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特別な名 #2
しおりを挟む下宿を取りやめにすると言われなかったのが、救いだ。それは、ここで研究を続けていいということ。期間満了の十二月中旬まで。
「……っ、うーん!」
布団に寝転がって、大の字になる。限界まで両手足を伸ばし、深呼吸。
和室で寝るなんて、ひさしぶりだ。
天井が高く、松竹梅の彫刻がなされた欄間があるここは、考古学の研究者たちのために開放されているという、客間のひとつ。
備え付けの書棚には、興味を引かれるタイトルの背表紙がずらりと並んでいる。神田か神保町の古書店に通わなければ、お目にかかれない書物ばかりだ。出来れば、毎晩でも読み耽りたい。けど、今日は――。
趣のある木目の天井を見つめ、ゆっくりと目を閉じる。
「このまま、何も考えず眠ってみるか」
そう、ひとりごちながらも、脳裏に浮かぶのは、あどけない笑み。
冷静沈着でドライ。無駄は切り捨て、合理的に。を信条にしてきた自分を、後先考えずに感情のまま突っ走らせた、初琉の笑顔……。
「……眠れん」
いったん睡魔に身を委ねてみたものの、やはり精神の一部はどこか高揚しているようだ。すぐに、目が覚めてしまった。
「煙草でも、吸うか」
この時間、この家の住人は下の階には居ない。
一階は、キッチンとリビングダイニングと客間。家族全員のプライベートルームは、二階にあるからだ。
この客間は縁側に面してもいるから、そこから庭に出ることも可能だが。
「玄関に出よう」
庭より、外に出たい。門の外、家の敷地外から星を眺めてみたい。なぜか、強くそう思った。
スマホのライトを頼りに、静かに外に出る。途端、むっとする青草の匂いに包まれた。
「……あちぃな」
夜とはいえ、エアコンの効いた室内との落差に思わず萎えかけながらも、歩みを進める。
門は、開いたままだ。
おいおい、物騒だな。いや、田舎って、こういうもんなのか?
のどかな田舎の良さと防犯意識の低さとを天秤に掛けつつ、門扉に手をかけて夜空を見上げる。ここ何年も星空を見るなんて、したことがない。
だから、東京の星空との違いなんて。
「全っ然、わからん!」
「ナニがぁー?」
「おわっ!」
場には自分ひとり、完全に独り言のつもりでいたから、文字通り飛び上がった。
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