不幸連続コンボからの、猫と隣人に拾われてます

まと

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「おかしいなぁ」

なぜ王子様は、私に興味を示さないのだろう?
初めて出逢ったあの日も、その後も。
視線が交わることはあっても、そこに熱は宿らない。
まるで私なんて、そこらへんに転がっている石かのように。
...なんて、そんなことあるはずないけど。

でもおそらく...邪魔してるのは楓くんだよね。
いや間違いなくすべては楓くんのせい。
それだけはあの二人を見ていれば分かった。
私はそういうの、すぐ気付いちゃうタイプなんたから。
それにしても王子様の微笑みを独占しているのがあの地味な楓くんだなんて、ありえなくない?
なんで楓くん??
分からなすぎて、意味不明で胸の奥がじりじりと焼ける。
私、欲しいものは絶対に手に入れなきゃ気が済まないのに。
そのもどかしさに心が軋んで裂けていく。

「それにしたって本当に...使えないなぁ」

スマホをチェックしても、いまだなんの連絡もなし。
そう、この頃わたしの大切なATM(施設長)が、全くといって姿を現さないのだ。
ほんと、愛情も、お金も、中途半端なんだから。

「なんだか虚しいなぁ」

お金があれば取り敢えず楽しくて幸せなのに。
いつも都合よく差し出されるはずのお金が途絶えたとき、胸の中に空洞がぽっかりと広がった。

なぜわたしは一番になれないのかな?
引き取られた場所でもそう。
ATM(施設長)だってそう。
私を特別だと持ち上げて、甘い言葉で可愛がっておきながら結局は楓くんが一番だった。
私のことは簡単に小金持ちレベルのしょうもない里親に渡したくせに、楓くんのことだけは絶対に手放さなかった。
まあさすがに成人してからは施設を離れたようだけど。
それでも結局は自分の目の届く場所に楓くんを縛りつけていた。
ねじれた愛情と執着。
そんな気持ち悪いもの、私は御免だ。

そういえばATMから巻き上げたお金の出所の一部は、楓くんからだっけ。
そう考えるとウケる。
私はいつも楓くんからなにかを奪ってしまう人生なんだなって。
でも仕方ないよね?
これは自然の摂理のようなものだから。

「ふふふ、また奪っちゃうけどごめんねぇ?」

今の私にとって必要なのは、ただ一つ。
あの王子様の心だけ。
それさえあれば、他のものなんて全部どうでもいい。

天澄めいじの好みは控えめで、清楚な感じだろうか?
なんとなく派手に着飾る必要なんてない気がした。
むしろ余計な装飾は彼の目を遠ざけてしまう。
チラつく地味で平凡な男に舌打ちして、気を取り直して可愛く笑う。

化粧は薄めに。
肌は自然なまま、あくまで素顔に近い印象で。
香水の香りは強くないものを選ぼう。
甘ったるい匂いは邪魔になる。
すれ違ったときにふわっと漂うくらいでいい。
彼が気付くか気付かないか、その境目がいいのだ。
なにを言ったって、結局は男は女を見た目で選ぶ。
大丈夫、私はそこらのアイドルより可愛いもの。
楓くんがいなくなったいま、きっと彼の視線は私に止まるはず。
いずれ他の誰よりも、楓くんなんかよりも私を選ぶはず。

楓くんに会いに来た、そう装って私は再びこのマンションを訪れた。
ガラス張りのエントランス、磨き上げられた大理石の床、柔らかく灯る間接照明。
どこを切り取っても洗練されていて、ため息が出るほどに美しい。
まるで選ばれた者だけが住むための、箱庭のよう。
やっぱり違うと思った。
こんな場所、楓くんには似合わないよ。
彼には古びた鉄の階段がきしむような、そんなずたぼろなアパートがちょうどいい。
壁紙が少し剥がれていて、雨の日には天井からぽたりと水が落ちるような...そういう場所でこそ彼は存在すべきなのだ。
高級な輝きの中では、ただの異物になってしまう。

私は最高にキュートな笑顔をつくってインターフォンを鳴らす。
そしたらほら。
天澄めいじは、やっぱり私を迎え入れるようにして簡単に部屋へと入れてくれた。


「楓くんがいなくなったって本当ですか?!」

声を張り上げながら、胸の奥では甘美な熱が広がっていく。
悲しみを装いながら嗤う心を隠して。
意外に仕事早かったね、楓くん。
エライエライ。

それより目の前に出されたコーヒーカップは、セットでいくらするだろう。
透き通るような白磁に金彩が施され、そこにあるだけで場の格を高める。
いま腰かけている椅子も、テーブルもイタリア製の高級品。
部屋の奥に鎮座する大きな革張りのソファは、ひとつでそこそこの車が買えるほどの値打ちがあるだろう。
ひとつひとつが高価で、揃えるだけで人生を飾れるようなものばかり。

きっとそんなこと、楓くんは知らないだろうけど。
そして何も知らず、無邪気にただここに座ってのほほんとしているのだろう。
本当に呆れる。
この豪奢さがどれほど異様で、どれほど彼に似合わないか。

「まじでムカつく」

「え?」

「いっ、いえなんでも。ふふっ」

しまった。
あまりにも楓くんがウザッたらしくて、思わず声に出してしまった。
もちろん小さな声だったはずだから、きっと彼には届いていない。
めいじさんは、不思議そうにきょとんとこちらを見つめている。
ああ、その顔。
警戒心のかけらもなく、ただ純粋に首をかしげているだけ。
どうしてこんなにも可愛くて、そして無防備にイケメンなのかしら。
肌なんてエステ通いのかかせない私より綺麗だ。

