妖(あや)し瞳の、艶姿

冴月希衣@商業BL販売中

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散ずる桔梗に、宿る声 【六】

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「光成殿。光成殿が友誼《ゆうぎ》に厚い方だということは、充分に伝わってきた。が、ここは、ご同僚のために引いてくれぬか? 土佐はこのような様相をしているが、霊獣《れいじゅう》なのだ。悪さなどせぬゆえ、安心して任せてほしい」


「霊、獣……わ、わかりました。気が動転して、おかしなことを申し上げてしまいました。お恥ずかしいです。あの、建殿のお手当てをどうぞよろしくお願いいたします」


 優しく諭してくださる基射様に頭を下げ、俯いたまま、さっと脇にどいた。恥ずかしすぎて、顔が上げられない。


 役に立てるわけもないのに出しゃばってしまい、思い出すのも恥ずかしい発言をしてしまったことが、ひどく悔やまれる。


 ああああぁ! 私は、なんて馬鹿なことを口にしてしまったのだろう。


 いくら、狗神《いぬがみ》が恐ろしい様相をしていたからといっても、あんな馬鹿なことを堂々と叫ぶなど、どうかしている。


「光成様?」



――ぴくんっ


「あ……真守、殿?」


 羞恥にまみれ、小さく縮こまっていた私に、背後から声がかけられた。


 居たたまれなくて皆様に背を向けていたのだが、呼びかけに応じて振り返れば、真守殿が私を見ていた。建殿の背に手を回し、その身を支える体勢で。


「お付き添いの蔵人様が、光成様をお呼びになられていますよ」


「えっ?」


 建殿が? 私を呼んでいる?


 何の用で? 無理です。今、恥ずかしい発言をしたばかりなのに無理です。呼ばれても行けません。


「……っ、建殿! お気がつかれたのですか? 大丈夫ですかっ?」


 無理だ。傍になど行けない。


 そう思っているのに、気がつけば、弾けるように建殿のもとへと駆け寄っていた。


「建殿!」


「あ……光、成?」


 傍近く駆け寄ってみれば、既に基射様の指示のもと、狗神《いぬがみ》による処置が行われた後だった。


 それで、話ができるほどに回復なされたから、私を呼んでくださったのだろうか。


「建、殿……」


 真守殿に支えられ、力なく笑う姿に、きゅっと胸が締めつけられる。


 自らの力ではまだ起き上がることもできないのに、私に笑いかけて……安心させようというお気遣いですか?


「お前、どこも痛まないか? 妖猫から守ることしか考えてなかったから、お前の身体ごと勢いよく地に倒れ込んでしまったのだが。怪我、してないか?」


「……っ」


 その上、私の身を案じる御言葉だけを口に出される。


「大丈夫、です。どこも、何ともありませんよ。建殿のおかげです。助けてくださり、ありがとうございました」


 だから、胸がいっぱいになった私は、先ほどは言えなかった御礼の言葉を、ようやく述べることができた。


「そうか。お前に何事もなくて、本当に良かった」


 真守殿の腕に身を預け、ふわりと微笑む命の恩人と同じ笑みを、私らしくもなく浮かべてしまう。


「ところでだな、光成」


「はい、何でしょう」


 穏やかな、優しい心持ちで会話もできる。


「お前、先ほど、私の傷を心配して『建殿を助けてください。とてもとても、本当に大切な方なのです』と言ってくれたろう? あれ、すごく嬉しかったぞ」


「う……っ」


 浮かべていた笑みが、瞬時に固まった。


「き……ききっ……」


 聞こえていたのですか? 聞いていたのですか? 私の恥ずかしい、あれを。あなた、白目をむいていたではありませんか!


「いやぁ。お前が、そんなに私のことを大切に思ってくれていたとは知らなかったよー」


 白目をむき、気を失っているように見えた、あの時。今にもかき消えてしまいそうな、おぼつかない様子だったのに。しっかりと聞き取っていたというわけですか!


「それほどに大切な同僚であり、友である私なのだから、これからは私の失敗のひとつやふたつ、広い心で見逃し。尚且つ、笑って尻拭いしてくれると期待しているぞ? ふははっ」


 ご自分の都合の良いように……。


「お前と私は、そういう仲なのだろう? 何せ、私の傷を狗神《いぬがみ》の代わりに舐めてくれようとしていたくらいだからなっ」


「……っ」


 うああぁっ!


「いやぁ、私は本当に良き友を持っ……うぶっ!」



――ぐぐっ


「お静かになさい」


「ぐふう、っ!」


 もう、聞いていられない。


 それ以上は、言わせませんよ。


「黙って聞いていれば、いつまでもぺらぺらと。妖《あやかし》につけられた傷なのですから、大事をとるべきでしょう? さ、私が、安静にするお手伝いをして差し上げます。今すぐ、目と口を塞ぎなさい」


「うっ、ぐふぅ、っ!」


 放っておけば、延々と無神経なお喋りを続けるだろう口を封じるため、頬に指を食い込ませ、墨を吹く蛸のようなお顔にして差し上げた。


 ついでに、もう片方の手で両の瞼をぐっと押さえ、無理矢理に目も閉じさせる。これ以上、私の顔を見られないように。


 真っ赤に火照った顔など、決して見せられません。


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