舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

文字の大きさ
57 / 75

第56話 舞桜

しおりを挟む
「空手やってたんだ。葵ちゃん凄いね!」
「凄いな!」

日向と蓮は目を輝かせながら葵を見つめる。

両端から見つめられ葵は耐えられなくなり、遠くを見つめる。

「でも、凄かったな……まるで桜が舞ってるみたいだった」

だが、そんな葵の願いも虚しく蓮は一番言って欲しく無い言葉を口にする。

「え……」
「(やばっ……)」

葵の頭は真っ白になる。

心臓の鼓動が早まり聞こえてしまうんじゃないかと気が気でなかった。

「……」

そして、無言で葵を見つめる竜は、

「舞桜……」

静かに口を開いた。

「舞桜って……確か龍華の総長で喧嘩する姿がまるで桜が舞うようだからって……。今、行方知れずだったような……」

竜の言葉に柚祐が口を開く。

その言葉でみんなの視線が再び葵に向く。

舞桜──

これは龍華の総長が喧嘩を時、まるで桜が舞うように戦うことからできた通り名。

無駄のない動きに加え、柔らかくしなやかな姿。

見るものを魅了する──

舞桜の性別と正体は龍華の幹部以外誰も知らない。

「え……ち、違うよ。あたしがその……舞桜だっけ?そんなわけないじゃん」

葵な両手を前に出し振ると、困った顔をで必死に否定した。

「あれ? 舞桜って男じゃ……」

日向はふと思いだし呟いた。

「え、男なの?」
「男だろ? フード被ってて顔見たことないけど、あんなに強いんだ」

葵の問いに答えたのは蓮だった。

葵は蓮の言葉を不思議そうな顔で聞いていた。

「へぇ……」
「(あたしって男だと思われてたんだ……。でも、とりあえず、バレずに済んだか……)」

葵は小さくため息をついた。

「舞桜って確か竜さんが前に会いたいって言ってた……」
「ああ。あの人のおかげで俺は今も白狼の総長でいることができた。だから、会ってあの時の礼が言いたい」

竜は日向がボソッと呟いたのを聞き逃さなかった。

そう言った竜は目を輝かせていた。

それは葵が初めて見る竜の顔だった。

「(会って礼を言いたいか……。そんな大層なことしてないけどな。ただ、怒り狂ってた竜を止めただけ。でも、あたしの行動が誰かの役に立つっていうのはいいもんだな……)」

葵は口角を上げると、俯き嬉しさを噛み締めていた。

「(でも、そっか……。あのままにしてたら殴り続ける竜を誰も止められず、その人を……殺してたかもしれないのか。そう考えるとあの時、たまたま竜に会って、止めに入れてよかったんだな……)」

俯いたままの葵は当時のことを思い起こしていた。

それは1年前に起こった出来事。

──これが竜の口から語られるのはもう少し先。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

王子が好みじゃなさすぎる

藤田菜
恋愛
魔法使いの呪いによって眠り続けていた私は、王子の手によって眠りから覚めた。けれどこの王子ーー全然私の好みじゃない。この人が私の運命の相手なの……?

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...