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終
からくれないに、色づいて #5
しおりを挟む「……ほんま? ほんまに大丈夫? 零央のお父さん、私のこと……」
「それよりもさ。俺のほうこそ、お前んちの皆さんからどう思われてるか、めっちゃ気になってんだぞ? この点に関しては俺のほうが切実なんだってこと、お前、わかってる?」
「……え、うち? なんで?」
母も病弱だった。だから気にする必要はないと言ってやってもいいが、別の話題をねじ込むほうを選んだ。今は、こっちのほうがいい。
「お前な、考えてもみろよ。『明日香村、ぷらっと散歩してきます』っつって出かけて、そこでちゃっかりお前にプロポーズして、その夜に御家族に頭下げて結婚の許可を願ったんだぞ? 榊教授がよく許してくれたもんだと思わねぇ?」
「それは……私も頭下げたし」
「それだよ。お前が俺と一緒に頭下げてくれたからだ。俺ひとりじゃ、ああすんなりとはいかなかった。だからこそ、実際はどう思われてんのか、気になるだろ? まだ学生の分際で、とかさ」
「えー、零央、そんなキャラちゃうやん。それにうちのお父さん、自分と同じ道に進む零央のこと、応援してるって言うてたよ? あ、そういえば私、聞きたいことあったんよ!」
お、何だ?
「昨日、そうちゃんがうちに来て零央の話になって……えーと、収入面の話とかね? そしたらお父さんが、零央くんならその点も大丈夫やから安心するようにって言うてたんやけど。零央、教授の助手さん以外にアルバイトでもするの?」
初琉の思考が他に逸れたのはいいが、この話題になったか。まぁ、いずれはするつもりの話だし、ついでに言っとくか。
「あー、その話な。ちゃんと話すから、こっち向いてくれる?」
窓に向かったまま、斜めに俺を振り仰いでいた身体を、正面に向き直させてから続ける。
「お前の言う通り、卒業したら研究室の助手になるわけだけど、助手の給料以外にバイトで稼ぐ気はある。つーか、もう既にそっちの仕事はかなり前からやってるんだ。出版社の翻訳の仕事。それなりの収入になってるんだぜ。後で明細書見せるよ」
「へ、へぇ、そうなん。翻訳のお仕事……あ、明細までは見なくてええけど。でも零央、発掘調査であちこち行くのに大丈夫なん? その仕事、続けられるの?」
「ん? お前んちに下宿してた時もやってたぞ」
「えっ、そうやの?」
「PCが有れば、どこにいてもやり取り出来るからな。むしろ、俺向きの仕事だ。それと、ついでだからこの話もしとくな。いざという時のためのまとまった貯蓄もある。母さんの遺産なんだけど」
「お母さん、の?」
「そう、そこそこあるから安心しといてくれ。この話は榊教授には既にしてあるから、『俺なら大丈夫』っつってくれたんじゃないかな」
「あ、だからそうちゃんがあれこれ心配してくれた時に、お父さんが零央をかばうように言うてたんやねぇ。でもそれなら、うちの家族にどう思われてるか気にする必要ないんちゃうの?」
収入面の安心と、二十歳になったばかりの娘を嫁に出す親心は別物だろうに。まぁ、こっちは貰う側だから、これ以上は藪蛇だな。
しかし十束のヤツ、なぁーにが『あれこれ心配』だ。教授が、俺を『かばうように』してくれたっつーことで、その場の空気がわかるぜ。なのに、なんでこのお姫様はそれに気づかねぇでニコニコしてんだか……。
お仕置き再開、だな。
「あ、そうちゃんの話したら思い出した! 零央、そろそろ下におりよう?」
「あ? 何すんだ?」
「紹介状、キャリーケースに入れたまんまやから、バッグに移しとかないといけないのよ。あれ忘れたら、明日大変やもん」
「んなの、後でいいじゃん。明日は俺もついてくんだしさ」
明日、初琉は十束の大学時代の恩師が勤務する都内の病院で検査を受ける。奈良を離れて東京で暮らすためには、転院や療養関係の手続きなど、予め済ませておくべき案件が山積みで。今回はそのための上京。
初琉にとっては、とても大事なことだ。そして俺にとっても。それはわかってる。だが――。
「え? でも、せっかくそうちゃんが手続きを……あっ、んっ」
そうちゃんそうちゃん、うるせぇよ。ひさびさに会った婚約者の腕の中で、よくそんだけ他の男の名を連呼できるな、お前。
わざとか? わざとなのか?
「ん……んんっ」
なわけねぇな。コイツが素で言ってるからこそ、こうも嫉妬心が煽られるんだ。女に執着したことのない、この俺が、だ。
初琉の口からもうアイツの名が出ないよう、意地になってその唇を塞いでるとか、滑稽すぎる。
「んっ……れ、おっ……」
「ん、何?」
そうだ。俺の名だけを、こんな風に呼んでほしいんだ。
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