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第1章 カイラス・ヴァレンティア
2話 「外層」
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「なぁ、なんで俺がお前についてかなきゃなんねんだ?しかも休日によ」
説明したはずの事を、何度も聞いてくる。
「外層は殺人、強盗、強姦、地区によってはなんでも起こりうる。だから遠距離向きの魔術師じゃなくて剣士が居たら助かる。何度も説明しただろ?」
「だけどよ……」
俺はグロムを連れて外層を訪れていた。
念には念を。普段から外層慣れしてるこいつが居れば久々の外層でも安全だろうと思っていたが、さっきからやたら動揺しているのを見るに、こいつさては来た事ないんじゃないか……?
度々聞いていた外層旅行記が、なんだか全部嘘っぽく思えてくる。
手紙の内容は単純で。
俺の育ての親であり魔術を教えてくれた婆さんから、一度外層まで来てくれと一文。
約3年ここには帰ってきていないが、特段連絡してこなかった婆さんが一々来てくれと手紙を寄こしたのだ。
というかちゃんと理由を書いてくれないだろうか。
これで実家にたまには顔見せろとかだけだったら殴ろう。
まぁそんな人じゃないから謎だし、すぐ休日潰して来たのだが。
治安の良い大通りを通ったので特段絡まれる事もなく、婆さんの家まで辿り着いた。
入るぞと告げ、ドアを開く。
するとずいぶんと老け込んだ婆さんと、12歳~16歳くらいの子供3人が俺を出迎えた。こいつらが今の弟子ってわけか。
「カイ……早かったじゃないか。ん、その後ろのは誰だい?」
「グロム、同僚だ。念の為同行してもらった」
婆さんはハっと笑い、そこの子でも大通りくらい一人で歩くと弟子を指差し嘲笑した。
うるせぇ婆さんだ。
「で、本題はなんだ。まさか世間話をする為に呼びつけたんじゃないだろ?」
「そうさ。だだそのお友達には聞かせらない。悪いが一旦出てもらっとくれ」
仕方が無いのでグロムには銀貨2枚を渡して下がってもらう。
元々護衛代として渡すつもりだったが今渡し、これで女でも買ってこいと言っておく。
グロムは「えっ1人か……?」と不安そうだが無視し、ドアを閉じる。
すると婆さんは魔法用の杖をただの杖と同じように使って椅子から立ち上がり、本題に切り込んだ。
「あんたはコロニー003というのを聞いた事があるかい?」
コロニーにはそれぞれ番号が振り分けられている。
基本的にコロニーの出来た順であり、初期に作られた数字の小さいコロニー程発展している。
今の俺たちの居住区はコロニー128。この国で128番目のコロニーという訳だ。
「詳しくは知らないな。比較的近くにあるコロニーで、003の名に恥じない、豊かな居住区だってぐらいだ」
「そこに、行くことは出来ると思うかい?」
「正気か?外は拠点も無い魔物世界だぞ?」
どのくらいの距離だか知らないが、相当近くない限り食料問題も大気汚染による感染症の問題も心配だ。
なんだ?このコロニーに嫌気でもさしたのか?
そう考えていると、婆さんはミリー!来い!と声を上げ、部屋の一番奥に居た12歳くらいに見える少女を俺の前に呼びつけた。
恐らく最年少。顔立ちは整っているが、ボロボロの茶色くなった服に身を包み、こちらを見上げてくる。
その瞳は純朴そうでまっすぐで、とても外層を生きていける人間のそれには見えなかった。
「ミリセア・フローラ。知り合いに託された子なんだがね、魔術も剣術もこれっきしなのさ」
婆さんは少し悲しそうに語り続ける。
「あたしゃ魔術か剣術以外で内層民にさせるコネがなくてね。しかもおあつらえ向きに顔立ちが整ってる。多分、あたしが死んだら娼館に行くことになるのがつねだろうさ」
婆さんの悲しそうな顔なんて見たことが無かったからなんだか演技臭く思えてくるが、この人は本当に悲しい時、こういう顔をするんだろうか。
「で、その子とコロニー003になんの関係があるんだ?」
「コロニー003には、この子を引き取ってくれるって家族がいるのさ」
「……?」
コロニー間では、訓練された魔物を使って手紙のやり取りが出来る。
太陽の鳥。と言われる奴で、人と人とのコロニー間の唯一の連絡手段だ。
要するに、それで100年前生き別れたフローラ家から、その子を引き取るという申し出があって。
なんとか連れていけさえすれば、この子は助かるという事か。
「ずいぶんと大胆な打診だな」
「コロニー003は技術もここより数段上なのさ。だから簡単にこっちまで送ってくれないかとか抜かす。しかも向こうでのフローラ家は結構偉いらしくてねぇ。何羽も鳥を寄こしてきやがんだい」
「それで、この子をそこまで連れて行けと?」
「あんたなら出来るだろう」
「可能かを問うには、材料が少なすぎるんじゃないか?」
冗談を言っていないのは分かったが、なにしろ前例が無い。
この辺りには生息していない魔物と相対する事にもなるだろう。
それにそもそも、俺はこのコロニーの軍人だ。
しばらく別のコロニーまで旅に出ます、なんて馬鹿げた理由で職務を放棄する事は許されるのか?
