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秋祭りの夜 #7
しおりを挟む「そんなこと出来ないよ、宮城。だってさ……」
飯田が一歩下がり、肩にかけた俺の手が離れる。
「俺、たまちゃんより自分の研究を優先してんだぜ?」
あ……。
「今回だって、俺の都合に合わせてくれたから少ししか一緒に居られないのに、たまちゃんは会いに来てくれた。確かに、かなり強烈な友だちだけどさ。俺が待たせてる間、たまちゃんと一緒に過ごしてくれてる子に、感謝はしても文句なんか言えないよ」
「俺のために怒ってくれてサンキューな」と続け、笑って車に駆け戻った背中を、今度は引きとめなかった。
あぁ……だよなぁ。
けどさ、飯田。いくら感謝してる相手でも、今夜同じ宿に三人で泊まるっつーのは、どうなんだ? きっとお前がシングルルーム行きだぞ?
まぁ、それもわかってんだろな。『かなり強烈な友だち』って言った時のお前の目、さながら死んだ魚みたいだったもんな。
「あらぁ? 金魚すくいは無いのかしらぁ? 屋台の数も少ないし、何だか寂れてるわねぇ」
飯田に買ってもらったジュースを飲みながら、屋台の店主の前で失礼なことをのたまう女に、ぴくりと反応してしまう。
「秋祭りは、作物が無事に収穫出来たことを神様に感謝して、供物を捧げることをメインにしたお祭りなんだ。季節的にも、夏祭りに比べて屋台の数が少なくて当たり前なんだよ」
前の俺なら、無視して完全スルーする場面。が、初琉の地元の祭りに向けられた侮蔑の言葉に、勝手に口が動いていた。
秋の祭礼の意味も理由も知らんヤツが、米を食うな。
まぁ、ダイエットがなんちゃらとか言って炭水化物を抜いてるんだろうヤツには無駄か。糖質が不足して、脳や神経への栄養が行き届いてないんだろうからな。
「わぁっ! 宮城くん、よく知ってるわねぇ。素敵ーっ! ねぇねぇ! 他にも、何かお祭りウンチク教えてぇ! レナだけにっ」
しまった!
と思った時には、もう遅かった。
たまちゃんと組んでいた腕をあっさりと離した女が、俺の腕にぶら下がるようにその手を絡めてきた。
「たまちゃん! 飯田くん! ふたりで別行動してきてもいいわよぉ! こっちはこっちで、仲良くやっとくからねぇ!」
すかさず、前を歩くふたりに声をかけ、ニンマリ笑いながら俺を見上げてくる。コイツ、このチャンスを狙ってたのか。
仕方ない。はなはだ不本意だが、もの問いたげにこちらを振り返ってくる飯田に、『先に行け』と手振りで示す。
あーあ。俺にとってはアンラッキーだが、飯田とたまちゃんのために我慢することにした。三十分程、適当に相手しとくしかねぇな。
これ見よがしに溜め息をついた俺を見ても、一向に動じずに笑う女を横目で見おろす。
くっきりと厚めに塗られた口紅の色に、無性に苛立ちが沸き起こった。が、舌打ちするのだけは何とか堪え、時刻の確認だけをする。
本音は、もう帰りてぇ。
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