からくれないに、色づいて【Eternity -エタニティ- シリーズ】

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試される覚悟 #5

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「さて、研究成果については先ほども確認したが、東京に帰る日程の変更は無い、ということで良いのかな?」

「そう、です」

「そうか……」

 俺の滞在日程は予め伝えてあるのに、わざわざ確認した後の、この長い沈黙。次に何を言われるのかと教授の表情を窺ってみても、いつもと変わらない穏やかで柔和な表情のままだ。

 だが、表向きは、ということなんだろう。俺をわざわざ自室に呼んだんだ。初琉のことに触れないはずはない。

「零央くん」

「はいっ!」

 うわ、小学生みたいな元気な返事しちまった。しかも、ちょっと声、上擦ってたし。

「ふふっ……いや、悪いね。笑ったりして」

「あ、いえ」

 やべぇ。恥ずかしい。俺、マジでこんなキャラじゃ……。

「娘のことなんだが」

「……っ、はい」

 柔和な表情から一転、厳しく硬い表情に変わった。声色も。

 いきなりの切り出しに、俺も正座する背筋をぴんっと伸ばし、表情を引き締める。

「君の気持ちを聞かせてほしい。娘に対しての、だ」

 直球の問いかけ。膝に置いた拳に、ぐっと力がこもった。

「好きです」

 ゆっくり、力を込めて、強く言い切った。次いで、短く息を吸い込み、言葉を続ける。

「俺の、ひと目惚れです。こんなことを申し上げるべきじゃないのは承知の上で言いますが、初めて自分から好きになった女性が初琉さんです」

 ひと言、ひと言。言葉に込められるだけの想いを、全てつぎ込む。

「研究のために来ておいて何をしてるんだと、呆れられるのも非難されるのも承知です。けれど、出逢ってしまったから――――初琉さんは、僕にとって、全てを守りたいと思えるひとなんです」

 俺の、覚悟を――。

「彼女の抱えているもの、全てを一緒に引き受けたい。彼女の思いも涙も、全て支えていきたいんです。あ、でもまだ……片想いですけど」

 初琉が何かしらの疾患を抱えていることも承知してると伝わるように、そこに言及した。

 あと、最後のは余計だったかと思ったけど、現状ではその通りだから、そこも正直につけ加えた。

「……ふっ、ふふふっ」

 長い沈黙の後、教授がおかしそうに笑い出す。

「すまん、零央くん。笑うところじゃないのはわかってるんだが。あまりにも、壮吾から聞いていた通りだから、つい、ね」

「……え?」

 壮吾? というと、十束だな。おい、『聞いていた通り』って、何だ。

 まさかアイツ、あの夜の俺の『告白』を……?

 くっそう! あのインテリ眼鏡野郎。教授に何、吹き込んでくれてんだ!

「まぁ、今ので納得出来たよ。君が本気の言葉で伝えてくれたということがね」

「教授……」

「万事、そつのない対応をする君が、自分のことを『俺』と言っていたし。それだけ、何も飾らず、素の心をさらけ出してくれたということだろう? 充分だ」

「えっ?」

 マジかっ? おかしいな、ちゃんと『僕』っつってたつもりなんだが。

「それに、壮吾も言っていたよ。『途轍もなく恥ずかしいことを堂々と宣言出来るような人間が、はーちゃんには必要なんですよ』とね。零央くん、壮吾にどんなことを言うたんや? ちょっと興味あるなぁ」

「え……」

 『どんなこと』って聞かれても、アレなことしか言ってませんが?

 なんて、答えられるわけもなく。曖昧な笑みを浮かべて、心中で十束の澄ましかえった眼鏡ヅラに罵倒の嵐を向けるのみだ。

「さて、では今度は、私の話を聞いてもらおうか。真摯な告白の後に、『まだ片想い』だとつけ加える君にね――――娘の、病気についてだよ」

「……っ、はい」

 笑顔から真剣な表情に戻った教授の前で、再度、居ずまいを正し、語られ始めた声に耳を傾ける。

 俺の覚悟を試される夜は、まだ始まったばかりだった。


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