舞桜~龍華10代目総長~

織山青沙

文字の大きさ
59 / 75

第58話 連絡先

しおりを挟む
「ごめんな。急にこんな話して……実は菖人と橙季があおの連絡先教えろってしつこくてさ」
「え……なんで? 知って……」

葵は言いかけてる途中で口を噤んだ。

「あお、龍華辞めてから携帯変えただろ? だから教えろって言ってるんだけどどうする?」

葵は龍華の元から去った後、携帯を新しくしていた。

菖人と橙季が知っているのは──いくら架けても繋がらない連絡先だ。

「そうだった……」
「別にあいつらの元に戻れとは言わない。連絡先だけは教えてやってもいいか? あいつらお前が心配なんだよ……」

心配そうに葵を見つめる萩人。

萩人は昨夜の事を思い起こしていた。

***

学校での仕事を終え帰宅した萩人は、家でまったりしていた。

すると、携帯から着信音が聞こえてきた。

「もしも──」
「萩人さん! あおが……あおが……!」

電話に出るなり、萩人の言葉を遮ったのは龍華の現総長、菖人だった。

何かあったようで慌てた様子の菖人。

「菖人ちょっと落ち着け。な? あおがどうした?」

そんな菖人に萩人は優しい声色で問いかける。

「すいません……。今日、白狼といる所を襲われたみたいで。まあ、あお達が勝ったらしいんですが……この事が結構話題になってて……」

落ち着きを取り戻した菖人は口を開いた。

菖人がいるのは龍華の幹部以上が入れる部屋。

菖人が座るソファーの対面にはパソコンの画面を見せる橙季の姿があった。

掲示板のようで白狼やお姫様のことがたくさん書かれていた。

「あおが白狼のお姫様だって知れ渡った……ってことか?」
「はい。あと……強いお姫様を捕まえてみたいという頭がおかしい奴らがいるみたいで……」

菖人は自分を落ち着かせようとゆっくり話しているが、それは怒りと苛立ちを含んだ声だった。

「そうか……明日、あおに言っとくわ」
「お願いします。あの……! あおの連絡先教えてもらえませんか? あおが危険な目に合ってるのに何も出来ないのは嫌なんです」
「萩人さん、俺もお願いします」

電話口からは橙季の声も聞こえてきた。

「わかった……菖人と橙季に教えていいか聞いとく」
「ありがとうございます」
「萩人さんありがとうございます」

萩人の言葉に電話の向こうからは嬉しそうな声が聞こえてきた。

***

どれくらい経っただろうか。

葵は答えが決まったようで口を開く。

「……うん。わかった。じゃあ教えといてくれる?」
「分かった。……昨日のことであおが白狼のお姫様だって知れ渡ったらしい」

萩人は一瞬考え込むと再び口を開いた。

それは覚悟を決めたような真剣な顔をしていた。

「そっか……。あたしはお姫様でも守ってもらう身でもないんだけどね」
「昨日も圧勝だったんだろ? でも、気をつけろよ。強いお姫様を……捕まえたいっていう変な奴らがいるらしいから」
「もちろん圧勝だよ。そんな変な奴がいるのか……まあ、気をつけるよ」

葵は萩人の言葉に嫌そうに顔を顰めた。

「そういう奴は真正面から来る場合もあるし卑怯なやり方をしてくることもある。そんな奴らの言うことは信じすぎるなよ」
「わかった。そんな奴らの言うことなんてあたしは信じないから大丈夫だよ」

葵はそう言うと声をたてて笑った。

「なら大丈夫だな。話はそれだけだ。お昼はどうする?」
「先生に呼び出されたって言ったから戻るよ。萩ちゃん、ありがとうね」
「おう」

葵はドア前で振り返ると萩人に手を振った。

「はぁ……。あおが狙われてること言ってよかったんだよな……。言わないで何かあるよりはいいよな」

萩人は葵が出て行ったドアを不安そうな顔で見つめていた。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

【完結】逃がすわけがないよね?

春風由実
恋愛
寝室の窓から逃げようとして捕まったシャーロット。 それは二人の結婚式の夜のことだった。 何故新妻であるシャーロットは窓から逃げようとしたのか。 理由を聞いたルーカスは決断する。 「もうあの家、いらないよね?」 ※完結まで作成済み。短いです。 ※ちょこっとホラー?いいえ恋愛話です。 ※カクヨムにも掲載。

王子が好みじゃなさすぎる

藤田菜
恋愛
魔法使いの呪いによって眠り続けていた私は、王子の手によって眠りから覚めた。けれどこの王子ーー全然私の好みじゃない。この人が私の運命の相手なの……?

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

処理中です...