53 / 75
第52話 竜の過去 ⑦正解
しおりを挟む
「そう……こんな子で良ければもらってやって下さい。旦那を思い出すこの子は私には必要ないのでどうぞ。では、失礼します」
そう言った竜の母は遠くに立つ竜に視線を移すとすぐに背を向けた。
「……ちょっと! いくらなんでもその言い方はないんじゃないですか? 自分の子供ですよね?」
玄関のドアが閉まる直前でゆりは左足を突っ込み、再びドアを開ける。
「まあ、一応私が産んだ子供には違いありません。産んだことを後悔する毎日ですが、あなたが引き取ってくれるならありがたいです」
竜の母は再びゆりに向き直ると冷たく言い放つ。
その言葉の途中、柾斗は竜の両耳に手を当てた。
どうか竜にこの言葉が届かないように──
「……そうですか。これ以上お話しても竜くんが辛くなるだけなので、もう帰ります。失礼します」
柾斗の母、ゆりが振り返るとそこには静かに涙を流す竜がいた。
柾斗のおかげで言葉は聞こえなかったが、母の顔と口元を見て自然と涙が零れていた。
「竜くん行こう」
ゆりは竜の手をとり、車へと向かう。
「竜くん。昨日、もうひとつの家族だと思っていいよって言ったけど、ごめん。竜くんはずっと頑張ってきたんだよね。偉かったね。これからはあたしのことお母さんだと思ってたくさん甘えていいし、頼ってくれていいからね」
車に乗り込んだゆりは後部座席に座る竜の方を向き優しく声をかけた。
「……俺、頑張った……? 偉い?」
「そう。竜くんは偉いんだよ」
ゆりの言葉に竜は嬉しそうに口角を上げた。
「ゆりさん……ありがとう」
「竜くん……」
初めて名前を呼んでくれた竜に、ゆりの目頭は熱くなる。
こうして、竜は柾斗の家で暮らすこととなった。
中学生の竜は柾斗の家から学校に通うことに。
学費はどう説得したのか、竜の母が払い続けることになったようだ。
♢♢♢
「……だから、虐待してた母とはもうずっと会ってねぇ」
話し終えた竜の目は冷めきっていた。
「そっか……。よく頑張ったね。柾斗さんと出会えて……ちゃんと自分で家出たいって言えてよかったね」
「ああ。"産まなきゃよかった"って言われなかったら多分、俺はずっとあの母親と暮らしてただろうな。……だから、あの時の選択が正しいかはよくわからねぇ」
竜はそう言うと、口を真一文字に結ぶ。
"産まなきゃよかった"と言った母の顔が竜の脳裏に蘇る。
「竜はさ、お母さんの元を離れて柾斗さん達と暮らしたことを後悔してる?」
「後悔は……してねぇ」
俯き考えた竜は顔を上げ、葵の目を見つめると口を開いた。
「ならいいんじゃない? 人生に正解なんてないんだから。……その人が後悔しない選択をしたのなら、それが正解だってあたしは思うな。だから、竜が後悔してないなら、それが正しい選択だったんだよ」
「(あたしだって……自分がとった選択が正しいかは分からない。けど、"この選択に対しては"後悔してないから、多分正しかったんだと思うな)」
それは、葵もまた両親の元を離れ、縁を切ったも同然の関係になったことだろう。
「……っ。ありがとうな」
「いーえ。竜……生まれてきてくれてありがとう」
葵は竜の瞳を見つめ笑顔でそう言う。
「……っ」
竜は驚き、目を見開く。
「竜があたしを守るって許可してくれたから、あたしは白狼のみんなといることができてる。竜のおかげだよ。ありがとう」
「ああ」
竜は照れくさそうに葵から視線を逸らす。
そんな竜を見た葵は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「竜って昔は可愛かったんだね」
「は?」
「話聞いた感じだと昔は可愛かったんだけど……。今は眉間にシワ寄せてぶっきらぼうに喋るじゃん」
「(誰も信用してないみたいな、冷めた目もするし。きっと他にもなんかあったんだろうな)」
笑みを浮かべる葵はどこか心配そうな顔をしていた。
葵が思うように竜は"ある事が原因"で他人を信用出来なくなった。
今はだいぶ良くなったが、それはまだ先のお話。
「うるせぇ。これは元々だ」
「へぇーそっか。あ、もうこんな時間か……。どうする? 泊まってく?」
葵は壁に掛けられた時計に視線を移す。
時刻は23時過ぎ。
「お前は女だろ? そう簡単に男を家に泊めるな」
「あーごめん」
葵は意味が分からずとりあえず謝った。
「(別に泊まってても何も気にしないのにな……)」
龍華にいた時は、葵の家に何人か集まり雑魚寝することも多々あった。
だから、竜が言う"女だろ?"の意図が全く分かっていなかった。
「じゃあ帰るな。話、聞いてくれて……ありがとうな」
「あ、うん。じゃあね」
こうして、竜は葵の家を後にした。
そう言った竜の母は遠くに立つ竜に視線を移すとすぐに背を向けた。
「……ちょっと! いくらなんでもその言い方はないんじゃないですか? 自分の子供ですよね?」
玄関のドアが閉まる直前でゆりは左足を突っ込み、再びドアを開ける。
「まあ、一応私が産んだ子供には違いありません。産んだことを後悔する毎日ですが、あなたが引き取ってくれるならありがたいです」
竜の母は再びゆりに向き直ると冷たく言い放つ。
その言葉の途中、柾斗は竜の両耳に手を当てた。
どうか竜にこの言葉が届かないように──
