68 / 68
終
からくれないに、色づいて #12
しおりを挟む「零央……好き」
「ん、俺も。そんで、俺のほうがずっと、お前に参ってる」
「ふふっ。またアホなこと言うて……逆でしょ?」
クスクスと笑いながら、初琉のほうから軽いキスが贈られてくる。
本当なのに。だってさ、この幼稚園児みてぇなキスにすら、欲情すんだぞ? 俺。ヤバすぎて、本人には言えねぇけどな。
「……ねぇ、零央?」
笑いをおさめた初琉の声色が、変わった。
「私……私ね……」
陽はすっかりと沈み、辺りは薄闇に包まれていたが、互いの輪郭ははっきりと見えていた。
初琉の頭が一度俯き、また上げられる。紫紺色の闇の中で、視線が真っ直ぐに絡み合う。
「私ね……赤ちゃん、産みたい」
「初琉……」
出産――――初琉の抱えている病気では、多大なリスクを伴うそのワードに、一瞬、返す言葉を失った。
「あー、うん。いいぞ。産んでくれ」
「え? いいの?」
すぐに気を取り直した俺のかーるい返答に、硬かった表情が崩れて戸惑いの問いかけがその声に乗る。
「ん? 産みたいんだろ? お前がそう口に出すってことは、もう決意を固めてるってことなんじゃねえの? なら、俺がすることは、一つしかない」
薄闇の中でもわかる、不安げな初琉の頬をそっと撫でる。愛おしさを込めて。
「お前の決意を受け止める。そんで後押しして、全力でサポートだ。あ、一つじゃなくなったな。ははっ!」
「ほんまや、三つやん。なんやの、もう。ふふっ」
笑い声に明るさが感じ取れる。そうだ、それでいい。
初琉の身体で出産を望むには、困難な問題にぶち当たることのほうが多いだろう。現実的に考えても、輸血しながらの妊娠生活になる可能性もある。
無事に出産までこぎつけたとして、その後に待ち受ける問題も山積みに違いない。
だが……いや、だからこそ。初琉の決意を、コイツがいだいた希望を、俺は優先する。
「おい、『三つ』だけじゃねーよ? まだ、あるぞ」
毛布ごと、初琉の身体を抱え直す。
「まずは、お前をめいっぱい愛す」
抱きしめる手に、力を込めた。
「愛して、愛して……俺がイタすぎてお前が逃げても、どこまでも追いかけて捕まえて、また愛してやる」
この狂おしい想いが、全部伝わればいいのに。そう願いながら、頬ずりを繰り返した。
「うわぁ、そんなに? ふふっ。それで赤ちゃんにも恵まれたら、私の未来、幸せでいっぱいやねぇ」
「だろ?」
もっと、笑え。抱えきれないほどの幸せで満たしてやる。
「ねぇ? たぶんやけど、零央にそっくりな男の子が産まれる気がするわ。私」
「え……それ、ヤバくね?」
「何で?」
「だって、ひとつ屋根の下にフェロモンたっぷりのイケメンがふたりも揃うんだぜ? ご近所の注目度、200%じゃねーか」
「……前言撤回。『零央よりもマシな』に訂正しますー」
「ひでー!」
「あははっ!」
声を上げて笑いあう声が薄暮の庭に響いた時、縁側の端で弱い光が灯った。
ソーラーライトが、ようやくその役目を果たしたようだ。傍らの桜の木をライトアップすることで、絵画のように見せてきている。
「わぁ、綺麗っ。冬の夜桜見物も乙なものやねぇ。ほんま、枝ぶりも色も見事やわぁ」
黒闇に浮かび上がる寒桜を気に入ったらしい恋人が、無邪気に笑い、上機嫌で愛でている。
可愛い。愛おしい。好きだ。好き。
愛してる。
絶対に、誰にも渡さない。俺だけの女。その横顔を、言い尽くせないほどの想いで俺も見つめる。
初琉。お前こそが、俺の想いを染め上げる、たったひとつの“赤”。不変の熱情の証だ。
お前だけを愛してる。愛していく――――永遠に。
-Fin-
10
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる