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1章。【植物王】と【世界樹の剣】
2話。神獣フェンリルに忠誠を誓われる
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俺は今までずっと親父の跡目を継ぐため、最強を目指して生きてきた。
他の生き方は知らない。
『力無き者に、何も言う資格などない! この世は力こそ正義だ。悔しかったら、ゼノスより強くなって見せるのだな』
親父の声が脳内に繰り返し響く。
俺は弟ゼノスとの勝負に負けて、サーシャを守ってやれなかった。
ゼノスのような男の下についたら、サーシャは潰されてしまうかも知れない。
できればサーシャを救ってやりたいが。力も金も無い俺には、どうすることもできなかった。
「……わかっちゃいたが、弱いってことは罪なんだよな」
だが、俺のスキル【植物王(ドルイドキング)】をいくら鍛えたところで、戦闘にはたいして役立たないと、スキル鑑定師にハッキリ言われた。
俺は魔法は苦手で、剣の腕ばかり磨いてきた。それが最強に至る道だと信じてきたため、『筋力80%低下』の代償は致命的だった。
スキルの中には、強力は効果を持つ代わりに、代償を求める物がある。俺の【植物王(ドルイドキング)】はその典型だ。
今まで通り剣を極める方向に進んでも、未来は無いだろう。だからといって、スキルを鍛える方向に向かっても、強くはなれない……
できれば最強になって、あのクソ親父とゼノスの鼻を明かしてやりたいが。
どうするか悩みながら、俺は2日かけてエルフの国がある大森林にやって来た。【植物王(ドルイドキング)】の検証のためだ。これは植物を支配するスキルだという。
ならスキルをアレコレ試す場所として、植物の豊富な森が最適だろう。
それに森や自然と共に生きるエルフなら、俺のスキルを活かす方法についてヒントをくれるのじゃないか? という思惑があった。
エルフは人間を嫌っているので、話すのは難しいかも知れないが……とにかく、やれることをやってみよう。
しばらくして、俺は腹が減っているのに気づいた。そう言えば、朝から何も食べていなかったな。
狩りでもするかと思ったが、俺のスキルは植物を召喚できるんだった。
「いでよ、リンゴ!」
試しにそう叫んでみると、俺の手の中に、真っ赤に熟したリンゴが出現した。
「おお……っ!?」
エリクサー草のような薬草だけでなく、【植物王(ドルイドキング)】は果物も召喚できるようだ。
食料を簡単にゲットできるとは。生活をする上で、とてつもなく便利なスキルだな。特に今は作物の不作が続いて、食料の値段が高騰している。
味はどうだろうか?
「へぇっ、割とうまいじゃないか……」
一口齧ってみると、シャリとした食感と共に甘さが広がる。質もそれなりに高いリンゴだった。
『スキル熟練度を獲得しました。
スキル【植物王(ドルイドキング)】、Lv2の解放条件を満たしました!
【植物を武器化できる】能力が使用可能になりました』
その時、無機質な声が頭の中に響いた。スキルの進化などを知らせる世界の声、システムボイスだ。
―――――――
【植物王(ドルイドキング)】
植物を支配するスキル。
代償として筋力ステータス80%低下。
Lv1⇒植物召喚(触れたことのある植物を召喚する)
Lv2⇒植物を武器化できる(NEW!)
Lv3⇒????
―――――――
「……植物を武器化できる?」
これって、どういうことだ?
植物を武器にしたところで、たいして強くはなさそうだが……
と、その時。
グルルルルル……!
獰猛な唸り声。
俺の行く手にブラックウルフの群れが、背を向けた状態で現れた。真っ黒な毛並みの狼型モンスターだ。
ヤツらは、傷だらけの白い子犬を包囲していた。どうやら、縄張りに侵入した子犬をよってたかって攻撃しているらしい。
犬同士の争いになど興味は無いが、かわいそうだな。
「いい機会だ。【植物王(ドルイドキング)】Lv2の能力を試してみるか」
俺は近くの木を両手で掴む。心の中で『武器になれ』と命じた。
すると根の抵抗が無くなり、スルリと木が抜けた。不思議なことに重さもあまり感じなかった。
木は枝葉が落ちて変形し、俺が欲しいと思った武器──ちょうど良い大きさの長剣の形状になった。しかも、長年使い慣れたかのように手に馴染む。
「はあああああっ!!」
俺は剣を振って、ブラックウルフをまとめてぶっ飛ばす。無論、死なない程度に加減してだ。
ドォオオオオン!
これだけの衝撃が加わっても木の剣は、凹んだりしなかった。意外と頑丈だな。
驚いたブラックウルフたちが、反撃に出る。だが、俺がいつも相手にしていたAランクの魔物に比べたら、まるで動きが鈍い。
俺は剣を縦横無尽に振るって、ブラックウルフたちを叩き潰す。
キャインッ!?
残った敵は明らかに怯えた様子で、後ずさった。
「その子を置いて立ち去れ」
俺が凄むとブラックウルフたちは、一斉に逃げ出した。
白い子犬は気が抜けたのか、その場にへたり込んだ。これは治療の必要があるな。
「いでよ【エリクサー草】!」
俺は最上級の薬草、エリクサー草を召喚した。それを子犬の口に寄せて食べさせる。
すると、子犬は元気になって跳ね起きた。傷が嘘のように消えて無くなっている。
「ありがとう、あるじ様!」
お、おい、コイツ。今、人語をしゃべらなかったか?
人語を操るモンスターというのは、かなり珍しい。高い知能を持つ証拠だ。
子犬は俺の周りをクルクル嬉しそうに回って、飛びかかってきた。
「おっと!」
俺が抱きとめると、子犬はつぶらな瞳を向けながら語りかけてくる。
「やっぱり、あるじ様は。フェンリルとの戦いの最中、手を抜いていた」
「フェンリル?」
よく見れば子犬は、俺が死ぬ思いで討伐した神獣フェンリルに似ていた。
あの人間をひと飲みにできてしまいそうな巨大な狼──神獣フェンリルを子犬にしたら、きっとこんな感じだろう……と、そんな突拍子もない連想をする。
すると、子犬の小さな身体から圧倒的な魔力が溢れ出した。
その魔力の質と強大さは、あの時、肌で感じた神獣フェンリルそのものだ。
ギョッとして、俺は思わず子犬を地面に落としてしまいそうになる。
「フェンリル、お礼、言う。あるじ様のおかげで、生き延びることができた。フェンリル、あるじ様を追ってやって来た」
子犬はペコリと頭を下げた。
「……お前、神獣フェンリルなのか?」
「うん。ホントなら滅びるところだった。だけど、子犬に擬態して、なんとか死なずに済んだ。途中から、あるじ様が手加減してくれた、おかげ」
手加減なんてした覚えはないぞ? コイツ、何を言っているんだ?
……あっ、もしかして、俺が【植物王(ドルイドキング)】のスキルに覚醒して、攻撃力が激減したのを、手心を加えたと勘違いしているのか?
そういえばダメージを与えたフェンリルが突然消えて、何となく、おかしい感じがしたんだよな。神獣は死ねば塵となると聞いていたが……
まさか子犬に変身して、俺たちの目を欺いていたとは驚きだ。
「あるじ様はフェンリルの元のあるじ様と同じ匂いがする。フェンリル、あるじ様の配下になる!」
「は? 同じ匂いって何だ? それに、さっきから俺をあるじ様って。俺の配下になりたいって本気か……!?」
「うん」
予想外の申し出に面食らってしまう。
神話によると神獣フェンリルは、悪神ロキに仕えていた。だが、主人を敵対する神々に殺されたため、怒って暴れまわり、神々に封印された伝説の魔狼だ。
実際、復活したコイツは、好戦的な非常にヤバい奴だった。
あれ? だとすると疑問がわくな……
「ひとつ聞きたいんだが。なぜ、ブラックウルフどもに反撃しなかったんだ? お前の力なら瞬殺だろう?」
「ブラックウルフ、フェンリルの眷属。話をしようとした」
「何?」
意外な言葉だった。
「お前は暴れるのが大好きな戦闘狂じゃなかったのか? お前のせいで、都市がひとつ壊滅したんだぞ?」
「それ違う。目が覚めたら、なぜかフェンリル、人間への怒りでいっぱいだった。めちゃくちゃ暴れたの。反省している」
フェンリルは、シュンとなった。
本当に悪いと思っているようだった。
それに目が覚めたら、人間への怒りでいっぱいだった?
「フェンリルを封じたのは神々だろう? 封印される前に、人間に何かされたのか?」
「人間には特に恨み、ない。でも目覚めたら、なぜか人間に怒った。潰したいと思った。自分でもわからない……」
フェンリルは困惑している様子だった。
そもそも、なぜコイツは復活したんだ? 神々の封印はそう簡単には外れないと思う。
【神喰らう蛇】では、フェンリルの封印を解いた者がいるのではないか? という噂が上がっていた。だとすると……
「お前、もしかして、何者かに操られていたのか?」
魔法の中には精神に作用し、怒りや憎悪を増幅するモノもある。
フェンリルの原因不明の怒りは、魔法によるものだと考えれば説明がつく。もっとも、神獣の精神に影響を及ぼすことができる魔法使いなど、実在するかわからないが。
「……よくわからない。フェンリル、怒り、抑えられなかった。でも、あるじ様に殴られたら怒りが消えた。あるじ様のおかげで、正気に戻れた。あるじ様はやっぱり、あるじ様!」
嘘をついている感じはしなかった。
もし本当に、フェンリルを復活させて王国を攻撃させた黒幕がいるなら、悪いのはソイツだ。
ここでフェンリルを下手に追い詰めて、敵に回すのは得策じゃない。
万が一、フェンリルが暴れ出したら今の俺ひとりでは、どうにもならない。王国が再び、壊滅の危機にさらされることになる。ここは相手の言葉に乗るべきだ。
俺はゴクリと唾を飲み込みながら、語りかけた。
「よし。フェンリルは今日から俺の配下だ。その代わり、約束してくれ。もう人間を殺したり街を破壊したりするなよ? 絶対だぞ」
フェンリルはコクコクと頷く。
「うん。わかった。あるじ様」
意外と素直に俺の言うことを聞いてくれた。信じられないが、本気で俺の配下になりたいようだ。
ならばと、俺は緊張しつつ続けてリクエストする。
「それと、そんな強大な魔力を振りまいていると、トラブルの元だ。みんなを怖がらせてしまうから、普段は抑えてくれないか?」
「うん。抑える」
すると、フェンリルの身体から強い光が発せられた。その体毛がドンドン抜けていき、手足がすらりと伸びて、銀髪の美少女の姿になった。
「どわっ!?」
俺はバランスを崩して、少女にのしかかられる形で地面に押し倒された。
少女は腰から生えた尻尾をフリフリさせながら告げる。
「人間に擬態した。この姿なら、魔力を抑えられる」
「ダァーッ!? ちょっ! 女の子!? お、お前、メスだったのか!?」
目と鼻の先に、美しい少女の顔のドアップがあった。俺は慌てて離れようとするが予想以上の力で上から押さえられて、ビクともしない。
こんなシチュエーション、彼女いない歴イコール年齢の俺には、刺激が強すぎだ。
「あるじ様? 顔が赤い。病気? 熱がある?」
コン、とフェンリル少女が、オデコを俺の額に押し付けてくる。体温を計ってくれているのだろうが、唇が俺の顔に触れそうな距離だった。
「どわぁあああっ!? だ、大丈夫だから、いったん離れろぉおおッ!」
「うん?」
フェンリル少女は不思議そうな顔をして、俺の上から降りる。
よく見ると彼女は、素っ裸だった。
「ぶっ!? と、とにかく、これを着ろ! 女の子が人前で肌をさらすな!」
俺は上着を脱いで、フェンリル少女に無理矢理、被せる。ブカブカの服を着せられて、彼女はキョトンとしていた。
「人間の服? 動きづらい。フェンリル、裸の方がイイ……」
「絶対にやめろぉ! 絶対だ! これからはその姿で、服を着て生活しろ! いいな?」
「うん、うん」
