Chocoholic 〜チョコ一粒で、割といろいろがんばります〜

明日葉

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いっそ怒って欲しい

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 レイに抱えられるようにしてローランドの家に転移で戻ったリラは、最初こそまだアレンディオともイルクともきちんと話し終わっていないと不満げにレイに訴えていた。
 呆れた眼差しで自分の腕の中で不服を訴えるリラを見下ろしながら、レイは耐えきれずため息をついた。

「お嬢。これでも、我慢して待っていたんです。礼を言われこそすれ、不満を言われる覚えはありませんよ」


 我慢、と言う言葉にリラは眉根を寄せる。
 ただ、リラがアレンディオに言ってあの部屋の扉を閉ざさせたのは、リラがやろうとしていたことをレイもシオンも見過ごしてはくれないだろうとは分かっていたからで。
 そして2人が、とりあえずは、リラの気が済む程度には放っておいてくれたのもわかる。
 それでも。


「まだ、アレンのお見舞い、ちゃんとしてなかったのに」


 拗ねた顔で目を逸らすのを見れば、レイのため息は深くなる。
 ため息をつきながら、抱え上げているリラの肩に額を落とした。悪気はないのが分かっているからたちが悪い。
 もちろん、このところレイから体で教え込まれているリースにも悪気はなかった。ただ、リースについては不用意であったことと、本人がそれを望んでいたから。

「レイ?」


 額を埋めてしまったレイを気遣わしげにリラは見ようとするけれど、しっかりと抱え込んだ腕は緩むことがない。
 数日前、ローランドに抱き上げられて驚いていたリラだが、その後抱き上げて強制的に移動させられることが重なり、どうやら驚くほどのことでもなければ、男の人にとってはそれほど大変でもないらしいと、間違った理解に及んでいる。
 普通であれば大人の女性を抱え上げることは男性にとっても容易なことではないのだけれど、なまじ彼女の周りにいるのがしっかりと鍛えられた男性ばかりだったということが誤解を生んだのだけれど。別段正す必要も周囲は感じていない。他の誰かがどうかなんて、リラが知る必要はないのだから。





「レイ」


 しばらくそうして無自覚なリラの言動への葛藤やら煩悩やらを押さえ込もうとしていると、地を這うような声に呼ばれ、レイは小さく舌打ちをする。
 しっかりそれを聞いていたリラは、呆れた思いで自分を抱える執事を見つめた。リースにあの声で呼ばれて舌打ちをするような心臓の持ち主はレイくらいだろうな、と。
 不機嫌丸出しのリースが歩み寄るのを眺め、レイは諦めてリラを下ろし、背後にリラを置いて対峙する。そもそもの不機嫌の原因はリラが城でやらかしてくれたことなのだが、今はそれがレイの今の振る舞いにも向けられていることを承知で、レイは素知らぬ素振りで主人に対する模範的な執事の礼をとる。





 レイがリラに甘いのは昔からで、それについてリースは今更何を言う気もない。そもそも、シェフィールド家にこの優秀すぎる男が使用人などという立場で居続ける原因がリラなのだから。主従関係から行けばリースが上なのだが、幼い頃から面倒を見られ、そして一通りの振る舞いなどから剣の扱いなど何から何まで自分に仕込んだレイに、結果的にいまだに実力において敵わない。
 それでも、見過ごせないことは主人としての圧力を使ってでも言っておきたいわけで。



「認めたのは、アレンディオの見舞いだけだぞ」


「見舞い先に他の見舞客がいたものですから」
「ほう…?」


 平然と言ってのけるレイを、リースは目を細めて見据える。
 そのレイの背後で、リラにしてみればいっそ一思いに怒られてスッキリしたいところだったのだが。けれど、ただ怒られるだけで済まない可能性が高いことを承知しているレイがリースの望む通りにリラを引き渡すことはない。自分の背でリラが何を思っているかは承知の上で、そのくらいの居心地の悪さは罰として軽いくらいだと思いながら、レイは平然と、リースと向き合う。


 そこにタイミングよく家の主人であるローランドが帰宅したのは、まるではかったようで。


 実際、そこまでレイは計算していたのだが。リラを連れ帰る段階で、ローランドが騎士棟を離れる気配を掴んでいて連れ帰った。リースからリラを離すには、間借りしている家の主がちょうど良い。苛立ったリースにそのままリラを引き渡せば、厄介なことこの上ない。力づくでやろうとすれば、リラが嫌な思いをする。



「あ、ロー様。おかえりなさいませ」



 この状況でも、帰宅したローランドに当たり前に声をかけるのはさすがだな、と背に隠したリラの声に苦笑を漏らしながら、レイもローランドを迎える姿勢をとる。
 不穏な気配に顔をしかめながらも、リラに迎えられたローランドの顔には隠しきれない嬉しそうな色が浮かんでいて、レイはやれやれと苦い気持ちになる。この男がリラを望んでいることは少なくとも間違いのないことで、そしてリラを守るのに十分すぎるほどの力もある。


「お嬢様、リース様とのお話は私がしておきますから、ローランド様のお手伝いをしてください」

「え?」

 珍しいことを、しかも外向きの執事の顔全開に言われ、驚いてリラはレイの顔を見上げる。整ったその顔から真意を図るにはレイが本心を隠すのに長けてい過ぎてリラには正確には読み取れないが、ただ、ここから離したがっていることは確実で。

 従おうとする背中にリースの硬い声がかかる。


「リラ。今日の夕食後は、わたしの部屋に来るように」

「分かったわ」







 主従で対峙する場から離れると、ローランドはレイに言われた通りに自分についてくるリラを見下ろして、それから目を逸らす。
 手伝え、と言われても、これからローランドがするのは着替えだ。手伝われても…嬉しいが困る。

「リラ、俺は自分でできるから。あの場を離れたかっただけだろう。手伝いはいい」
「…」


 困惑顔で見上げるその表情に思わず手を伸ばしたくなるのを、今は抑えようと思いながら、ローランドは首を傾げる。
 レイが自分の方にいかせてまで離したがったほどに不機嫌だったリース。

「何があったんだ?」

 問われれば、さすがにリラにも、ローランドに正直に言うのは得策ではないことくらいは分かって。
 ただ、その間がローランドに、リラが何か、望ましくないことをやらかしたことを察するきっかけを与えてしまう。目を細めたローランドの気配に、これはさっさと言葉に甘えて下がった方がいい、とリラが判断するのは、遅かった。



「やっぱりおいで、リラ」



 言葉は優しいけれど有無を言わせない空気で、しかも振り払えない優しさで手をひかれ、リラは表情を固くする。


 いい笑顔のローランドは、そのまま自室にリラを引き込んだ。





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