏人が悪く思われたりしたら嫌なんだもの。
視線を逸らして、空を見上げる。
沈みかけた夕陽の周りにグレーの雲がかかって、空全体が濃藍色に変化しようとし始めている。気温がぐっと下がったのを感じた。
「うー、寒いよぉ」
あっ、そうだ!
ふと思いついて、鞄の中からチョコを入れた袋を取り出した。
チカちゃんが、自分の持ち帰り分を分けてくれたんだぁ。「待ってる間、お腹がすくでしょ」って言って。
チカちゃんってば、時々、男の子なのを忘れるくらい女子力が高いんだよね。
袋からココアをまぶしたトリュフを取り出して、ポイって口に放りこんだ。
「あっれー、白藤ちゃんじゃーん!」
えっ、誰? バスケ部の人かな?
「土岐を待ってるの? お、チョコじゃん! 俺、腹減ってたんだよ。ね、一個くれよ。いいよなっ?」
一方的に喋って、勝手にチョコを奪って食べ始めたこの人は、いったい、誰?
せめて名前を聞きたいけど。生憎、私の口の中にはさっきのトリュフが居座ってて喋れない。
丸ごと放りこむんじゃなかった。
もぐもぐしながら、一生懸命名前を思い出そうと顔を見つめてみる。
私の名前を知ってるってことは同じ学年なんだろうけど、全然思い出せない。
試合の応援に行っても、奏人しか見てないからなぁ。私、ダメダメだぁ。
見上げたまま落ちこんでたら、急に視界が暗くなった。
「なぁ、白藤ちゃん。それって誘ってんの?」
え?
「そんな瞳で男をじっと見てたら、相手に勘違いされても文句言えないぞー?」
いつの間にか、目の前に顔を寄せられてたことに、今さら気づいた。
や、やだ! かなっ……。
「何、してんの?」
明るさを取り戻した視界と、大好きな人の声。
「なぁ、何してんのって聞いてんだけど? 武田」
あ、この人、武田くんていうんだ。名前、覚えたよ。
それよりも、奏人。武田くんの首を後ろから締め上げてるから、返事をしたくても声出せないんじゃないかな。
「涼香、大丈夫?」
聞かれて、こくこくと大きく頷く。
「何? 話せないくらい、ショックだったの?」
「え……? あ、あれ? チョコ食べてたはずなのに、もう無い!」
「ふっ……何それ」
ふわっと口元を綻ばせるのと同時に、武田くんを解放する。
「武田。次に同じことする時は、この首をねじ切られる覚悟でやれよ」
どこからこんな声が出るのか。寒気がするほどの凄みのある口調で言い放つと、武田くんを突き飛ばす。
「なんだよぉ。ちょーっと、ふざけただけじゃんかぁ。白藤ちゃん、まったねーっ!」
「〝また〟は無い」
低い奏人の呟きを聞きながら、へらへらと走り去っていく武田くんを見送った。
ふと、あることを思い出して。奏人の背中をバシンと叩く。
「もうっ、奏人ったら! さっきの台詞、この前、観た映画の台詞よね。迫真の演技でびっくりしたわぁ」
「なんだ、覚えてたか」
「それくらいは覚えてるもん」
「今朝、俺が言ったことは覚えてないのに?」
今朝? 何だっけ?
「俺以外を誘っちゃ、駄目」
「誘ってないよ! 名前を思い出せないから、ずっと顔を見てただけだもん」
「……ちょっとおいで」
私の荷物を持つと、手首を掴んで体育館へと戻り始めた。
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