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第10話・カシリアは気になった
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「殿下、リリス様に辞退についてお尋ねになるのではなかったのですか?」
「そうだったな・・・」カシリアは曖昧に返事をし、何か適当な理由をつけて話題を変えたがっていた。
「何にせよリリスは辞退しなかったのだから、私も復習をせねばなるまい。まだ負けたわけではないのだからな。」
「······。」ナミスはすぐには答えなかった。殿下は簡単に気が変わるような性格ではなく、またあのリリスが手にクリームをつけていたのも大変な驚きだ。二人の間にきっと何かあったに違いないとナミスは思った。
「殿下、先程リリス様と何かあったのですか?」
「・・・。何もない、私は今来たばかりだ。」カシリアは少し間をおき、言葉を変えて、
「ふむ・・・、何も奇妙なことはなかったな。お前の方はどうだ?リリスに何か気になるところはあったか?」
「リリス様の左手にクリームと思われるものがついているのを見ました。リリス様の性格から言って、彼女が手を汚すような状況はちょっと想像できません。まして今日は食堂へも行っていません。」
「そうか・・・他に何か異常はなかったか?」
「他にとおっしゃいますと?」
「うむ、例えば精神状態などだ。」
「・・・。そちらには何の異常も見て取れませんでした、殿下。」ナミスはニヤリとし、様々な推測を始めた。やはりさっき何かあったに違いない。そうでなければ殿下がこのようなことを尋ねるはずがない。
「そうか・・・」カシリアは何か考え事をしている。
「ナミス、確かあと二人公爵の継承人がいたな、彼らの成績は良いのか?」
「宰相ロニーロ公爵のご子息ヤリク閣下とトゥーラン公爵ご子息のランス閣下ですか、彼らは既に卒業しましたが、記憶によると成績は中程度です。」
そうなのだ。貴族は王族と違って複雑な政治問題に関わる必要がなく、ただただ普通の貴族としておとなしくしていれば、その爵位によって一生安泰でいられるのだ。
「ナミス、この学校の成績優位者10名にはどのような身分の者がいる?」
「殿下とリリス様を除くと、伯爵一名、子爵2名、男爵3名、平民が1名となっております。」
「そうだな・・・それが普通だな・・・」カシリアは苦悩していた。
どのような国家でも優秀な統治者を選ぶために、王族に対して、社交界を支配する能力以外に、知性に対する強い要求がある。そのために、王族は最高の教育を受け、学校の出題傾向にも影響を与えることができ、この独特の強みによって、通常はその学校の主席になる。
平民の身分でこの学校に入れるためには、言うまでもなく、並々ならぬ努力をせねばならない。しかも家で学問だけをするわけにはいかないし、高度な教育を受けることもできない。故に上位になれる平民は少ない。
男爵と子爵は爵位としては低いので、良い成績を取らない限り、社交界でそれほど注目を集めることはできない。だから一般的に言って彼らの親は子に強く勉学を勧め、余裕があれば高い教育を受けさせる。また社交界にそれほど時間を浪費しなくて良いので、その時間を勉学に当てることができる。だから上位者に低い爵位のものが割合多いのだ。
高位の爵位である公爵や侯爵、伯爵となると状況は大きく異なってくる。なぜなら彼らはそれぞれの領地の統治者だからだ。ゆえに学校の成績よりも、社交界での能力を重視し、統治者としては、優秀な部下を得ることができればそれで良いのであり、自身の成績はそれほど求めない。また、彼らは社交界に多分の時間を浪費し、勉学に使う時間は少なくなる。たとえ質の良い教育を受けたとしても、とても間に合わない。なので通常は公爵、侯爵、伯爵の継承者の成績は振るわない。
だが・・・
リリスは例外中の例外だ。
上流社交界の頂点として、常に注目の的であり、王族でもかなわないのだから、社交界で浪費する時間も相当なもののはずだ。そうであるはずなのに、成績も長年の間圧倒的首位に立っている。もし何も特殊な事情がないとしたら、それこそおかしな話である。
「特殊な事情か・・・。」カシリアはリリスがバラ園で泣き崩れていた情景を思い出すと、眉をひそめずにはいられない。
「······」ナミスはカシリアの様子を黙って見ていた。
「ナミス・・・もしお前が公爵の継承人だったら、私に仕えていたか?」
ナミスはカーノン子爵の子で、そのずば抜けた諜報力で私の親衛隊隊長となった。
「殿下・・・私が努力し続けてきたのは、お仕えすることが家に栄誉がもたらされ、あるいは上位の位をいただける可能性があるからです。もし私が公爵の子でしたらなら、努力し続けることはできないのではと存じます。」ナミスは正直に答えた。
利益のためか。利益のためというのはこの世界で最も単純でかつ信用できるものだ。あるいは一切の行動の原動力かもしれない。リリスは貴族として、この簡単な道理を理解すべきだ。本来はこうなのだ。
では、【初めから全てを持っている】リリスはなぜ自身をそこまで追い詰めるのか?
