50 / 54
50
しおりを挟む「とにかく、話はそれだけ?」
「 …」
「私も言いたい事は言ったからこれで失礼するわね」
顔を伏せたままのマリローズに背を向け、教室を出る。
色々と後悔する事があった。それは色々諦めながら生きた前世でも、今生きているリアルなこの世界でも。
でも、私にも譲れないものがある。
いつの日も、私の人生に優しい灯りをともしてくれたランデル。
そんなランデルが傷付けられる事だけは許さない。
それは今も昔も。
私のこの先の未来がどうなろうと、それだけは避けなければ。
そんな事を考えていたら、無性に会いたくなった。
少しだけ、顔を見に行ってもいいかな?
階段を一段降りようとしたその時。
耳元でゾッとするような甘ったるい声で囁かれる。
「ねえ、レオノール。あんた何度も背中を狙われ過ぎ」
えっ?
トンと背中を押される。
「今度は本当にさようなら」
のろまのレオノール。
ああ、油断した。
今一番背中を見せちゃいけない相手がマリローズだったのに。
長い長い階段から、スローモーションのようにゆっくり落ちて行く感じ。
マリローズ。
にたりと笑って、落ちて行く私を見下ろすその顔は、どう見ても天使なんていう可愛いものじゃない。
ここから私を落とすなんて、殺す気まんまんじゃん。
最悪だ。
ぎゅっと目を瞑ったその瞬間、グイッと手を捕まれた。
「レオノール!!」
な…んで。
どさどさと、強く身体を抱き込まれながら落ちて行く。
衝撃はあったが、痛みがほとんどない。
「うっ…」
階段の一番下まで落ちたのだろうか、抱きしめられたまま目の前のその人を見る。
「…っ!!…ランデル!!」
「……大、丈夫?レオノール」
「どうして、どうしてあなたがっ…!」
急いで身体を起こし、まだ倒れたままのランデルに問いかける。いや、今はそれどころではない。
「ランデル!待っててね、今誰か呼ぶからっ!絶対動いてはだめよっ?」
「レオノール…レオノールは…何ともない?」
ランデルの白くて綺麗な手が私の頬に触れる。その手に震える自分の手を重ねる。
優しいランデル。
でも今は私よりも自分の心配をして欲しい。
「うん…私は大丈夫だよっ…ごめん、ごめんね、ランデル…」
本当に…何て事を…!
「良かった。やっと君を守れた」
ふふっと笑い長い睫毛を伏せたまま、どこか意識がぼんやりしているようだ。
「ランデルッ!」
身体中からあらゆる感情が溢れ出るように、ぽろぽろと涙が止まらない。
泣いてる場合じゃないのに…誰か、人を呼ばなければ。
「でっ、殿下??!どうなされたのですか!!?」
偶然居合わせた男子生徒が、何事かと驚き声を上げる。必然と階段を見上げると、呆然とした表情のマリローズが見下ろすように佇んでいる。
「あ…私は、なに…も…なにもしらないわっ…わたしのせいじゃないっ!!」
「あっ!ちょっと、君っ!」
逃げ去るマリローズを追いかけようとする男子生徒。
「お願いっ、待って!今はそれどころではないわっ!頭を強く打っているかもしれないのっ!」
「はっ、はいっ!!すぐ医務室から人を呼んで参ります!」
はっとした男子生徒がほぼ意識のないランデルを見て顔を青褪めさせ、医務室の方へと走っていく。
…ああ、結局こうしてランデルを傷付けてしまった。
「ランデル…」
ランデルの額に自分の額を近付け、懺悔する。
「ごめんなさい…本当にごめんなさい…」
神様。どうか、どうかランデルをお助けください…!
26
あなたにおすすめの小説
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
【完結】私ですか?ただの令嬢です。
凛 伊緒
恋愛
死んで転生したら、大好きな乙女ゲーの世界の悪役令嬢だった!?
バッドエンドだらけの悪役令嬢。
しかし、
「悪さをしなければ、最悪な結末は回避出来るのでは!?」
そう考え、ただの令嬢として生きていくことを決意する。
運命を変えたい主人公の、バッドエンド回避の物語!
※完結済です。
※作者がシステムに不慣れかつ創作初心者な時に書いたものなので、温かく見守っていだければ幸いです……(。_。///)
※ご感想・ご指摘につきましては、近況ボードをお読みくださいませ。
《皆様のご愛読に、心からの感謝を申し上げますm(*_ _)m》
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる