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異神退散
285. 地の底の背教者
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地の底で男は闇に身を沈めていた。光の届かない暗闇の中でも、人をやめた身に不自由はない。異界から授かった銀の祝福は、彼に超常の力を与えた。銀の力の前では闇すらも視界を塞ぐことはできない。それどころか、この世のあらゆる物を支配しうる。まさに全能のごとき力だ。
だが、決して全能ではない。そのことを男は――ユーダスは痛感していた。
「甘く見ていた……ということでしょうね」
呟きは闇に消える。誰に聞かせるでもない独り言だ。
銀の力を授かってからこれまで力を蓄えてきた。この世界の神々と敵対することはわかりきっていたので、決して表舞台に立たずにひっそりと。カルト宗教団を隠れ蓑にして、自らの手足となる教徒を育て上げた。同時に、銀の力で獣や弱い魔物を眷属化して数を揃えた。獣では大した戦力にはならないが、それでも数は力だ。この世界を蝕み支配するための先兵として充分に力を発揮するはずだった。
雌伏の時を経て、ついに革命のとき来る。無力な神々を踏みにじり、世界を銀の力に染め上げるべくユーダスは立った。障害になりそうな運命神の使徒に懸念したほどの力はなく、最早計画を妨げる者はいないはずだった。
その計画に大きな障害が出ている。
当初の予定では、各地に放った眷属獣が侵蝕によって配下を増やし、大陸中を銀の力の影響下に置くはずだった。途中までは順調に進んでいたのだ。銀化した獣は数を増やし、ついには冒険者ギルドも手に負えないほどになった。最早、世界の支配はなったも同然だ。そのはずだった。
だが、それはならなかった。あるときから、ポツポツと侵蝕速度が鈍化する地域が出てきたのだ。原因を探るよりも早く、信じられないことが起きた。無数の眷属が消失だ。
眷属とユーダスは銀の力で緩やかに繋がっている。そのため、健在時には朧気にその存在を感じ取ることができた。にもかかわらず眷属の消失に気づくのが遅れたのは、銀の力の不滅性を信じ切っていたからだ。
銀化した眷属は体を失っても、消滅することはない。ただし、依り代である肉体を失っている間はつながりが途絶える。つまり、反応が消失した時点では、肉体を失っただけなのか、それとも存在そのものが消えたのか判断ができないのだ。
実際、ユーダスも眷属とのつながりが途絶えたのは、冒険者に肉体を消滅させられたせいだと考えていた。その考えが軽率だったとは言えない。何故ならば、本来ならば銀化した眷属を消滅させることなど誰にもできないのだから。
唯一の例外が運命神の使徒たる少年だ。だが、その少年が八面六臂の働きをしたとしても個人の力には限界がある。盤面を覆すほどの影響力を及ぼすことはないはずだった。
「力を貸すことができる? いや、各地で同時にとなると、授けたということでしょうか。神の如き力ですね」
個人では為し得ない広範囲での眷属たちの消滅。ユーダスはそれを件の使徒が銀を滅する力を他者に授けた結果だと見た。実際には魔道具という形で配っているのだが、他者に扱えるようにしたという点では間違いではない。むしろ、ユーダスらにとっては、銀を滅する能力者が増えるよりも望ましくない展開である。何しろ、魔道具は才能の有無にかかわらず魔力さえあれば誰にでも使えるのだ。さらに、使用者が倒れても魔道具さえ無事なら能力は引き継がれる。つまり、誰もが彼らの天敵となり得るというわけだ。
「例の少年――トルトと言いましたか。アレは確実に仕留めておくべきでした」
後悔である。銀の力を得て、超人となってさえも、それは消せないものらしい。大したことがないと見くびって、部下に任せたのが間違いだった。あのとき、自らの手で息の根を止めてさえいれば。そんな考えが何度も頭を過った。
「……いや、今は先のことを考えなくては」
過去を悔やむだけの時間に意味は無い。重要なのは、これから何をすべきか、だ。
すでに計画は破綻している。冒険者ギルドによって、眷属の大半は消されてしまった。再び戦力を整えるならば、十年単位の年月が必要となるだろう。
最早、寿命などは無縁の身。必要があれば、どんな長期間だろうと耐え忍ぶつもりではある。だが、いたずらに歳月を重ねたところで状況が好転する保証はない。それどころか、眷属の消滅が加速している現状を考えれば、時が経つほどに不利になる。数を頼りに支配を進めるという現行の計画は、達成困難であると認めざるを得ない。
「こうなっては仕方がありませんね。ゲートを開きましょう」
力のない眷属など増やしたところで、物の足しにもならない。ならば、異界から直接、根源たる銀の力を引き込むしかない。
この決断はユーダスにとって、苦渋の選択。世界を支配するに充分な力を授かっていながら、それを為せなかったという無能の証明であるのだから。
「しかし、それも我らの大望の前には些細なこと」
個人のプライドと銀としての意志。優先すべきがどちらかなど考えるまでもない。いや、考える必要すらない。個としての境界があるようで、それはとても曖昧だ。彼らの意志は、思考は緩やかに繋がっている。銀という一つの存在なのだ。個体の意志など、全体の総意の前には何の意味もなさない。これまで新たにゲートを開かなかったのも、本体の消耗を避けるという意図とユーダスの考えが一致していただけのことに過ぎない。
