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特別な名 #1
しおりを挟む「――では、これで失礼します。お時間を取っていただき、ありがとうございました」
「……いや。あー、宮城くん。悪かったね」
「いえ、謝罪などなさらないでください。これぐらいで諦めませんから、僕」
「あー、うん。そうか……ははっ」
正座の状態で深く礼をする俺の頭上に、乾いた笑いが落ちる。榊教授が発したその声はすぐに夜のしじまに溶け、再度の目礼ののち、教授の部屋を後にした。
「ふうぅ……え? うわっ! もう、こんな時間か」
自分にあてがわれた部屋へと戻る途中、何気なく確認した腕時計の針の位置を二度見することになった。長い溜め息は、驚きと苦笑に変わる。
「ははっ! 二時間も粘ってたんだな、俺。嘘みてぇ」
経過時間を確認し、先ほどの教授と同じ、乾いた笑いが俺の口からも漏れ出た。
俺にあてがわれた部屋は、一階の奥の和室。庭に面した窓の前で胡座をかいて、夜空を見上げる。星の明滅を辿りながら肩の力を抜き、深呼吸とも溜め息ともつかない、微妙な吐息を零す。
「それにしても、けんもほろろとは、こういうことを言うんだな」
けんもほろろ。取りつく島もない。全く、相手にしてもらえなかった。
まぁ、そりゃそうだ。
この家に来て、たった数時間。それで、初対面のそいつが『あなたのお嬢さんに惚れました』って、ぶちかましたんだ。信用されないし、喜ばれるわけがない。
けど、榊教授は怒ってはいなかった。怒鳴られ、殴られることも承知の上でのことだったが、それは無かった。『帰れ』とも言われなかった。
『ここに、何しに来たんだ』とか、『考古学研究を舐めてるのか』とか。きつく罵倒しても、おかしくない相手だろうに。
本人の前にその父親に先に告白するなんて、普通に考えればおかしな話だ。
が、ここには考古学研究の為に来ているわけだし。これから三ヶ月も下宿させてもらうのに、コソコソしたくなかった。
堂々と、初琉を構いたい。
そう思ったから宣言しに行った。外堀を埋める、というのとは少し違う。無謀で恥知らずな若造と思われるのは覚悟の上で、それでも想いは止められなかった。
「ふぅ……」
今度の吐息は、溜め息だと自覚してる。長く息をつきながら瞑目。榊教授の困惑した表情が思い出される。
そう、ただ困惑していた。怒りでも嫌悪でもなく、困り切った表情。
あれは、どういう反応なんだろう。
それでも、俺の気持ちは迷惑だと、はっきり言われた。受け入れられない、と。
だから、初琉にも絶対に気持ちを伝えてくれるなと、強く念押しされた。
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