天界へ行ったら天使とお仕事する事になりました

mana.

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本編

10 アルver.

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天上界での俺の姿は細身ばかりの天使の中で浮いた存在だった。
俺は闘う事に特化していた事を活かし、天へ昇ろうとしない魂を強制的に連れ帰る部署に配属されたが、今は元上司に新しい部署を立ち上げたからと引き抜かれて諜報部署に異動した。


「…あっ…すみません…!」

「全く、危ないじゃないかっ。君、死んでたよ!」

「ほんと…すみません…」

地上界での諜報調査の帰り、横断歩道で赤信号で渡りそうになった愛理の腰を引き寄せた。
どの天使達よりも腰が細く…今まで見た事のない…愛らしい…

「…っ…」

そんな事より…

「ゴメン、急だったから…どこか痛めたかな?」

いけない、俺は力が強いから。

「…いえ……」

俺のせいで気分が悪くなったのではと慌ててネルのカフェへと連れて行き、そこからルカとの付き合いも始まった。
黒く艶やかな髪は、穏やかな笑顔によく似合っている。
ただ、ふと時折寂しそうな顔を見せるのは心配だったが俺達の顔を見ると楽しそうにしているので気にはしていなかった。
…そう思ったのも、天上界入界者リストの中にルカの名前が上がるまでだった。
ルカが天へと還る…原因は胃癌だった。
俺はネルと相談し、ルカの精神の負担にならないように色々と手を回した。

そして…こっそりルカ担当の天使をして担当を代わってもらって迎えに行き、俺達の同僚となった。


「……さて…ルカはお風呂に行ったし……お皿を洗いながらだけど…さぁ、サシで話そうじゃない、。」


異世界に転生した樹と再会し、再び別れて落ち込むルカを甘やかそうとネルと話して色々とやっていたんだが…気付けば俺がルカに甘やかされている気がする…楽しいな…これ。癖になりそうだ。
夕食の食器の片付けをしながら、ネルに言われた。

「フッ…急に何だ、?」

___サァァァ…カチャ…カチャ___

「洗い物をしながらなら、急にルカが出てきても誤魔化せるでしょ?」

「まぁ、そうなんだが。一体何の話だ?」

「アンタねぇ…自覚してんでしょ?」

「何の事だ?」

「ルカの事よ。」

ネルがこちらを見て言った。

「今までアンタはどんな天使からの愛を囁かれても見向きもしなかったじゃない。むしろ邪険にしてたでしょ?」

…あぁ…確かに。
前に人間の女性が俺の身体に胸を擦り付けてきた時には、かなり顔に出てしまった気がする。

「ルカは逆にアンタが暴走してるじゃない。」

「…そう…なのか…?」

___ガチャンッ!___

「無自覚かよっ!」
「あ。」

「…あ゛ぁっ…これ…お気に入りだったのにぃぃ…っ!」

「確か…100年前のものだったか、もう作ってないな。」

「あぁぁ…そうね…」

ネルは物持ちが良く、特に気に入った食器は大切に長く愛用していた。

「ルカによく似合ってたのに…」

ネルは気に入った人や食事によって食器を変える。
お気に入りのルカへは「偽物だけど可愛いのが手に入った」と、アンティークバカラを使わせている。
俺へは皿は良い物だが「馬鹿力にはこっちで良いだろう」と安物のグラスなのに。

「アンティークのやつか?」

「それじゃないけどさ…これもルカに合ってたんだけどなぁ…」

何だかんだとネルはルカを好いていると思う。

「アンタさ…ルカの事…どう思ってんの?」

「好きだぞ?」

「…じゃなくて…」

「…ダメなのか?」

「愛してんのかって聞いてんのっ。」

「…愛してるぞ。」

「…ハァァァ…そうじゃなくて…」

何だ?ネルの顔が険しくなってきたな…

「唇を合わせたり、交合したり…って事よっ!」

___ボッ!___

「こ…こう…っ!」

「そうそう、その顔。それが見たかったのっ。ルカとエッチしたいくらい好きかって聞いてんのよっ!」

___ポポポポ…___

「……えええ…え…っち…って……」

「あ゛ぁぁあ゛っ!その身体にしてピュアピュアかよっ‼ほんっとに……」

___キュッ___

ネルが水を止め、俺の耳元で囁いた。

「…じゃぁ……がもらっても…良いんだな?」

「…っ!」

___グッ!___

「グゥッ……そんな顔…出来んじゃん…かっ。」

「……どんな顔だよ…」

___ポンポン___

「……まずは……ギブッ……外…せ…っ……」

「あ…」

俺は無意識にネルの胸ぐらを掴んでいたようだ。
慌てて手を離すとネルが蒸せながら俺に言った。

「ゴホッ……ゴホッ…アンタ…本当に馬鹿力なんだから……っ……ハァ……もう…そんな怖い顔するくらいにルカが…好き…なんでしょ…?自覚しろ…脳筋がっ。」

「…いや…だって…」

ルカは可愛くて…俺が抱くと子犬や子猫の様に小さくて、潰してしまいそうなほどか弱くて…

「ルカはそんなか弱い子じゃないと思うけど?」

「俺みたいな天使が好きになって良い魂じゃない。」

「…それもどうかなぁ…」

俺のような汚れ仕事の多い天使にあの純粋な魂は眩しすぎる。
…俺は…そばにいるだけでも良いんだ…

「じゃぁ、私が…「ルカに手を出したら、ゼスと一緒に世界の果てまで追い詰めるからな。」」

「いやんっ!怖いっっ‼︎」


___カチャ___


「…ルカが出てきた。」

「この話は終わりだな。」

「……暴走しないでよ。」

「…頭に置いておくよ。」

………気を付けねばな。

***************


「ルカは髪がサラサラなんだな。」

久々に見る黒髪を手に添えながら髪を乾かす。

「…もぅ…いいって言ったのに。」

ドライヤーの風に乗って、ルカの身体から香る甘い香りが鼻をくすぐった。

「俺のワガママだ、聞いてくれ。」

お前への気持ちに気付いたら余計に離れ難いから。

「………」

ルカが何かを呟いた。
その呟く唇が愛らしい…重ねたらきっと…俺はルカを誰にも見せたくなくて閉じ込めてしまうかもしれない。

「…っ……何か言ったか?」

いかんいかんっ!ネルの言うはこの事かっ。
自覚して思ったが…ルカ…無自覚に俺を煽るのはどうかと思うぞ!

ん…何でもないとルカは言ったが…

ルカの表情に曇りがある…もっと表情を……少し近くで表情を見ようと顔を近付けると更に甘い香りが鼻をくすぐり、俺は引き寄せられるようにルカの首筋に顔を埋めてしまった。
こんなこと…誰にもした事がなかったのに。本当に俺はルカを好きになってしまったんだな。

「ピャッ!」

「……あ、悪いっ!鼻が当たってしまったか⁈」

止めたはずなのにっ!
無意識に首筋にキスでもしてしまったか⁈
クソッ、どうせ付くなら感触を感じたかったぞ!

「そうじゃなくて……っ!」

やっぱり俺の様な者が純粋な魂に触れるべきじゃなかった。
どうすれば…

「ハイハイ、そこまで~。お邪魔オネェの登場よ~。アル、後で反省会ね。」

「……何を反省するんだ?」

首に鼻か……ハッ…もしかして唇を付けた事か⁈それは不可抗力というか……っ!

「その無自覚をよ馬鹿野郎。」

「俺、ちょっと風に当たってくるねっ!」

ルカがパタパタとベランダへ行った後、俺はネルから「自覚したらしたで暴走してこの馬鹿がっ!」と、凄く怒られた。
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