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それからどうした
しおりを挟む10年以上恋愛ごとから遠ざかっていたと言う彼女は、今時の子供たちよりも奥手で。キスでも恥ずかしがる。
でも、関係を表す言葉を恋人にしてもらったのだから、遠慮なんてできるわけもない。俯いた彼女に口付けたまま上向かせるのも、たまらないとか。
自分の重症ぶりは自覚は、している。
その先に進むのは、反応を見ながらにはなったけれど。
キスだけでも多幸感で気持ち良いのだけれど、それで引き寄せた体の柔らかさとか体温とか。
なにぶん20代。
時間の開いた彼女の体は、一からと同じようなもので、それがなおさら嬉しくもなる。その響きを口にするのも躊躇うほどに彼女の中を占め続けた誰かの存在は気にならないといえば嘘だけれど、彼女を手放した誰かにようはない。見る目がないのかなんなのか。おかげでと言ってやればスッキリするだろうかとか、想像もする。
年を気にするけれど、彼女が心配しているようにはうちの家族は気にかけていない。決まった相手を作ろうとしなかったオレが相手を作っただけでいいんだろう。会わせれば、生真面目な彼女はすんなりと受け入れられていたのだけれど、どうにも自信がないらしく、そこはなかなか聞き入れられない。
1ヶ月が過ぎれば、いつ答えを出されてもおかしくないと思うと緊張感がとんでもなくて。
伝わるのか、彼女まで緊張している日が続いて、それに耐えるのも限界、と言うのが同じ時期でよかった、と、思う。
味気ない茶封筒。
両手で持って、こちらに差し出された。
手を伸ばして、持ったのに、彼女が手を離そうとしない。
「奈由?」
「あの、やっぱり…」
「だめ、これ、答えでしょ」
「…開けるの、待って」
生殺しか!と、悲鳴をあげそうになったけれど、緊張からか、封筒を握ったままの彼女の手が震えていて、声を飲み込んで、つい、手を伸ばして彼女の手に手を重ねて、封筒を持つ。
少し、前のめりになった彼女が、額を胸に預けるから、体温が一気に上がる気がした。
「きみの部屋に、今日は泊まっていい?」
久しぶりの、きみ、と言う響きと、その内容にどんどん強くなる鼓動は確実に聞かれている。抱きしめたい衝動を抑え込んで、目の前にある彼女の肩に額を乗せて、頬をすり寄せた。
「ずっと、泊まっていい。住んでいい」
ふふ、とかすかな笑いが漏れて、少しだけ空気が緩む。
「今日は、何もしないで、一緒に寝よ?」
「えっ」
思わず声が漏れた。
彼女も気付いているのに、さっきオレがすり寄せた頬に、すり、とやり返して耳元で、がまん、と小さく言われる。
やっと、彼女の手が離れた封筒を、あの、いつも仕事を教える指で指差した。
「わたしが寝たら、中を見てね?」
封筒から、出した紙に、付箋が一枚。
やっぱり無理、だったら、朝、わたしが起きるまでに破いて枕元に置いてください。
そのままだったら、これを出したら、もう、離してあげられないから。
しっかりと、書かれた名前。
嘘みたいに、涙が出て来て止まらなかった。
彼女が眠るベッドの縁に腰掛けて、おさまるのを待っていると、ほっそりした腕が腰に絡まって、腰のあたりに息遣いの熱と湿気を感じる。
「起きてるの?」
「起きてないよ」
起きてないと言うなら、そうなんだろう。
彼女の願い通りに、照れ屋な彼女に時間をあげよう。
全部全部我慢して、腕の中に囲い込んで。
朝起きたら、封筒の上の小さい箱に気づかせて。
我慢した反動は、覚悟してるでしょう?
君が躱し続けるのを我慢し続けた結果、なりふり構わずにきみが首を縦に振るまで離さなかったんだから。
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