閉鎖都市

世界は安全で隔離されている

─４─

偶発的ぐうはつてきとはいえない衝撃しょうげきが全身を打つ。

その衝撃しょうげきで、
よろける様ように少女に覆おおい被かぶさると、
トイレの中に倒たおれ込こんでいた。

少女の顔を覆おおった金属製のフレームが、
自転する様ように床を滑すべる。

びっくりした様に僕を見上げる幼女の顔が、
間近まぢかにあった。

震ふるえた瞳。

それを覆おおう銀髪。

僕は慌あわてて空あいた手を伸のばすと、
扉を閉しめ錠じょうをかけていた。

その間も少女は微動びどうだにせず
腕の合間あいまで僕を静かに見上げていた。

顔を覆おおった金属製のバイザーは床に転がり、
少女の柔やわらかな輪郭りんかくがあらわになっていた。

ぷくっと膨ふくらんだ唇。

艶つやのある銀髪が頬ほほに張はり付つき、
儚はかなさを匂におわせる。

胸の鼓動こどうが脈動みゃくどうを速めていくのを感じた。

速鳴る動機どうきが息苦しさを覚えさせる。

少女は不思議ふしぎそうに僕を見上げていた。

何か言わなければ警戒けいかいされる。

そう焦あせるばかりで、
言葉はなかなか出てこなかでた。

そんな緊迫きんぱくした空気を最初に破やぶったのは、
いつの間まにか頭越あたまごしに鎮座ちんざした、
ペットロボだった。

ロボは張はりつめた空気を打ち消すように、
小動物を思わせる音声でピッピッピッピッと
鳴き始めていた。

少女はそんなお供ともを放心ほうしんした様ように見つめ、
何かに気付きづいたように表情を変えた。

馬乗りになったままの僕の胸元むなもとを、
少女は両手で押し上げる。

ようやく自由になった少女は、
ヘルメットを拾い上げ頭に被かぶせると、
相変わらずピッピッピッと鳴くお供に
仕切しきりに頷うなづいていた。

そして不思議ふしぎの国に迷い込んだように、
独ひとり言ごとを言い始めたのだった。



　　　　　　　　─４─