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第55話 守ってもらう理由
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「じゃあ、あの時の男が黒豹で、白狼に突っ込んで負けたから、人の少ない帰りを狙ったってことなんだね……」
日向は悔しそうに膝の上で手を握りしめる。
「でも、襲ってくるにしては今更じゃない?」
「ああ。それは俺も思った。もう3ヶ月も経つのになんで襲ってきたのか分からない」
柚佑の言葉に蓮は赤くなった拳を左手で擦りながら答える。
──しばしの間が沈黙が流れる。
静かな部屋に時計の秒針の音だけが響く。
「襲うのを狙ってたのかもな」
すると、今まで黙っていた竜が口を開いた。
「確かに……帰りは複数人で帰ったり、車だったりしたけど、今日はたまたま蓮と2人だった……狙ってた可能性はありそう」
楓は顎に右手を当てる。
「一応、もう葵には近づかないって言ってた。まあ、本当かどうかはわからないですけど……」
「(あれ……? 元々あたしを守ってくれてたのってスキンヘッドの男に狙われてるから……じゃあ、その男があたしに近づかないって言ったんだから、ここにいる必要ない……?」
蓮の言葉に考え込む葵。
そして、寂しさとは裏腹に冷静になる。
「あ、のさ……」
「どうした?」
葵はどことなく悲しい声をだす。
それに反応したのは竜だった。
「あたし、もうここにいる必要ないよね?」
「は?」
蓮は意味がわからず眉間にシワを寄せる。
「何言ってるの? 葵ちゃんは僕達といるんだよ?」
日向はいつになく真剣な顔をする。
「だって、元々みんなに守ってもらうことになったのって、スキンヘッドの男に狙われてたからだよね? その男がもう近づかないなら守ってもらう必要も理由もない……」
葵は言い終わると唇をきつく噛み締める。
みんなに守ってもらうほど弱くない。
"守られる"ことでみんなを危険な目に合わせたくない。
本当の事を言えたらどれだけ楽か──けど、全てを話せるほど葵の心は強くなかった。
「……最初のきっかけはそうかもしれない。けど、お前は仲間だ。ここにいろ。それに、黒蛇にも狙われてる。だから……」
「それは! あたしが白狼のお姫様だって疑われてるからだよね? あたしがいなければこんなことにはならなかった。あたしは別に守ってもらわなくても大丈夫」
葵は竜の言葉を遮る。
この部屋にいる5人の視線が葵に集まる。
「別にいいんじゃない? お姫様なのは変わりないんだし。俺たちは葵だから守りたいって思った……それにもう葵は仲間だし、大切な友達なんだよ」
そう言った柚祐の顔に笑顔はなく、真剣な表情をしていた。
「ありがとう……」
「(まだ、ここにいていいんだ。もう、あたしのせいで誰かが傷つくのは見たくない……けど、みんなと離れるのはもっと嫌だ。なんか矛盾してるな……)」
出会ってから3ヶ月、葵の中で白狼はとても大切な存在になっていた。
──だから傷つけたくなかった。
──傷つく所を見たくなかった。
それを後悔するのは、まだまだ先のお話。
「そう言えば、葵ってなんかやってたのか?」
話題を変えようとしたのか、たまたまなのか、蓮は思い出したかのように問いかける。
「え? なんかって?」
「強いじゃん。男2人倒しちまったし」
そう言った蓮は瞳をキラキラとさせる。
「あっ……空手とかやってたから……」
「(何も考えず戦っちまったな……まあ、バレないか)」
だが、そんな蓮とは裏腹に葵は気まづそうな顔をする。
これ以上余計な事を言わないでと──
日向は悔しそうに膝の上で手を握りしめる。
「でも、襲ってくるにしては今更じゃない?」
「ああ。それは俺も思った。もう3ヶ月も経つのになんで襲ってきたのか分からない」
柚佑の言葉に蓮は赤くなった拳を左手で擦りながら答える。
──しばしの間が沈黙が流れる。
静かな部屋に時計の秒針の音だけが響く。
「襲うのを狙ってたのかもな」
すると、今まで黙っていた竜が口を開いた。
「確かに……帰りは複数人で帰ったり、車だったりしたけど、今日はたまたま蓮と2人だった……狙ってた可能性はありそう」
楓は顎に右手を当てる。
「一応、もう葵には近づかないって言ってた。まあ、本当かどうかはわからないですけど……」
「(あれ……? 元々あたしを守ってくれてたのってスキンヘッドの男に狙われてるから……じゃあ、その男があたしに近づかないって言ったんだから、ここにいる必要ない……?」
蓮の言葉に考え込む葵。
そして、寂しさとは裏腹に冷静になる。
「あ、のさ……」
「どうした?」
葵はどことなく悲しい声をだす。
それに反応したのは竜だった。
「あたし、もうここにいる必要ないよね?」
「は?」
蓮は意味がわからず眉間にシワを寄せる。
「何言ってるの? 葵ちゃんは僕達といるんだよ?」
日向はいつになく真剣な顔をする。
「だって、元々みんなに守ってもらうことになったのって、スキンヘッドの男に狙われてたからだよね? その男がもう近づかないなら守ってもらう必要も理由もない……」
葵は言い終わると唇をきつく噛み締める。
みんなに守ってもらうほど弱くない。
"守られる"ことでみんなを危険な目に合わせたくない。
本当の事を言えたらどれだけ楽か──けど、全てを話せるほど葵の心は強くなかった。
「……最初のきっかけはそうかもしれない。けど、お前は仲間だ。ここにいろ。それに、黒蛇にも狙われてる。だから……」
「それは! あたしが白狼のお姫様だって疑われてるからだよね? あたしがいなければこんなことにはならなかった。あたしは別に守ってもらわなくても大丈夫」
葵は竜の言葉を遮る。
この部屋にいる5人の視線が葵に集まる。
「別にいいんじゃない? お姫様なのは変わりないんだし。俺たちは葵だから守りたいって思った……それにもう葵は仲間だし、大切な友達なんだよ」
そう言った柚祐の顔に笑顔はなく、真剣な表情をしていた。
「ありがとう……」
「(まだ、ここにいていいんだ。もう、あたしのせいで誰かが傷つくのは見たくない……けど、みんなと離れるのはもっと嫌だ。なんか矛盾してるな……)」
出会ってから3ヶ月、葵の中で白狼はとても大切な存在になっていた。
──だから傷つけたくなかった。
──傷つく所を見たくなかった。
それを後悔するのは、まだまだ先のお話。
「そう言えば、葵ってなんかやってたのか?」
話題を変えようとしたのか、たまたまなのか、蓮は思い出したかのように問いかける。
「え? なんかって?」
「強いじゃん。男2人倒しちまったし」
そう言った蓮は瞳をキラキラとさせる。
「あっ……空手とかやってたから……」
「(何も考えず戦っちまったな……まあ、バレないか)」
だが、そんな蓮とは裏腹に葵は気まづそうな顔をする。
これ以上余計な事を言わないでと──
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