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アーネラ様との日々
しおりを挟む「??あらどうしましたの??座ったままお眠りになったのかしら…ニナさん?」
「ニナ様??頭がお痒いですかー??」
いや、違うじゃん。土下座だよ!!こう見えて謝罪してるんですけど…。
アーネラ様とララウが、不思議そうにどうしたのかと話しかけてくる。
だってさ、もしかしたら自分の旦那になる人が、こんな獣とチュッチュしてたら嫌じゃん。
ムクリと顔を上げる。
すっごいマヌケでしょう、今のオレ。
パラパラと、おでこについた土が落ちてくるのが分かる。
あらあらとアーネラ様が近寄り、まさかのハンカチーフでおでこについた土を払ってくれる。
嘘だろ?めちゃ良い人じゃん。
「ふふっ、ルイの事をあなたに聞いても分かりませんわよね」
距離が近すぎる美女にドギマギしてしまう。
上目遣いでアーネラ様を見つめる。
「ルイの気持ちは、ルイにしか分からないものね」
そう呟きながら、オレの頭を優しく撫でて頬を擦る。
ペロリ。
あっやっちゃった。
やっちゃった!アーネラ様の美しい手をペロリしてしまった!!
ぺろぺろ。
やばい、しかも止まらない。
どうにかして欲しい…このホワイトタヌキの本能!
「あらあら、まあまあっ!」
目を見開き驚くアーネラ様。
オレだって驚いてアーネラ様を伺う。
もちろん舐めながらな!
「なんて可愛らしいのかしら!!」
「そうなのですよ、アーネラ様!屋敷の使用人達も皆、ニナ様のとりこなのです!
ホワイトタヌキの姿ももちろん、人の姿もお人形のように整っていて可愛らしいのですよ!」
「え?人の姿?」
ちょっ!ララウ!何でこのタイミングで言うかな??
女の人の手をペロペロ舐めといて人化って、気まずいじゃん!
今のオレなんて、前脚をアーネラ様のお膝に置いちゃってるから!
もうちょっとしたら、抱っこねだるくらいには可愛がってもらおうとしてるからっ。
もう仕方ないのよ。勝手に身体が動いちゃうんだって。
はあ…。
オレはアーネラ様から少し離れ、ポンッと人化する。
「まあ…」
青い薔薇の蕾に囲まれて、オレはアーネラ様と向き合った。
「はじめまして、アーネラ様。ニナって言います。えと…王子のペット??みたいな感じで、この屋敷でお世話になっています」
ペコリと頭をさげて、とりあえずニコリと笑う。
これが、オレとアーネラ様との出会いだった。
それからというもの、オレとアーネラ様はとても仲良くなった。敬語すら使ってない位には仲良しだ。
そして、オレの方が懐きすぎてやばいくらいだった。
何故かというと、あの日からアーネラ様はこの屋敷にお泊まりしている。
庭で挨拶をした後、オレの人化姿を可愛らしいと連発してくれたアーネラ様。
そして急に、「私、こちらに少しだけ滞在いたしますわ!」と言い出した。
一応アーネラ様側から、王子に伝達したみたいだけどね。
実はアーネラ様こそが隣国のお姫様で、この屋敷に青い薔薇を贈ってくれた張本人らしい。
「ニナ、こちらのケーキも美味しいわよっ。あーん」
「あーん…もぐもぐ…美味しいっ!ね、アーネラ様、こっちも食べてみてよ」
当たり前のように、一口サイズに切ったアップルパイにフォークを刺して、アーネラ様にあーんしてあげる。
「あーん、…んんっ!甘酸っぱくてパイ生地もサクサクで美味しいわ」
顔を合わせてニコニコと笑い合う。やっぱり誰かと食事をするのは好きだ。
「でも、この間頂いたパンもとても美味でしたわ」
「本当!!?隣国のお姫様が、おじさんのパンを誉めてたよって言ったらめちゃくちゃ喜ぶだろうなぁっ」
