からくれないに、色づいて【Eternity -エタニティ- シリーズ】

冴月希衣@商業BL販売中

文字の大きさ
9 / 68

特別な名 #1

しおりを挟む



「――では、これで失礼します。お時間を取っていただき、ありがとうございました」

「……いや。あー、宮城くん。悪かったね」

「いえ、謝罪などなさらないでください。これぐらいで諦めませんから、僕」

「あー、うん。そうか……ははっ」

 正座の状態で深く礼をする俺の頭上に、乾いた笑いが落ちる。榊教授が発したその声はすぐに夜のしじまに溶け、再度の目礼ののち、教授の部屋を後にした。

「ふうぅ……え? うわっ! もう、こんな時間か」

 自分にあてがわれた部屋へと戻る途中、何気なく確認した腕時計の針の位置を二度見することになった。長い溜め息は、驚きと苦笑に変わる。

「ははっ! 二時間も粘ってたんだな、俺。嘘みてぇ」

 経過時間を確認し、先ほどの教授と同じ、乾いた笑いが俺の口からも漏れ出た。

 俺にあてがわれた部屋は、一階の奥の和室。庭に面した窓の前で胡座をかいて、夜空を見上げる。星の明滅を辿りながら肩の力を抜き、深呼吸とも溜め息ともつかない、微妙な吐息を零す。

「それにしても、けんもほろろとは、こういうことを言うんだな」

 けんもほろろ。取りつく島もない。全く、相手にしてもらえなかった。

 まぁ、そりゃそうだ。

 この家に来て、たった数時間。それで、初対面のそいつが『あなたのお嬢さんに惚れました』って、ぶちかましたんだ。信用されないし、喜ばれるわけがない。

 けど、榊教授は怒ってはいなかった。怒鳴られ、殴られることも承知の上でのことだったが、それは無かった。『帰れ』とも言われなかった。

 『ここに、何しに来たんだ』とか、『考古学研究を舐めてるのか』とか。きつく罵倒しても、おかしくない相手だろうに。

 本人の前にその父親に先に告白するなんて、普通に考えればおかしな話だ。

 が、ここには考古学研究の為に来ているわけだし。これから三ヶ月も下宿させてもらうのに、コソコソしたくなかった。

 堂々と、初琉を構いたい。

 そう思ったから宣言しに行った。外堀を埋める、というのとは少し違う。無謀で恥知らずな若造と思われるのは覚悟の上で、それでも想いは止められなかった。

「ふぅ……」

 今度の吐息は、溜め息だと自覚してる。長く息をつきながら瞑目。榊教授の困惑した表情が思い出される。

 そう、ただ困惑していた。怒りでも嫌悪でもなく、困り切った表情。

 あれは、どういう反応なんだろう。

 それでも、俺の気持ちは迷惑だと、はっきり言われた。受け入れられない、と。

 だから、初琉にも絶対に気持ちを伝えてくれるなと、強く念押しされた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

処理中です...