「ひとまずは距離だ。かかる日数を逆算しないと話にならん。それと、その子の免疫は......」
そう言いかけた時。
家の外、すぐ近くに人の気配を感じたので口をつぐむ。
なんだ?駆け足で、やけに焦っている様子だが......。
すると家の扉が勢いよく開け放たれ、ベリンダさん!と一人の青年が息を切らしながら入ってきた。ベリンダは婆さんの名だ。
「エルム区に魔物が入り込んできています!恐らく過疎地域の辺りが崩落し侵入され、被害は大通りにまで及んでいます!」
一瞬、頭が回らなくなる。
だがそれに、婆さんの響く声が喝を入れた。
「またかい……!あんた達、20秒で支度しな!」
婆さんが弟子たちに号令を出し、それに応えるように3人中少女を除いた2人は杖や剣を装備し始める。
「おい、こんなのはしょっちゅうなのか」
「最近は20日にいっぺんはどっかにガタが来んのさ。でも大通りまでってのはまずい状況だね」
「俺は大通りから片付ける。ガキ共には崩落した場所を探させろ」
俺は青年の横を通り過ぎ、家の外で思い詰めた表情をしていたグロムを連れて、大通りに向かった。
説明したはずの事を、何度も聞いてくる。
「外層は殺人、強盗、強姦、地区によってはなんでも起こりうる。だから遠距離向きの魔術師じゃなくて剣士が居たら助かる。何度も説明しただろ?」
「だけどよ……」
俺はグロムを連れて外層を訪れていた。
念には念を。普段から外層慣れしてるこいつが居れば久々の外層でも安全だろうと思っていたが、さっきからやたら動揺しているのを見るに、こいつさては来た事ないんじゃないか……?
度々聞いていた外層旅行記が、なんだか全部嘘っぽく思えてくる。
手紙の内容は単純で。
俺の育ての親であり魔術を教えてくれた婆さんから、一度外層まで来てくれと一文。
約3年ここには帰ってきていないが、特段連絡してこなかった婆さんが一々来てくれと手紙を寄こしたのだ。
というかちゃんと理由を書いてくれないだろうか。
これで実家にたまには顔見せろとかだけだったら殴ろう。
まぁそんな人じゃないから謎だし、すぐ休日潰して来たのだが。
治安の良い大通りを通ったので特段絡まれる事もなく、婆さんの家まで辿り着いた。
入るぞと告げ、ドアを開く。
するとずいぶんと老け込んだ婆さんと、12歳~16歳くらいの子供3人が俺を出迎えた。こいつらが今の弟子ってわけか。
「カイ……早かったじゃないか。ん、その後ろのは誰だい?」
「グロム、同僚だ。念の為同行してもらった」
婆さんはハっと笑い、そこの子でも大通りくらい一人で歩くと弟子を指差し嘲笑した。
うるせぇ婆さんだ。
「で、本題はなんだ。まさか世間話をする為に呼びつけたんじゃないだろ?」
「そうさ。だだそのお友達には聞かせらない。悪いが一旦出てもらっとくれ」
仕方が無いのでグロムには銀貨2枚を渡して下がってもらう。
元々護衛代として渡すつもりだったが今渡し、これで女でも買ってこいと言っておく。
グロムは「えっ1人か……?」と不安そうだが無視し、ドアを閉じる。
すると婆さんは魔法用の杖をただの杖と同じように使って椅子から立ち上がり、本題に切り込んだ。
「あんたはコロニー003というのを聞いた事があるかい?」
コロニーにはそれぞれ番号が振り分けられている。
基本的にコロニーの出来た順であり、初期に作られた数字の小さいコロニー程発展している。
今の俺たちの居住区はコロニー128。この国で128番目のコロニーという訳だ。
「詳しくは知らないな。比較的近くにあるコロニーで、003の名に恥じない、豊かな居住区だってぐらいだ」
「そこに、行くことは出来ると思うかい?」
「正気か?外は拠点も無い魔物世界だぞ?」
どのくらいの距離だか知らないが、相当近くない限り食料問題も大気汚染による感染症の問題も心配だ。
なんだ?このコロニーに嫌気でもさしたのか?
