舞桜～龍華10代目総長～

第54話 約束

「そうだ。女を追いかけてったら白狼だった。けど、女と白狼も潰せたらラッキーだと思ったから突っ込んだ」
「へえ……でもお前ら負けたよな？ 今もだけどさ、今後一切こいつに近づかないって約束しろ。学校でも同じだ」

蓮は男の発言を腸が煮えくり返る思いで我慢した。

拳を握りしめ、眉毛はピクピクと震えている。

「なんでそんな約束しないといけない。俺たちはやりたいことをする。だから、お前らはやられたくなければ、そいつを守ればいいだろ？」
「……っ！ ふざけんなよっ！」

だが、男の馬鹿にしたような言い方に、蓮は我慢ができず、怒りに任せて拳を相手の頬にぶつける。

「がはっ……」

そして吹き飛ぶ男。

蓮は倒れた男に跨ると何度も頬に拳をぶつける。

「おい！ こいつに近づかないって言え！ そしたら殴るのやめてやる」
「蓮！ もういいよ」

怒り狂った蓮に葵は駆け寄り止めに入る。

「よくねぇっ！」
「蓮！ やめろっ！」

だが、殴ることを止めない蓮に葵は低い声で怒鳴る。

「……くそっ！」

葵の言葉に手を止める蓮。

蓮の下には口から血を流し、顔が腫れた男が横たわっていた。

「いってぇ。こ、いつに……近づかなければ……いいんだろ？」
「ああ。最初からそう言えばいいんだよ」

蓮は冷めた目で男を睨みつけると単車に跨る。

葵がその後ろに乗ると、走り出す単車。

蓮達が去った場所には男4人が傷だらけで倒れていた。

＊＊＊

「葵大丈夫か？」

倉庫に着き、単車から降りると蓮は葵に問いかける。

「大丈夫。蓮こそ手大丈夫？」

葵は男を殴ったことにより赤くなった手を優しく両手で包み込む。

「だっ……大丈夫だ。こんなの！ それよりもうあんな無茶すんなよ！ お前は女なんだから俺たちに守られてればいいんだよ」

葵の手を振り払った蓮の耳は真っ赤に染まっていた。

「ごめん……ありがとう。でも……」
「でもじゃない。葵に何かあったら嫌なんだよ……」

葵の言葉を遮った蓮は真剣な眼差しを向ける。

だが、その顔は悲しそうに眉が下がっていた。

「蓮……」
「ほら、行くぞ」

蓮はそう言うと歩き出す。

「戻りましたー」
「おかえりー！ 遅かったね……って蓮どうしたの！」

日向は蓮の姿を見るなり、驚き声を上げる。

驚くのも無理はない。

蓮の口角には殴られた跡があり、右手は赤くなり、血痕もついている。

「ただいま」

蓮の後ろから葵が顔を出す。

葵は目立った外傷はなく、衣服も乱れていない。

「実は……黒豹の奴らに襲われました」

蓮はソファーに腰掛けると竜達に経緯を説明した。