同居人は王子様。

mnkn

文字の大きさ
上 下
7 / 29
はじめまして、王子様。

#7

しおりを挟む

「誘拐なんてしません!」

「いや!誘拐しろ!!」


さっきから2人とも、ずっとこの一点張りである。

側から見たら意味不明でしかない。

にしても、誘拐されたがってるなんて、とんだ変態だな。間違いない。


「あの、ただ....」
あおいにはひとつだけ気になることがあった。

「別に興味があるわけじゃないんですけど、あなたって何者なんですか?敵国とか、城とか....会話が変っていうか...。見た目は日本人に近い気がするんだけど」

すると男は眉毛を潜めた。
「ニホン?...って何だ?知らねえ国だな。お前の国か?」

「え?あぁ、はい」

お前の国も何も、今いるのが日本ですけど。と心の中で呟くあおい。

長い足を組み替えた目の前の男。
そんな姿でさえ、様になるから不思議。

「確かに、まだ名は名乗っていなかったな.....俺はシュヴァイン王国の第2王子のレオンだ」

「お、王子?」

コクリと、自らを王子と名乗る男は頷く。

何を言ってるんだこの男は。

そう思ったけど、大真面目な顔をした目の前の男を見ると、本当のことのように聞こえてしまう。


ん、待てよ。
シュヴァイン王国のレオン、って....どこかで聞き覚えのあるような......

もしかして。

スクッと立ち上がって、あおいは机の下に落ちた、昨日目を通したはずの絵本に歩み寄った。



その時、有り得ない光景を目にしたのである。


「あれ....?この絵本、主人公だけ消えてる....!」


表紙の1番真ん中にいるはずの男が、全てのページから跡形もなく消え去っていたのである。

そして、絵本の中のとあるページを見てあおいは手を止めた。




______シュヴァイン王国と呼ばれる王国には、王子様が2人いました。

1人目は優しくて頼りになるお兄さんの、ルーク王子。

2人目はルーク王子とは正反対で不出来な、弟の.....


レオン王子______________






もしかして......

「ねぇ、あなたさ、お兄さんの名前って、」

「兄上の名前?」

突然のあおいの質問にレオンは眉を潜めた。

「ルークだが」

それがどうしたんだ?というレオンの問いかけは、もうすでに耳に入って来ていなかった。

もしかして......

ページをめくってみる。

絵本の中の城も、今朝夢で見たものと全く同じ光景だ。

彼が倒れていたのは、この絵本のすぐそばだった。

その時、あおいの中である考えが浮かんだ。
もしかして、もしかすると、この男は.....

自分が作り上げた、絵本の主人公が飛び出してきたのではないだろうか。


...いや、そんなことがあるわけない!!
だってただの絵本だよ?ありえない。絶対ありえない。






この女、さっきまでは真っ赤な顔して怒ってたくせに、今度は眉間にシワを寄せて真っ青な顔をしている。

なんだかよく分からんが、感情が忙しい女だな。

...まあいい。
そんなことよりも、今日は疲れたからそろそろ寝たい。

そう考えたレオンはあおいの横を通り過ぎて行く。

「あっ、ちょっと!どこ行くのよ!」

あおいに問いかけられて振り返った男は、ネクタイを緩めながら答えた。

「あ?シャワーしねえと寝れねえだろ」

そう返事すると、脱衣所の扉がバタンと閉められた。


「え、ちょっと!シャワーって!おい!許可してないんだけど!」

追いかけたあおいが勢いよく脱衣所の扉を開ける。

すでに上半身裸だったが、突然のことに驚いて振り返るレオン。

それに対して突然視界に飛び込んできた上半身裸の男に、開いた口が塞がらない状態のあおい。

そんな彼女を見て、レオンはニヤリと不敵な笑みで問いかけた。

「どうした?一緒に入るか?」



...イッショニハイル?え、は?
その言葉で、あおいは思考を取り戻した。

「あっあっ、ありえないからっっ!!!」

バタンッッッ

壊れるのではないかというくらい強く、あおいは扉を閉めた。


「....意外と大胆な奴だなあ。あいつ」

あ、そういえばあいつの名前聞いてなかったな。後で聞いとこう。

なんて考えながら能天気に服を脱ぐレオンの扉の反対側で、
「これは夢だ、夢であってくれ」と呟きながら、あおいは絵本に頭を打ち付けていた。
しおりを挟む

処理中です...