照れながらも驚くおじさんを想像したら笑っちゃった。
庭でお茶をした後、手を繋いで庭を散歩する。
「アーネラ様、綺麗な青い薔薇が沢山咲いたね」
「…本当…とても立派に咲かせて…素晴らしいわ…」
柔らかな風が、アーネラ様の美しい黒髪を靡かせる。
目を閉じて薔薇の香りをスンと吸う横顔は、とても綺麗で切ない。
「このお屋敷にこの薔薇を贈ったのは、友好としての証だけじゃないの…」
言葉を発する事なく、アーネラ様の言葉を待つ。
「皮肉と言うか、当て付けと言うか…。
何となく分かると思うけれど、歳の近い私とルイは幼い頃から交流があったの。
昔からルイは何でも出来て、何でも持っていた。
それなのに、いつも周りには興味を示さず涼しい顔をしていて…それが無性に腹がたつ事もありましたの」
「この薔薇は、品種改良を何度もして作り上げ、育てるのがとても難しい筈なのに…。
…育てられなかったルイを見てみたかったのね、私。
でも、庭師まで完璧なのだもの…本当嫌になるわ」
確かに、友好の証として贈られた花を枯らせるのは、少し問題なのかもしれない。
ククタリの仕事って今更ながら大変だ。
本人は何も考えず、咲かせてそうだけど。
「アーネラ様…王子の事、嫌い?」
「まあ鼻につく所はありますけれど、憧れてしまう所はありますわね…」
「そっか…」
それが、恋とか愛とか名が付く感情なのかは分からない。
けれど初めて屋敷で会った時、アーネラ様は後宮入りを望んでいるような言い方をしていた。
きっと、王子が好きなんだよね。
それから、アーネラ様と夕食を共にして床につく。
「おやすみなさい、ニナ」
「みぃあ~」
そう、まさかのオレの部屋で。
この屋敷でオレにと用意された部屋は、オレにはもったいない位の広さとゴージャスさで、大きなベッドもある。
そして、城で殿下がプレゼントしてくれたペットハウスと同じ物を、王子が用意してくれていた。
まあどちらで寝てもいい感じになっている。
「ニナ、今日は一緒に寝ましょう」
と、突然オレの部屋に訪れたアーネラ様。どうやらもふもふしながら寝たいらしい。
それにはさすがのオレも戸惑った。だってオレ一応オスなんですけど??
だけど、今日の庭園でのアーネラ様の様子が気になったのもあり、まあホワイトタヌキだし?と開き直り一緒に眠る事にした。
もちろんドアの前には、アーネラ様のお付きの人が控えている。何もする訳ないけど、ちょっと怖い。
ベッドに入って、アーネラ様の横にコロンと転がる。
頭がぽやぽやして眠たい。人と眠るのは久しぶりだ。
アーネラ様が、もこもことオレの身体を撫でてくれる。
「ニナ、私と仲良くしてくれてありがとう。こんな愛らしいお友達が出来て、とても幸せだわ…」
「みぃあー…」
オレも、オレもアーネラ様と仲良くなれて嬉しい。
でも、アーネラ様の声も眠そう。
まだ話していたいけど、また明日、沢山話そうね。
……………………
「ニナ」
「起きて、ニナ」
んん?と薄く目を開く。何?まだ暗いじゃん。
なんも見えない。
どうやらオレはアーネラ様に、抱っこされて寝ているようだ。細い手がオレのお腹に周っている。
頭上から、アーネラ様の可愛らしい寝息が聞こえる。
そしてウトウトと再び眠りかけた時…。
「ニナ、おまえは悪い子だね」
えっ、と意識が戻る。
ゆるりと目を開けると、ベッドサイドに誰かが立っている。
「これは許せないなぁ」
ひっ!!!
目が慣れて誰かとハッキリ分かった時、声にならない悲鳴が出た。
(王…子…)
仄暗い闇の中で、うっすらと笑みを浮かべる王子が、オレを見下ろし立っていたから…。
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