推しに婚約破棄されたとしても可愛いので許す

まと

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「ランデルとマリローズがあなたに会いに来てくれたわよ。良かったわね」

大きな厩舎の隣に、ハルト専用の少し小さめな厩舎がある。

どちらの厩舎も風通しが良くて、広々とした馬房では馬達がリラックスして過ごしているみたい。


私に気付いたハルトは、目をキラキラさせながら軽快に近付いてきた。
鼻先を優しく撫でると、頭をぐいぐいと押し付けて甘えてくる。


「あっ、もう!おやつを貰えるって勘違いしてるのね??駄目よ、あなた少し体重を落とさないといけないんでしょう??アーロンから聞いたわよ」

アーロンとはディドの相棒で、ここの管理をディドと任されている1人だ。


仲良くなる為に、ほんのちょっとだけ餌付けした自覚はあるんだけど、私を見るなり食べ物を貰えると思っている節があるのよね。


「レオノールお嬢様、今朝持ってきて頂いた果物もいたく気に入ったようでしたよ」

「でもアーロン。やはり糖度の高い物は少し控えた方がいいのよね?」

「そうですね。少し位なら良いと思いますが…」

「程度って事ね」

ふぅ…。可愛いと、ついつい一杯食べさせてあげたくなっちゃうんだよね。ハルトの甘えたなつぶらな目に弱いのよ、私は。

「美味しい牧草を手に入れるから待っててね」

「ひーん」

ハルトの首に抱きついてじゃれあう。もふもふ可愛い!!

「そういえば、あなたにはハルトっていう素敵なお名前があったのね?格好いいあなたにとっても似合ってるっふふっ」

「ぶるるんっ…!!」

得意気な顔をするハルトに苦笑いする。これ以上は大きくならないハルト。お顔もイケメンよりは少しマヌケで愛らしい。

でも牡馬だから、格好良いって言われた方が嬉しいよね。
言葉を理解している訳ではないだろうけど、誉められているのは分かるみたい。



…あっ、そう言えばランデルとマリローズがいたんだった!

がばりと二人の方へ顔を向ける。



「あっ、(放置して)ごめんなさい…ってどうしたの?」



振り向くとぽかん顔の二人が立っていた。

?どうしたの?



これでもかと大きな目をぱちぱちさせながら、マリローズが口を開く。

「レオノール、どうしちゃったの??あれだけ厩舎は臭くて行きたくない。馬は可愛がるモノじゃなくて乗るモノで、人間の足でしか価値がないって言っていたのに」



クソじゃんレオノール。



あとよく、そんなに長くてクズなセリフ覚えてたね、マリローズ…。
そんな天使なお顔して吐いちゃいけないセリフだよ。


「そ、そんな最低な事言ってたのね私ったら…。でも私…このハルトが大好きよ…今はまだ、放っておいた事を許して貰っている途中なの」

ごめんね、ハルト。私、頑張るからね。
はあ…本当、レオノールが愚かすぎてため息しか出ない。



「…ねえレオノール、僕もハルトを撫でて良い?」

「!もちろんよ」

ハルトもランデルの存在に気付き、うずうずしているのか分かる。

「あなた達、本当にお友達なのね」

ふふふ!動物とたわむれるランデルを脳内カメラでパシャリんこっ!!

嬉しそうにハルトの頬を優しく撫でるランデル。
ふんわりと目尻が優しく細められる。
ハルトも気持ち良さそうに大人しく撫でられている。

「殿下がこちらにいらした時は、ハルトの機嫌がとても良くなるのですよ」

とアーロン。

「ランデルったら、いつも私達そっちのけで厩舎に通っていたものね」

くすくすとお口に手を当ててマリローズが小さく笑う。


表情には出ていないけど、ランデル楽しそう。
良かった…動物って癒されるよね。
ありがとう、ハルト。




後ろで順番を待っていたマリローズが、急にハルトの方へ身を乗り出した。


「ねえ、私も早く触りたいわ!!」


マリローズが、ランデルの横から手を伸ばす。

額を撫でようとしたのか、マリローズの手はハルトの正面、目と目の間だ。

そこは馬の死角。

馬はそこを触られるのをとても嫌がる。中には怒って暴れる馬や噛みつく馬もいる。

ハルトはわりと神経質な所があるから、絶対に正面から触らないで下さいと、アーロンから厳しく言われていた。

ハルトが顎を上げる。

マリローズの咄嗟の行動で大人達も皆動けない。

二人が危ない!


「だめっ!!」

「きゃぁっ!!!」



私はマリローズの小さな手をパシりと払った。




よろけたマリローズをランデルが支え、ハルトから距離を取る。


「え…なあに?」

払われた右手を左手で包み込み、何が何だか分からない顔をして私を見るマリローズ。

マリローズの大きな目に、徐々に涙が貯まっていくのが分かる。



「うぅっ…痛い…レオノール…どうしていつも私の事を除け者にするの??どうしていつも意地悪するの?私、あなたに何かしたかなぁ…?」


違う、違うのマリローズ。誤解なの!

それでも突然手をはたかれて悲しい気持ちにならない訳がない。マリローズはまだ小さな子供だ。

ぽろぽろと流れる美しい涙を前に、誤解をとく言葉がまるで出てこない。


「あ…違うの…マリローズ、ご、ごめんな…さい」


だって、レオノールはマリローズを酷く嫌っていたし、幼い頃からくだらないマウントを張って、マリローズの心を何度も傷付けてきたのだと軽く予想出来る。



そんな、私の言うことなんて信じてくれる??
私なら信じない。










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