宇宙漂流記

AD2085

A.D. 2085

　
われんばかりの拍手はくしゅの中、
そう紹介されながら行進するのは、
低学年の生徒達。

そう実験的に生徒は高学年と低学年、
二組に分けられていた。

宇宙における適応力てきおうりょくは、
まだ成長途上の子供達のほうが、
あるのではないかと言う、
実験的な試こころみだった。

「ご覧下らんください。
　これから３年間、
　宇宙での厳きびしい訓練くんれんに立ち向かう、
　総勢そうぜい４２名の小さき勇者達です。

宇宙での滞在期間たいざいきかんは低学年、高学年を問とわず
３年間と定さだめられています。

これは大気のない宇宙では、
直接宇宙線(放射線ほうしゃせん)の被爆ひばくに曝さらされるため、
厳密げんみつに定さだめられた規則きそくです。

コロニー内は、被爆ひばくを、
最小限に抑おさえる設備せつびがなされていますが、
それでも地球の２倍の被爆は免まのがれません。

それでも過去の宇宙飛行士が曝さらされていた、
１０倍ほどの放射線の被爆量ひばくりょうに比くらべれば、
格段かくだんに改善かいぜんされています。

これまで宇宙飛行士が、
生涯宇宙しょうがいうちゅうで活動できる期間は、
せいぜい２～３年でした。

それ以上は被爆ひばくによるガンなどの、
健康被害のリスクが格段に上がるためです。

これは今まで宇宙での研修けんしゅうの前例ぜんれいがなく、
また行われなかった理由でもあります。

授業を卒業したと同時に、
宇宙に出られなくなれば、
意味がないからです。

これまで衛星学園えいせいがくえんが実現しなかったのには、
そう言った理由もあります。

ですがこの度たび、コロニーの完成に伴ともない、
それが可能となりました。

これが人類史初の試こころみになるのは、
そう言った要因よういんからです。

人類の足は今地球の重力を離れ、
未来に迎むかい進み始めました。

なんにせよ今この瞬間が、
人類史じんるいしに残る分岐点ぶんきてんなのは、
間違まちがいありません。

我々われわれは今、
歴史の転換点てんかんてんの目撃者となったのです。

もう一度拍手で生徒達を、
送り出そうではないでしょうか」

その声と同時に鳴り止やまない拍手の嵐が、
無音の宇宙の中で、
この区切られた空間だけに、
いつまでも響き渡っていた。

真空の宇宙で、それを眺ながめる一人の生徒、
時輪ときわ 彼方かなたは感慨かんがいを覚えていた。