そう考えていると、婆さんはミリー!来い!と声を上げ、部屋の一番奥に居た12歳くらいに見える少女を俺の前に呼びつけた。
恐らく最年少。顔立ちは整っているが、ボロボロの茶色くなった服に身を包み、こちらを見上げてくる。
その瞳は純朴そうでまっすぐで、とても外層を生きていける人間のそれには見えなかった。
「ミリセア・フローラ。知り合いに託された子なんだがね、魔術も剣術もこれっきしなのさ」
婆さんは少し悲しそうに語り続ける。
「あたしゃ魔術か剣術以外で内層民にさせるコネがなくてね。しかもおあつらえ向きに顔立ちが整ってる。多分、あたしが死んだら娼館に行くことになるのがつねだろうさ」
婆さんの悲しそうな顔なんて見たことが無かったからなんだか演技臭く思えてくるが、この人は本当に悲しい時、こういう顔をするんだろうか。
「で、その子とコロニー003になんの関係があるんだ?」
「コロニー003には、この子を引き取ってくれるって家族がいるのさ」
「……?」
コロニー間では、訓練された魔物を使って手紙のやり取りが出来る。
太陽の鳥。と言われる奴で、人と人とのコロニー間の唯一の連絡手段だ。
要するに、それで100年前生き別れたフローラ家から、その子を引き取るという申し出があって。
なんとか連れていけさえすれば、この子は助かるという事か。
「ずいぶんと大胆な打診だな」
「コロニー003は技術もここより数段上なのさ。だから簡単にこっちまで送ってくれないかとか抜かす。しかも向こうでのフローラ家は結構偉いらしくてねぇ。何羽も鳥を寄こしてきやがんだい」
「それで、この子をそこまで連れて行けと?」
「あんたなら出来るだろう」
「可能かを問うには、材料が少なすぎるんじゃないか?」
冗談を言っていないのは分かったが、なにしろ前例が無い。
この辺りには生息していない魔物と相対する事にもなるだろう。
それにそもそも、俺はこのコロニーの軍人だ。
しばらく別のコロニーまで旅に出ます、なんて馬鹿げた理由で職務を放棄する事は許されるのか?
「ひとまずは距離だ。かかる日数を逆算しないと話にならん。それと、その子の免疫は......」
そう言いかけた時。
家の外、すぐ近くに人の気配を感じたので口をつぐむ。
なんだ?駆け足で、やけに焦っている様子だが......。
すると家の扉が勢いよく開け放たれ、ベリンダさん!と一人の青年が息を切らしながら入ってきた。ベリンダは婆さんの名だ。
「エルム区に魔物が入り込んできています!恐らく過疎地域の辺りが崩落し侵入され、被害は大通りにまで及んでいます!」
一瞬、頭が回らなくなる。
だがそれに、婆さんの響く声が喝を入れた。
「またかい……!あんた達、20秒で支度しな!」
婆さんが弟子たちに号令を出し、それに応えるように3人中少女を除いた2人は杖や剣を装備し始める。
「おい、こんなのはしょっちゅうなのか」
「最近は20日にいっぺんはどっかにガタが来んのさ。でも大通りまでってのはまずい状況だね」
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