今持っている情報だけでは、その理由はわからない。
「ナミス、頼みがある。」
「何なりと。」
「父王に知られることなく、人を使うことなく、もちろん誰かに知られないよう、密かに近頃のタロシア家の様子を探ってくれ。それを明日から毎日報告せよ。」
「かしこまりました。しかし殿下、何故でございます?」ナミスはある程度予想していたとはいえ、カシリアの命令はその予想を遥かに超えていた。
「・・・。大した理由はない。ただ少々知りたくなったのだ。」
ただ知りたいだけだ。なぜリリスはこのような境地にその身をおくのか。
ただ知りたいだけだ。なぜリリスがあのように嘆き悲しんでいたのか。
そうだ。ただもっとリリスのことを知りたいだけなのだ。
「そうだったな・・・」カシリアは曖昧に返事をし、何か適当な理由をつけて話題を変えたがっていた。
「何にせよリリスは辞退しなかったのだから、私も復習をせねばなるまい。まだ負けたわけではないのだからな。」
「······。」ナミスはすぐには答えなかった。殿下は簡単に気が変わるような性格ではなく、またあのリリスが手にクリームをつけていたのも大変な驚きだ。二人の間にきっと何かあったに違いないとナミスは思った。
「殿下、先程リリス様と何かあったのですか?」
「・・・。何もない、私は今来たばかりだ。」カシリアは少し間をおき、言葉を変えて、
「ふむ・・・、何も奇妙なことはなかったな。お前の方はどうだ?リリスに何か気になるところはあったか?」
「リリス様の左手にクリームと思われるものがついているのを見ました。リリス様の性格から言って、彼女が手を汚すような状況はちょっと想像できません。まして今日は食堂へも行っていません。」
「そうか・・・他に何か異常はなかったか?」
「他にとおっしゃいますと?」
「うむ、例えば精神状態などだ。」
「・・・。そちらには何の異常も見て取れませんでした、殿下。」ナミスはニヤリとし、様々な推測を始めた。やはりさっき何かあったに違いない。そうでなければ殿下がこのようなことを尋ねるはずがない。
「そうか・・・」カシリアは何か考え事をしている。
「ナミス、確かあと二人公爵の継承人がいたな、彼らの成績は良いのか?」
「宰相ロニーロ公爵のご子息ヤリク閣下とトゥーラン公爵ご子息のランス閣下ですか、彼らは既に卒業しましたが、記憶によると成績は中程度です。」
そうなのだ。貴族は王族と違って複雑な政治問題に関わる必要がなく、ただただ普通の貴族としておとなしくしていれば、その爵位によって一生安泰でいられるのだ。
「ナミス、この学校の成績優位者10名にはどのような身分の者がいる?」
「殿下とリリス様を除くと、伯爵一名、子爵2名、男爵3名、平民が1名となっております。」
「そうだな・・・それが普通だな・・・」カシリアは苦悩していた。
どのような国家でも優秀な統治者を選ぶために、王族に対して、社交界を支配する能力以外に、知性に対する強い要求がある。そのために、王族は最高の教育を受け、学校の出題傾向にも影響を与えることができ、この独特の強みによって、通常はその学校の主席になる。
平民の身分でこの学校に入れるためには、言うまでもなく、並々ならぬ努力をせねばならない。しかも家で学問だけをするわけにはいかないし、高度な教育を受けることもできない。故に上位になれる平民は少ない。
男爵と子爵は爵位としては低いので、良い成績を取らない限り、社交界でそれほど注目を集めることはできない。だから一般的に言って彼らの親は子に強く勉学を勧め、余裕があれば高い教育を受けさせる。また社交界にそれほど時間を浪費しなくて良いので、その時間を勉学に当てることができる。だから上位者に低い爵位のものが割合多いのだ。
高位の爵位である公爵や侯爵、伯爵となると状況は大きく異なってくる。なぜなら彼らはそれぞれの領地の統治者だからだ。ゆえに学校の成績よりも、社交界での能力を重視し、統治者としては、優秀な部下を得ることができればそれで良いのであり、自身の成績はそれほど求めない。また、彼らは社交界に多分の時間を浪費し、勉学に使う時間は少なくなる。たとえ質の良い教育を受けたとしても、とても間に合わない。なので通常は公爵、侯爵、伯爵の継承者の成績は振るわない。
だが・・・
リリスは例外中の例外だ。
上流社交界の頂点として、常に注目の的であり、王族でもかなわないのだから、社交界で浪費する時間も相当なもののはずだ。そうであるはずなのに、成績も長年の間圧倒的首位に立っている。もし何も特殊な事情がないとしたら、それこそおかしな話である。
「特殊な事情か・・・。」カシリアはリリスがバラ園で泣き崩れていた情景を思い出すと、眉をひそめずにはいられない。
「······」ナミスはカシリアの様子を黙って見ていた。
「ナミス・・・もしお前が公爵の継承人だったら、私に仕えていたか?」
ナミスはカーノン子爵の子で、そのずば抜けた諜報力で私の親衛隊隊長となった。
「殿下・・・私が努力し続けてきたのは、お仕えすることが家に栄誉がもたらされ、あるいは上位の位をいただける可能性があるからです。もし私が公爵の子でしたらなら、努力し続けることはできないのではと存じます。」ナミスは正直に答えた。
利益のためか。利益のためというのはこの世界で最も単純でかつ信用できるものだ。あるいは一切の行動の原動力かもしれない。リリスは貴族として、この簡単な道理を理解すべきだ。本来はこうなのだ。
では、【初めから全てを持っている】リリスはなぜ自身をそこまで追い詰めるのか?
今持っている情報だけでは、その理由はわからない。
「ナミス、頼みがある。」
「何なりと。」
「父王に知られることなく、人を使うことなく、もちろん誰かに知られないよう、密かに近頃のタロシア家の様子を探ってくれ。それを明日から毎日報告せよ。」
「かしこまりました。しかし殿下、何故でございます?」ナミスはある程度予想していたとはいえ、カシリアの命令はその予想を遥かに超えていた。
「・・・。大した理由はない。ただ少々知りたくなったのだ。」
ただ知りたいだけだ。なぜリリスはこのような境地にその身をおくのか。
ただ知りたいだけだ。なぜリリスがあのように嘆き悲しんでいたのか。
そうだ。ただもっとリリスのことを知りたいだけなのだ。
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