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試される覚悟 #4
しおりを挟む「はーちゃん、零央くん、お帰り。ふたりとも、今日も仲良しで微笑ましいなぁ」
「奥さん、ただいま帰りました」
家の中に入ると、玄関横の納戸から出てきた奥さんがにこやかに出迎えてくれた。その言葉通り、本気で微笑ましく思ってくれてるとわかる笑顔で。
「おばあちゃん! べ、別に仲良うなんかしてないし!」
おい。何、慌ててんだ。おまけに、勢いよく後ろに回して隠したその手、俺と繋いだまんまだぞ?
まさか、奥さんからは見えてないとでも思ってんのか? 丸見えだ。丸見え。
「はいはい。ほな、夕飯の支度始めましょか」
その証拠に、ニンマリ笑った奥さんに抗議の声をスルーされてるじゃねぇか。
「……はぁい」
スルーされたことはわかったのか、少し膨れながら返事をしてから、俺の手は離された。
離れ際、チラリと向けられた目の下がピンク色に染まっているのを見せられ、不意打ちにドクンっと鼓動が跳ねる。
おいぃ、そんな風に目ぇ潤ませてんなよ。食欲で誤魔化そうとしてる男の事情、少しは気遣ってくれ。全く!
「初琉せんせー、どれくらい、おろせばいいんですかー?」
「それ全部」
「え? これ、全部? 大根一本、丸々全部おろすのか?」
初琉に手渡された大根とおろし金を手に、結構重みのあるソイツを横目でチラッと見てから、また初琉に目線を戻す。
「さっきからそう言うてるやん。早よ食べたいんやったら、チャキチャキと手ぇ動かしてよ」
「お、おう。任せとけ」
マジか。五人ぶんのみぞれ鍋って、大根おろし、そんなに必要なのか。
呆然としたものの、言われるままに取りかかった。職人の手作りだという大きな銅製のおろし金でガリゴリと音を立てながら、大根をおろしていく。
大根おろしってなかなか時間のかかる作業なんだなぁと世間の主婦の皆さんを尊敬しつつ、懸命におろし続ける俺の横には、土鍋に入れるスープの味付けをしたり野菜を切ったり、てきぱきと準備を進める初琉の姿がある。
手際の良い動きを見ながら、その準備に遅れないよう、俺も作業に没頭した。
「出来た!」
「ふふっ、頑張ったね。ありがとう。大根おろしは男の人がいてくれると助かるわ。さ、居間に運んでくれる? 食べよ?」
ポンポンと肩を叩いてくる初琉のねぎらいを受ける。
こんなことで良いならいつでも手伝ってやるのに、と言ってやりたかった。だが、俺の『いつでも』には期限がある。
「おう。腹、減ったぁ」
結局、何も言わずにヘラヘラ笑って、初琉の後ろに続いた。
「――零央くんがうちに来てくれてから、もうどれくらいになるかな?」
鍋をつつきながらの団欒の途中、ふと思い出したように榊教授が問いかけてきた。
「約二ヶ月半、です」
「そんなに経ったか。研究は進んでるかい?」
「はい。教授のご紹介のお陰で、考古学研究所の蔵書の閲覧も進んでますので」
研究は、順調だ。
考古学研究所でのデスクワークだけでなく、発掘調査の現場でも、当初の予定以上の成果を上げることが出来ている。
何より、榊教授の紹介と言うのが大きい。教授の紹介と言うだけで、考古学研究所でも発掘現場でも、会う人、会う人、皆が俺に良くしてくれるんだ。
榊教授の人望の厚さが、どこに行っても俺を助けてくれる。ここでの研究は、本当に楽しい。
が、順調であればあるほど、それが違う意味で俺を追いつめる。
「零央くん。この後、時間を取れるかい?」
「はい。大丈夫です」
夕食後、教授から部屋に呼ばれた。こんなことは、ここに来てから初めてのことだ。必然的に、その理由への可能性を思い浮かべる。
初琉――――彼女のこと以外に、考えられない。
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