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愛四章
花待つ、春のうた【1】
しおりを挟む唐突に理解した。全てが腑に落ちた、と言っても良い。
「信じて、くれるの?」
口から出まかせの言い訳かもしれないのに?
「ん? だって真実なんだろ? というか、あんたが自分に都合のいい嘘をペロッとつけるような器用なヤツだったら、俺、こんなに心配性になってねぇし。堅物で融通が利かなくて、他人の面倒事まで背負い込む迂闊なアホで、そのくせコミュニケーション能力が絶望的に欠けてる馬鹿女なんだからさ」
「何それ。そこまで言わなくてもいいじゃない。いつもいつも酷いわね」
私、自分の気持ちの在処がわかった。ようやく。
「でも、ありがとう。こんな私のこと心配して怒ってくれるの、ひかる以外では宇佐美くんだけよ」
こんなに面倒くさい私の内面をここまで理解して、庇うだけじゃなく、私という人間を尊重してくれるのは。
「あ? ここでデカ女の名前を出すのかよ。はいはい、どうせ俺は二番手ですよ。けど、今に見てろよ。そのうち絶対にあんたの一番になってやるん……」
「だから、〝異性で一番〟だって言ったんだけど。伝わらなかった?」
「……は?」
「それに、とっくに歌鈴にも同じ紹介を済ませてたわよ。〝私の一番〟だって。まぁ、あの時は無自覚だったわけだけど」
「ちょっ……え?」
自分でも不思議だった。大事な親友の墓前に部活の後輩を伴っただけじゃなく、あんな風に紹介するなんて。
でも、気持ちの在処を知った今なら、わかる。歌鈴の前だから、だ。自分でも気づいてなかった無意識の想いが溢れ出たんだ。
「ごめんなさい。ほんの一分ほど前に自覚した。鈍感でごめんなさい」
「嘘……ほんと? ほんとのほんとに、俺、のこと……マジ?」
「私はこういうことでは嘘はつかないって、ついさっき宇佐美くんが言ってたんじゃなかった? あとね? いい加減、納得してくれないと、私だって恥ずかしいんだけど」
恥ずかしい。
「何回も告白させられてるみたいで居たたまれない」
こういうのを羞恥プレイって言うの?
「あ、ごめん。けどさ、俺、さっきまでめちゃめちゃヘコんでたからさ。気持ちの浮き沈みが激しくて、展開についていけてなかったわ。でも、そっか。〝恥ずかしい〟んだ。へぇ……そっか」
「あっ」
「俺のこと、異性としてバッチリ意識してんだ。ふーん」
ずっと手を掴まれたままだったと、今、気づいた。
「じゃあ、もしかしてドキドキしてる? 今」
だから、容易に身体が密着する。
「うん」
長い睫毛に縁取られた綺麗な黒瞳をこの距離で見上げるのは、実は初めてじゃない。なのに、なんだか胸が痛い。
私、知ってる。これは『好き』って気持ち。
「たぶん、してる」
「はっ! たぶんって何! ま、あんたらしいか。ははっ」
「宇佐美くん、ブーケが……お花が潰れるから、そろそろ……」
そろそろ離れてほしい。好きもドキドキも自覚したけど、まだ身体がそれに慣れない。こういう、いきなりの密着は困る。
「そろそろ限界? 仕方ねぇ。お子様に合わせてやるか」
ぷるんっとした唇をアヒルっぽく尖らせた相手は、偉そうに笑ってから解放してくれた。
年下のくせに、とことん上から目線だ。さっきまで萎れてた当人とは思えない。
「ピュアなお子様なので、お手柔らかにお願いするわ」
でも、この子が萎れてた原因は私にあるから何も言わない。
「手加減なら、ずっとしてる。正月以来、俺は彼氏のつもりでいたけど、手ぇ出してなかったろ?」
あ、そういえば。
「なんとなく遠慮があった。あんたの口から『好き』って聞いてなかったのもあるけど、先輩後輩の枠に嵌められてるのが嫌だったんだ。だから、今日を待ってた。卒業式を」
「そうしたら、肝心の私が的外れな対応だったから、あんなことになったのね」
「そうだよ。振り回されっぱなしだ。お詫びに、今すぐちゃんと告白してほしいね」
「え……」
「『異性で一番』としか聞いてない。ほら、告白、プリーズ!」
無理。
「言えるだろ。——鮎佳?」
「……すき」
無理だけど頑張ってみた。届いただろうか。手にしたブーケに顔を埋めて呟いた告白は。
もしも聞こえなかったとしても、言い直しは無理。
心臓が口からまろび出そうな緊張って、こんな感覚なんだ。生徒会の副会長として全校生徒の前に立った時でも、ここまでの緊張はしてない。
無理、無理。世の中の彼氏彼女の皆さんは、こんなことを日常的にこなしてるの?
何それ、すごく尊敬する。というか、どうして宇佐美くんは無言? やっぱり聞こえなかった?
「……おれ、も……すき」
うわぁ。
声が届かなかったのかと心配して見上げると、初めて見る真っ赤な顔の後輩がそこにいた。
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