舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

文字の大きさ
30 / 75

第29話 花火

しおりを挟む
***


用意された肉や野菜は全てなくなり、バーベキューは終了した。

「最後はお待ちかねの……」

蓮は一旦倉庫に戻ったかと思えば、両手に何かを抱え再び現れた。

「花火!」

蓮の言葉を遮ったのは日向だ。

嬉しそうに満面の笑みを浮かべていた。

遠くでは暗くてよく見えなかったが、蓮が葵達の近くに行くとそれがなんなのか分かった。

蓮が両手に抱えていたのは大量の花火とバケツだった。

「久しぶりだな……花火」

下っ端含む白狼が花火に目を輝かせていると、葵の隣で竜がボソッと呟いた。

「いつぶりなの?」
「ゴールデンウィーク」

葵が問いかけると返ってきた言葉は意外なものだった。

「へ?」

去年の夏といったような返答かと思えば、つい2ヶ月ほど前の出来事に葵拍子抜けしていた。

「去年の夏じゃなくて? ゴールデンウィークってあたしが来る少し前じゃん」
「ああ」

竜はポツリと呟く。

「見ろよ! すっげぇー綺麗!」

蓮は右手に持つ花火に火を付け火花でクルクルと円を描いた。

「うわっ! こっちに向けんなよ!」

みんなに見せびらかしたかったようだが、たまたま近くにいた楓に怒られ、蓮はしょんぼりとした顔を見せていた。

「あたしも花火やる」

葵は竜の傍を離れ花火が置かれた所へ向かった。

「竜はやらないの?」

花火を物色する葵は一緒に着いてこなかった竜に問いかけた。

「俺はいい」

竜はそう言うと少し離れた所からみんなが花火している所を眺めていた。

その表情はどことなく頬が緩んでいるようにも見えた。

「お、ついた! 綺麗……」

葵は花火に火をつけると嬉しそうに笑みを浮かべた。

「楽しいね」

その横で日向も花火に火をつける。

シュワシュワと独特な音を立てながら火花が勢いよく飛び出る。

「あっという間に終わっちゃうけど楽しい。今日はありがとう」
「お礼なら竜さんに言ってあげて」
「え、竜が花火提案したの?」

葵は驚き竜を2度見した。

「そうだよ。このバーベキューも竜さんの提案だよ。白狼みんなでやるのは久々なんだよ」
「そうなんだ」
「これもみんな葵ちゃんの為だと思うよ。みんなと顔を合わせるのなんてこういう時じゃないとないでしょ?」
「……そうなんだ。あたしの為か……」

葵はそう呟くと、火花が消えた花火を水の入ったバケツに落とした。

「竜、ありがとう」

そして、竜の元へ向かった葵は口を開いた。

「あ?」
「なんでもない。ただ言いたかっただけ」

葵はそう言うと再び花火が置いてある日向達の元へ戻って行く。

「あ、火消えてる……蓮ちょうだい」
「うぉっ! びっくりするだろ!」

葵は蓮が持つ花火から飛び出る火花に自分の花火を近づけた。

蓮は急に隣に現れた葵に驚き肩を震わせた。

「ごめんごめん。ローソク消えてたからさ、火ちょうだい」
「ああ」
「ありがとう」

葵は花火に火がつくと蓮の傍を離れ、色とりどりの火花を見つめていた。

そんな葵を蓮が見つめていたとは、当の本人は知る由もなかった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

王子が好みじゃなさすぎる

藤田菜
恋愛
魔法使いの呪いによって眠り続けていた私は、王子の手によって眠りから覚めた。けれどこの王子ーー全然私の好みじゃない。この人が私の運命の相手なの……?

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...