「……そうですか。これ以上お話しても竜くんが辛くなるだけなので、もう帰ります。失礼します」
柾斗の母、ゆりが振り返るとそこには静かに涙を流す竜がいた。
柾斗のおかげで言葉は聞こえなかったが、母の顔と口元を見て自然と涙が零れていた。
「竜くん行こう」
ゆりは竜の手をとり、車へと向かう。
「竜くん。昨日、もうひとつの家族だと思っていいよって言ったけど、ごめん。竜くんはずっと頑張ってきたんだよね。偉かったね。これからはあたしのことお母さんだと思ってたくさん甘えていいし、頼ってくれていいからね」
車に乗り込んだゆりは後部座席に座る竜の方を向き優しく声をかけた。
「……俺、頑張った……? 偉い?」
「そう。竜くんは偉いんだよ」
ゆりの言葉に竜は嬉しそうに口角を上げた。
「ゆりさん……ありがとう」
「竜くん……」
初めて名前を呼んでくれた竜に、ゆりの目頭は熱くなる。
こうして、竜は柾斗の家で暮らすこととなった。
中学生の竜は柾斗の家から学校に通うことに。
学費はどう説得したのか、竜の母が払い続けることになったようだ。
♢♢♢
「……だから、虐待してた母とはもうずっと会ってねぇ」
話し終えた竜の目は冷めきっていた。
「そっか……。よく頑張ったね。柾斗さんと出会えて……ちゃんと自分で家出たいって言えてよかったね」
「ああ。"産まなきゃよかった"って言われなかったら多分、俺はずっとあの母親と暮らしてただろうな。……だから、あの時の選択が正しいかはよくわからねぇ」
竜はそう言うと、口を真一文字に結ぶ。
"産まなきゃよかった"と言った母の顔が竜の脳裏に蘇る。
「竜はさ、お母さんの元を離れて柾斗さん達と暮らしたことを後悔してる?」
「後悔は……してねぇ」
俯き考えた竜は顔を上げ、葵の目を見つめると口を開いた。
「ならいいんじゃない? 人生に正解なんてないんだから。……その人が後悔しない選択をしたのなら、それが正解だってあたしは思うな。だから、竜が後悔してないなら、それが正しい選択だったんだよ」
「(あたしだって……自分がとった選択が正しいかは分からない。けど、"この選択に対しては"後悔してないから、多分正しかったんだと思うな)」
それは、葵もまた両親の元を離れ、縁を切ったも同然の関係になったことだろう。
「……っ。ありがとうな」
「いーえ。竜……生まれてきてくれてありがとう」
葵は竜の瞳を見つめ笑顔でそう言う。
「……っ」
竜は驚き、目を見開く。
「竜があたしを守るって許可してくれたから、あたしは白狼のみんなといることができてる。竜のおかげだよ。ありがとう」
「ああ」
竜は照れくさそうに葵から視線を逸らす。
そんな竜を見た葵は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「竜って昔は可愛かったんだね」
「は?」
「話聞いた感じだと昔は可愛かったんだけど……。今は眉間にシワ寄せてぶっきらぼうに喋るじゃん」
「(誰も信用してないみたいな、冷めた目もするし。きっと他にもなんかあったんだろうな)」
笑みを浮かべる葵はどこか心配そうな顔をしていた。
葵が思うように竜は"ある事が原因"で他人を信用出来なくなった。
今はだいぶ良くなったが、それはまだ先のお話。
「うるせぇ。これは元々だ」
「へぇーそっか。あ、もうこんな時間か……。どうする? 泊まってく?」
葵は壁に掛けられた時計に視線を移す。
時刻は23時過ぎ。
「お前は女だろ? そう簡単に男を家に泊めるな」
「あーごめん」
葵は意味が分からずとりあえず謝った。
「(別に泊まってても何も気にしないのにな……)」
龍華にいた時は、葵の家に何人か集まり雑魚寝することも多々あった。
だから、竜が言う"女だろ?"の意図が全く分かっていなかった。
「じゃあ帰るな。話、聞いてくれて……ありがとうな」
「あ、うん。じゃあね」
こうして、竜は葵の家を後にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
大丈夫のその先は…
水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。
新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。
バレないように、バレないように。
「大丈夫だよ」
すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m
【完結】逃がすわけがないよね?
春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。
それは二人の結婚式の夜のことだった。
何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。
理由を聞いたルーカスは決断する。
「もうあの家、いらないよね?」
※完結まで作成済み。短いです。
※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。
※カクヨムにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる