罪人・完璧令嬢リリスの死に戻り~お伽噺の王子様とお姫様の幸せ、そしてそれを傍観しているもう一人のお姫様の物語~

悪役令嬢リリス

文字の大きさ
42 / 50

第42話・パラノイア-4

しおりを挟む
その答案紙はリリスのものだった。

 順位表にも、リリスが二番目だとはっきりと書かれていた。

 書かれた答案は全問正解で、さらに王家の解答集と見比べて、カシリアは愕然とした。

 リリスの答案は標準解答ではない。

 それは標準解答を遥かに超えた、完璧な解答といっても過言ではない。

 数学の問題では、至極難しくて抽象的な難問を優雅に解いてあった。

 政治の問題では、理路整然と国同士の利害関係が非常に詳しくまとめてあった。

 管理の問題では、領地の管理と経営の関係までも比較分析されていて、実践的な事例もいくつか紹介されていた。

 文化の問題では、各国の固有の文化や風習、王や王族の状況までもがきちんと分析されていた。

 これら全ては教科書には載っていないような高度な知識だが、確かに間違いない事実だった。

 いつも部屋の奥で優雅に暮らしている貴族の少年女性の答案には見えない。経験知識豊富などこかの優れた統治者の書いた答案のようだった。

 書かれた一言一言が、カシリアを恥じいらせた。天才中の天才だけがテストで満点を取れるというが、リリスの満点は、点数の上限がそこまでだからにすぎない。

 これは信じがたい事実だった。

 普通の貴族が持っている知識ではない。

 王族のカシリアですら、これほど完璧な解答はできない。

 カシリアは両手を震わせながら認めざるを得なかった。

 リリスが自分よりも遥かに優秀であることを。

 カシリアはリリスの全ての答案を時間の経つのも忘れ、目を皿にして見ていった。

 ようやくなんとか感情を抑え、落ち着きを取り戻した。

 「あ、ありがとう、ラティ侯爵。」

 声にならない声で言った。

 「殿下、このようなことになったからには、いつものように掲示板で成績を公表するわけにはいかないでしょう。この件は国王陛下にそのまま伝え、陛下に一席設けていただき、そこで成績発表をしていただこうと思います。」

 確かに、この様な前代未聞の成績を発表すれば、間違いなく大騒ぎになるから、どうにかしなければならない。

 「ああ…そう・・・だな、それでいい。」

 カシリアは魂が抜けたように、フラフラと院長室を出た。

 「リリスは…」

 学院長ラティ侯爵は答案を見ながら呟いた。

 成績がずっとトップだった彼女を、今まで注目してきたが、今回のテストでの彼女の表現はさすがに驚きだった。

 どうやら、未来の太子妃も彼女に決まるだろう。国王陛下が彼女の答案を見れば、直ぐにも公爵家との婚約を考えるだろう。

 リリスの意志に関わらず、この答案がある限り、婚約の締結は規定路線になる。

 何があっても、国王陛下がこの優秀な人材を逃すはずがない。しかもリリスは公爵令嬢、身分的にも申し分がない。

 意外も何もない、陛下にはそれを現実にする強制力を持っている。

 【なぜならこれほどの人材が王家の力にならなければ、王家の脅威になるからだ。】

 しかし、自尊心の強いカシリア殿下が、自分より遥かにすぐれた女性を受け入れることができるのだろうか?

 「これは良いことか、悪いことか」

 ラティ侯爵も迷い始めた。

 カシリアは自分がどうやって王宮へ戻ったのか記憶がなかった。

 贅沢な寝室と寝心地のいいベッドは今の彼には何の役にも立たなかった。なかなか寝付けず、何度も寝返りを打つ。

 まぶたを閉じると、リリスの可愛らしい寝顔と、あの信じがたい答案紙が浮かんでくる。

 これは悪夢か?

 それとも良い夢か?

 今夜は、カシリアの不眠の夜だった。






















 ★★★お願いです★★★



 少しでも「もっと読みたい」や「いいね」などと思ってくださったら、



 ブックマーク登録・評価・コメントいただけますと、執筆の励みになります!



 何卒、よろしくお願い致します。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します

みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが…… 余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。 皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。 作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨ あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。 やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。 この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

処理中です...