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戸惑いのハッピーバースデー。
#29
しおりを挟む"俺ら、今日から付き合わない?"
その言葉が、脳内で反芻していた。
「あおいちゃん、あおいちゃーん」
目黒さんに顔を覗き込まれて、ふと我に返った。
「ここの料理、あんまり美味しくなかったかな?」
目黒さんが予約してくれたのは、三ッ星レストランのフルコース。
普段の私の生活ではお目にかかれないようなお料理の数々だ。
「いえ!とっても、おいしいです」
そう言って、もぐもぐと食べ始める。
しかしあおいの脳内は今、必死に違うことを考えていた。
.....何でレオンはあんなこと言ったの?
からかい?
....の割には、すごく真剣な表情だった。
まあ、寝癖はついてたけど。
もしかして、あんなことこんなことやっちゃって、責任とって...付き合おう、みたいな?
いや、レオンはそういう男じゃない。
「なんでなんだ.....」
ボソッと呟いたあおいに、また目黒は首を傾げた。
「大丈夫?さっきからずっと独り言.....」
え、私考えてること全部喋ってた?!
あおいは焦って両手を口に当てた。
せっかく目黒さんとご飯に行ける機会なのに。
「ごめんなさい....もっと楽しい話しましょ」
そうだ。今はレオンのことは忘れなきゃ!!
「目黒さんって、毎年誕生日はどういうふうに過ごしてるんですか?」
あおいが一生懸命絞り出した問いがこれだった。
「うーん、家族でパーティーって感じだったかな」
「へえ!仲良いんですね」
そういうと目黒さんは渋い顔をして黙り込んだ。
え、触れちゃいけない話題だった?
この沈黙はどうしたらいいの??
戸惑っているあおいに気づいてか、目黒は呟いた。
「それほどでもないよ。ただ、弟とは小さい頃から仲が良かったかな」
「へー!目黒さんって弟いるんですね!うちと一緒です。」
「あおいちゃんも弟いるんだ!しっかりしてるもんね」
お上品にステーキを切り分ける目黒さんから、私は視線を逸らした。
そうだ。なんせ私には本当に血の繋がった弟と、わがままなニセモノの弟がいる。
弟....そうだよね。アイツは弟みたいなもんだよね。
付き合うなんて、絶対あり得ない!!あり得ないんだから!!!!
「レオ君....だっけ?あおいちゃんの弟って」
「え?ああ、はい」
そっちは偽物のほうで、本当の弟の名前は和也って言うんですけどね。と心の中で訂正する。
「俺の弟と名前似ててさ、覚えちゃったんだよね。今度は弟さんと3人で会ってみたいな」
そう目黒さんに言われて、つい苦笑いしてしまった。
....しかし、目黒さんとレオンを合わせるのも良い機会なのでは?
レオンは私と生活し始めてから、私以外で会話をする人がいない。
だから私との友情を恋愛だと勘違いしてしまって、あんなことを言ってきたに違いない!!
そうか。そうに違いないよね!
アイツが本気で私のことを好きになるなんて、ありえないもんね!!!
そう思うと、なんだか心が軽くなってきた!!!!
「目黒さん!改めてお誕生日おめでとうございます!!今日はいっぱい飲みましょ!!!!」
あおいはそう言って、グラスに入ったワインをぐっと飲み干した。
「ん?ふふ、ありがとうね」
にっこりと微笑んで、目黒も自身のグラスのワインを飲みきった。
応援ありがとうございます!
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