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秋祭りの夜 #9
しおりを挟む振り向きざまに、真っ向から視線がぶつかった。
ペットボトルを手に斜に俺を見た十束と、身体を捻って見据えた俺。お互い、言葉は発しない。感情も見せない。そして、目線も外さない。
「ねぇ、宮城くぅん! 早く行こ? レナ、疲れちゃったぁ。どっかでぇ、休憩しよっ?」
が、割り込んできた雑音が、俺たちの緊張感をぶち壊した。
それにほんの僅か顔をしかめた俺に、十束の口元が上がる。嘲笑の形に。
加えて、蔑むような視線を眼鏡の奥から投げかけてから、踵を返していく。その姿をただの苛つきだけで見送れたなら、良かったのかもしれない。
けれど、俺は見てしまった。十束が手に持っている、見覚えのある物を。オレンジ色の薄手のカーディガン――――初琉のものだ。
「おいっ!」
気づけば、声をかけていた。
「アイツ、来てるのかっ?」
女の手を思いっきり振り払い、急いで煙草を揉み消しながら尋ねていた。
俺の問いに首だけを動かし、こちらに向けた十束の視線は。
「あん。宮城くんったら、ひっどぉい!」
俺ではなく、振り払ったはずの腕に再びしがみついてきた女をチラリと流し見ただけで、また前方に戻っていく。
「十束っ!」
くそっ! 名前を呼んでも止まりやがらねぇ。
「待てっつってんだろ! このスカシ眼鏡野郎がっ!」
これには反応したのか、足早に進んでいた十束が、ぴたりと止まる。
「小学生並みの口の悪さですね。だいたい、君……」
「アイツ、居んのか? 来てんのかっ?」
眼鏡のブリッジを中指で押し上げつつ始まった相手の言葉をスルーして、聞きたいことだけを前のめりで聞く。
「はあぁっ……全く!」
普段の紳士ぶりはどこへ行ったのか、苛つき全開の溜め息に続いて、吐き捨てるように十束が言葉を返してきた。
「君は本当に、年上に対する言葉遣いがなっていない。そんな無礼な相手に、僕が言うことは何もありませんよ」
ゆっくり身体を回して、今度は真っ直ぐ俺を向いて立つ。
「だいたい、はーちゃんが祭りに来ていたとして、君には関係ないでしょう?」
冷ややかな視線が、俺を上から下まで舐めおろした。
「女性連れの君には、ね」
「……っ。これはっ……」
「失礼。僕も、もう行かなくては。“連れ”を待たせてるのでね。君も祭りを楽しめばいい。その女性と」
「おい! 待てよっ!」
「あっ、やだぁ! もうお話終わったんなら、今度はレナの相手してくんなきゃ駄目ーっ!」
さっと踵を返して曲がり角を曲がってしまった十束を追いかけようと、再び女の手を振り払えば、今度は腰に抱きつかれた。
「よくわかんないけどぉ。あの人の言う通り、私と楽しいコト、しよっ?」
視線を合わせた俺に「ねっ?」と念押ししてくる、綺麗にメイクされた女の顔。その口元の笑みを見て、俺の心は決まった。
「なぁ。『楽しいコト』って、例えばどんなこと?」
腰に回された女の手首に、指を這わせる。一度、上下に撫で、声に“色”を乗せるだけで――。
「あん……宮城くんたらぁ。わかってるくせにぃ」
しがみつかれた両手は、女が自ら簡単に剥がす。そして、今度は俺の首に回そうとしてくる手を素早く拘束するだけ。
「ごめん、たまちゃんの友だち! 悪いけど俺、このまま帰るから飯田に伝えといて。たまちゃんにもよろしく。じゃっ!」
「たまちゃんにもよろしく」の時点で、女の手を放り投げるようにして駆け出していた。
十束が姿を消した曲がり角を目がけて。
「ちょっ、宮城くん待って! どこ行くのっ? あと、『たまちゃんの友だち』って無駄に長く呼ばなくていいじゃない。私、レナよぉっ!」
後ろから女の叫びが飛んできたが、一応謝ったし振り向かない。
それに女の名前を覚える気がなかった俺にとっては、『たまちゃんの友だち』で充分だ。
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