しかし、現状に至って、彼らは方針変更を決めた。異界とこちらを繋げ、直接侵蝕することにしたのだ。全ては世界を銀の意志で染め上げるために。
だが、決して全能ではない。そのことを男は――ユーダスは痛感していた。
「甘く見ていた……ということでしょうね」
呟きは闇に消える。誰に聞かせるでもない独り言だ。
銀の力を授かってからこれまで力を蓄えてきた。この世界の神々と敵対することはわかりきっていたので、決して表舞台に立たずにひっそりと。カルト宗教団を隠れ蓑にして、自らの手足となる教徒を育て上げた。同時に、銀の力で獣や弱い魔物を眷属化して数を揃えた。獣では大した戦力にはならないが、それでも数は力だ。この世界を蝕み支配するための先兵として充分に力を発揮するはずだった。
雌伏の時を経て、ついに革命のとき来る。無力な神々を踏みにじり、世界を銀の力に染め上げるべくユーダスは立った。障害になりそうな運命神の使徒に懸念したほどの力はなく、最早計画を妨げる者はいないはずだった。
その計画に大きな障害が出ている。
当初の予定では、各地に放った眷属獣が侵蝕によって配下を増やし、大陸中を銀の力の影響下に置くはずだった。途中までは順調に進んでいたのだ。銀化した獣は数を増やし、ついには冒険者ギルドも手に負えないほどになった。最早、世界の支配はなったも同然だ。そのはずだった。
だが、それはならなかった。あるときから、ポツポツと侵蝕速度が鈍化する地域が出てきたのだ。原因を探るよりも早く、信じられないことが起きた。無数の眷属が消失だ。
眷属とユーダスは銀の力で緩やかに繋がっている。そのため、健在時には朧気にその存在を感じ取ることができた。にもかかわらず眷属の消失に気づくのが遅れたのは、銀の力の不滅性を信じ切っていたからだ。
銀化した眷属は体を失っても、消滅することはない。ただし、依り代である肉体を失っている間はつながりが途絶える。つまり、反応が消失した時点では、肉体を失っただけなのか、それとも存在そのものが消えたのか判断ができないのだ。
実際、ユーダスも眷属とのつながりが途絶えたのは、冒険者に肉体を消滅させられたせいだと考えていた。その考えが軽率だったとは言えない。何故ならば、本来ならば銀化した眷属を消滅させることなど誰にもできないのだから。
唯一の例外が運命神の使徒たる少年だ。だが、その少年が八面六臂の働きをしたとしても個人の力には限界がある。盤面を覆すほどの影響力を及ぼすことはないはずだった。
「力を貸すことができる? いや、各地で同時にとなると、授けたということでしょうか。神の如き力ですね」
個人では為し得ない広範囲での眷属たちの消滅。ユーダスはそれを件の使徒が銀を滅する力を他者に授けた結果だと見た。実際には魔道具という形で配っているのだが、他者に扱えるようにしたという点では間違いではない。むしろ、ユーダスらにとっては、銀を滅する能力者が増えるよりも望ましくない展開である。何しろ、魔道具は才能の有無にかかわらず魔力さえあれば誰にでも使えるのだ。さらに、使用者が倒れても魔道具さえ無事なら能力は引き継がれる。つまり、誰もが彼らの天敵となり得るというわけだ。
「例の少年――トルトと言いましたか。アレは確実に仕留めておくべきでした」
後悔である。銀の力を得て、超人となってさえも、それは消せないものらしい。大したことがないと見くびって、部下に任せたのが間違いだった。あのとき、自らの手で息の根を止めてさえいれば。そんな考えが何度も頭を過った。
「……いや、今は先のことを考えなくては」
過去を悔やむだけの時間に意味は無い。重要なのは、これから何をすべきか、だ。
すでに計画は破綻している。冒険者ギルドによって、眷属の大半は消されてしまった。再び戦力を整えるならば、十年単位の年月が必要となるだろう。
最早、寿命などは無縁の身。必要があれば、どんな長期間だろうと耐え忍ぶつもりではある。だが、いたずらに歳月を重ねたところで状況が好転する保証はない。それどころか、眷属の消滅が加速している現状を考えれば、時が経つほどに不利になる。数を頼りに支配を進めるという現行の計画は、達成困難であると認めざるを得ない。
「こうなっては仕方がありませんね。ゲートを開きましょう」
力のない眷属など増やしたところで、物の足しにもならない。ならば、異界から直接、根源たる銀の力を引き込むしかない。
この決断はユーダスにとって、苦渋の選択。世界を支配するに充分な力を授かっていながら、それを為せなかったという無能の証明であるのだから。
「しかし、それも我らの大望の前には些細なこと」
個人のプライドと銀としての意志。優先すべきがどちらかなど考えるまでもない。いや、考える必要すらない。個としての境界があるようで、それはとても曖昧だ。彼らの意志は、思考は緩やかに繋がっている。銀という一つの存在なのだ。個体の意志など、全体の総意の前には何の意味もなさない。これまで新たにゲートを開かなかったのも、本体の消耗を避けるという意図とユーダスの考えが一致していただけのことに過ぎない。
しかし、現状に至って、彼らは方針変更を決めた。異界とこちらを繋げ、直接侵蝕することにしたのだ。全ては世界を銀の意志で染め上げるために。
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無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
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