私は表情に悲しみをのせてめいじさんを見つめる。

「楓くん...置き手紙だけ残していなくなったんですか?」

めいじさんは穏やかに頷いた。
ん?
あれ、それほど落ち込んでいるようにも見えない。
特別な関係に見えたのは、もしかして私の勘違い?
やだ、楽勝みたい。

「突然いなくなることへの謝罪と、マリエンヌとオレの作り置きを冷凍庫に入れていくってことだけ」

「そう...なんですか」

……は? なにそれ。
そういうの、いらないんですけど。
私はちゃんと伝えたはず。
痕跡なんてすべて消して、跡形もなく出ていけって。
本当に未練がましい。
吐き気がするほど滑稽で、苛立たしい。

それにあの化け猫は?
私、いらないって言ったよね?
出てくときに一緒に連れていけよ。
全く使えない。
私にはもっと私に似合うペットがいるの。
醜い化け猫とは歩けないっつーの。

少し離れたソファの上から、じとりとした視線が突き刺さる。
化け猫のマリエンヌ。
いや……なにがマリエンヌよ。
全く似合わない名前が笑えるほど滑稽だ。
天澄めいじ、その名前のセンスだけは本当に疑うわ。
でも仕方ない。
いまは手懐けるしかないよね。
撫でて笑いかけて、いつのまにか爪を切り落としてしまうように。
飼いならしたふりをして、いざとなれば……いつでも。

「本当にどこに行っちゃったんだろう、楓くん。そんな無責任な人だったなんて...」

私はゆっくりと立ち上がり、ソファにいる化け猫の側へ歩み寄る。

「マリエンヌも寂しいよね? ねえ、マリエンヌ、あなた知らない? 楓くん、どこに行っちゃったのかなあ」

わざと優しい声色をつくって、問いかけながらその頭に手を伸ばす。
仕方なく撫でてあげるふりをして。

その瞬間だった。

「しゃーーーーーっ!!」

鋭い声とともに、爪を立てるようにして威嚇される。

「きゃあっ!」

なに?!
なんだっていうの、このクソ化け猫!!
一歩後ずさりした私の胸に、熱い怒りが突き上げてくる。
……やっぱり、この化け猫。
私の敵だ!

「大丈夫? 莉央さん。ケガない?」

「あ...はい...わ……私、驚いて。ごめんね、マリエンヌ。びっくりさせちゃったよね?」

「こちらこそごめんね。マリエンヌはヒトを選ぶところがあって」

「へ...へぇ~」

なにそれ。
この化け猫、楓くんのときは大人しく抱っこされてたじゃない。
そんな態度を見せておきながら、私には威嚇するなんて。
ふうん。
本当に嫌いだわ、コイツ。
絶対に許さないから。

「あ、今のでソファに傷が!」

どんだけ強くひっかいたのよ。
爪を立てるその力強さに思わず唇を噛む。
もし私の磨き上げた肌に傷をつけたら...絶対に、ただじゃおかないんだから。
悔しさと苛立ちが胸の奥で熱を帯びる。
この化け猫に、こんなにも心を乱されるなんて。

「私が急に触ろうとしたから……ソファ、ごめんなさい...めいじさん」

クソ化け猫を庇うフリをして、めいじさんをうるうると見つめる。
これで落ちない男はいない。

「気にしないで。どうせソファは買い換えようと思っていたから」

「え……?」

さすが、お金持ち!
少し傷がついただけで買い換えるなんて、なんて余裕があるんだろう。
ふふん、そうね。
この黒くて少しモダンすぎるソファは、確かに良いものには違いないけど私には冷たく感じる。
次に選ぶなら、もっと優しい色合いのもの。
そう私に似合うものがいいわね。

「もっと優しい色合いのものにしようと思ってるんだ」

「!」

そうよね?!そうしましょ!
私も一緒に選んであげる。
だってソファは愛する二人が仲良く使うものだもの。

「楓さんの前住んでたアパートのソファと、似たような素材と色合いのものにしようと思って。革張りじゃなくてファブリック素材の」

 は...?

「は……?」

「前に聞いたことがあるんだ。大事にしてたソファがたまに恋しくなるって」

「いやちょっと待って」

え...、あれ、おかしいな。
コノヒト、ナニイッテルンダロウ?

「楓くんはここを出ていったんじゃ...」

「ああ、でもすぐ戻ってくるから」

その声と共に、めいじさんがこちらをじっと見つめる。
唇の端に浮かんだ微笑みは、あまりにも色気に満ちていてくらりと揺れそうになる。
……だけど、その言葉は残酷だ。
私の心をからかうように、アイツの存在をちらつかせて。
触れられない、手の届かないものを前に突きつけられる...そんな痛みが、胸を締め付ける。

めいじさんのその淀みない自信に、つい焦ってしまった。
近づいて、めいじさんのシャツの裾を震えた手でキュッと握る。

「めいじさん...あの、私じゃ、だめかな?」

気付けば勝手に口から漏れてしまっていた。
頭ではわかっている。こんな言葉を口にしたら上手くいっても私は負けるのだと。
愛には必ず上下関係がある。
私は頼まれて、ようやくあなたと一緒にいてあげるの。
そうやって関係性を築き上げていかなくちゃいけないのに。
それなのに、どうして私から口説かなきゃいけないの?

けれど出てしまった言葉は取り返せない。


    
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