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繋ぐ絆、燃え立つ恋歌 #4
しおりを挟むゆっくりと告げた言葉は、思いの外、初琉に衝撃を与えたらしかった。告げた途端、薄い肩がぴくんと跳ねて俺の胸に当たり、そのまま顔を隠すように深くうなだれて微動だにしない。
数秒のち、俯いたまま、声が張り上げられた。
「そ、そう! 急やね。もう研究は終わりそうなん?」
「あぁ」
初琉、お前……。
「……そう。えっと……あっ、そうや! 送別会せなあかんねっ?」
「おい」
声が……。
「ご馳走いっぱい作って、盛大にお見送りしたげるから安心してね!」
「おい、こっち向けって」
俯いたまま、会話の相手である俺を一切見ようとはせずに次々と放たれていく初琉の声と身体は、隠しようもなく震えている。
それが、明るく告げてくる内容とは裏腹な感情を簡単に想像させるから、初琉には見せられない笑みが口元を僅かに緩ませていくのを止められない。
お前、俺がいなくなると知って泣いてんのか?
同時に、そんな表情をさせたことを激しく後悔もしたから、肩に手を掛けて振り向かせようとしたんだが、柵を両手で掴み、首を振って抵抗された。
おい、いい加減にしろよ。泣いてるお前を放っておくわけないだろう? 俺は人前だってことをいつ忘れてもいいんだぞ?
「ケーキは何がいい? 特別にリクエストには全部応えることにするから、何でも言ってくれていいよー」
「初琉っ!」
もう、我慢出来なかった。
明らかに棒読みとわかる鼻声なんて、聞いてられない。華奢な肩と腕を掴んで身体を半回転させ、勢いよく腕に閉じ込める。
そのままうなじを鷲掴みにして力を込め、抗っても無駄だということを示してやったが、腕の中から盛大な嗚咽が聞こえてきたことで、すぐにその手を緩めることになる。
「こんなに泣いて……何が送別会だ。ふざけんなっ。あぁ、もう! 泣きすぎだろっ!」
いったん身体を離し、頬を濡らすものを親指で拭ってやったが、次から次へと溢れて止まらない様子に、つい声を荒げてしまった。
俺のために、こんなに泣きやがって、と。
「零央……離して」
「黙れ。まだ話の続きがあるのに勝手に先走って泣くようなヤツは、もう喋るな。これ以上、余計なこと言ったら口塞ぐぞ」
「……続き?」
あぁ、もう! 今か? 言うしかねぇか? タイミング悪いにもほどがあるが、仕方ない。
「初琉。お前、短大を卒業したら東京に来てくれないか? いや、絶対に来い」
「……」
おい。なんで無言だ? 気づけよ、意味に。
え? もしかして、通じてない? まさか、嘘だろ?
……マジ? 俺、失敗したのか? まさかとは思うが、一応確認するか?
「初琉? 聞こえたろ? 返事は?」
「……もう一回」
「あ?」
「もう一回! 短大が何って?」
「はあぁ? 確実に聞こえてただろ! 馬鹿か!」
同じ台詞を繰り返せってか? 勘弁しろよ。
囲った腕の中で、頬を光らせたままの相手は俺の上着に手をかけ必死に背伸びして、目を合わせようとしてくる。
や、待て。真っ直ぐすぎるその瞳を見つめ返すには、恥ずかしすぎる。その視線から、今は逃れさせてくれ。
「アホちゃうもん! 短大卒業して東京に行って、私、何するん?」
「聞こえてんじゃねーか! 何するって、お前……アレだ、俺ん家に来いってことだよ」
聞こえてんのに、もう一回言わされるとか、有り得ねぇ。照れながら、同じことを繰り返し告げる俺は、さらに有り得ねぇ。
有り得ねぇが、最も大切なことをおざなりには出来ない。取りあえず初琉の両肩に手を置き、視線は景色をさまよったままだったが、小さく告げ直してやった。
『俺の家に』と、ハッキリ言い直した。
おい、言ったぞ? もうわかったろ? 頼む。通じててくれ。
「あ、そっか。卒業旅行に呼んでくれるん?」
……っ、おまっ……。
「馬鹿じゃねぇの? 旅行じゃねーよ! 嫁に来いっつってんだよ!」
「え……」
「……あ」
しまった。祈るようにして返事を待ってるところに『卒業旅行』だなんてアホすぎる質問がきて、思わず怒鳴りつけるように言い放ってた。
これ以上ないくらい真っ直ぐ、どストレートに。
くっそう、アホは俺のほうじゃねぇか。今更、口に手を当てて横向いても遅いってぇの!
自分が言い放った言葉が頭の中で反響しまくってる。顔も熱い。最悪だ、最悪!
「あーあ。柄にもなく照れると、ロクなことがないな」
だが、かえってスッキリした。もう後は押すだけだ。
口に当てた右手を下ろし、開き直った笑みを浮かべる。
「もう、聞こえなかったなんて言わせねーからな」
どこにも逃がさないよう、しっかりと抱きすくめ、唇が触れる寸前まで顔を近づけて目線を縫い止める。腹に力を込め、はっきりと発声。
「榊初琉さん。俺と結婚してください」
「……無理」
「は?」
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