フェンリルは素直に頷く。
「あーっ、もう、何が何やら……だけどフェンリルと呼ぶのは、ちょっとマズイな。女の子だし、リルで良いか?」
神獣フェンリルが生きているとバレたら、大パニックだ。人々は恐れ慄き、【神喰らう蛇】から、再び討伐隊が出されるに違いない。
万が一、闘神の親父が出てきたりしたら、ヤバい。黒幕がいると訴えても、あの親父なら問答無用でリルを殺すだろう。
リルは本当は悪いヤツじゃなさそうだし、それはかわいそうだ。
フェンリルが女の子の姿で名前も変えていれば、まず誰かに勘付かれる心配はないだろう。
「リル? うん、リル、リル。あるじ様につけてもらった名前、気に入った!」
リルは尻尾を振って、嬉しそうに飛び跳ねる。そのたびに服がめくれてヤバいことになっているので、俺は慌てて視線を反らした。
「くっ……と、とにかく、街に行ってリルの服を買わないとな」
早急に手を打たないと、俺は変質者として、後ろ指をさされかねない。
美少女にあるじ様と呼ばせて、下着も身に着けさせてないなんて……
どれだけ変態なんだよ! と、血の気が引く思いだった。
「あるじ様。リル、お腹空いた。ずっと、何も食べていない」
リルのお腹が、きゅーっと盛大に鳴った。瀕死の重傷を負って食事どころではなかったらしい。
「あっー、とりあえずリンゴとバナナ、食べるか?」
俺が【植物王(ドルイドキング)】のスキルで、適当にフルーツを出現させると、リルは目を輝かせた。
「すごい。あるじ様! 全部、リルの大好物!」
リルは飢えた野獣のように俺から果物をひったくると、そのままガツガツと頬張り出した。
フェンリルって狼だから肉食かと思ったが、果物もイケるようだ。
「甘い! おいしい! あるじ様、大好きぃ!」
「お、おうっ……」
神獣フェンリルが、こんなに簡単に餌付けできてしまうとは。
まあ、いいか。俺もそういえば腹が減っていたし。トマトでも出現させて食べるかな。
疲れたし、ちょっと休憩しよう。
そう思った時だった。
「いやぁぁあああっ!」
森に女の子の悲鳴が響き渡った。
他の生き方は知らない。
『力無き者に、何も言う資格などない! この世は力こそ正義だ。悔しかったら、ゼノスより強くなって見せるのだな』
親父の声が脳内に繰り返し響く。
俺は弟ゼノスとの勝負に負けて、サーシャを守ってやれなかった。
ゼノスのような男の下についたら、サーシャは潰されてしまうかも知れない。
できればサーシャを救ってやりたいが。力も金も無い俺には、どうすることもできなかった。
「……わかっちゃいたが、弱いってことは罪なんだよな」
だが、俺のスキル【植物王(ドルイドキング)】をいくら鍛えたところで、戦闘にはたいして役立たないと、スキル鑑定師にハッキリ言われた。
俺は魔法は苦手で、剣の腕ばかり磨いてきた。それが最強に至る道だと信じてきたため、『筋力80%低下』の代償は致命的だった。
スキルの中には、強力は効果を持つ代わりに、代償を求める物がある。俺の【植物王(ドルイドキング)】はその典型だ。
今まで通り剣を極める方向に進んでも、未来は無いだろう。だからといって、スキルを鍛える方向に向かっても、強くはなれない……
できれば最強になって、あのクソ親父とゼノスの鼻を明かしてやりたいが。
どうするか悩みながら、俺は2日かけてエルフの国がある大森林にやって来た。【植物王(ドルイドキング)】の検証のためだ。これは植物を支配するスキルだという。
ならスキルをアレコレ試す場所として、植物の豊富な森が最適だろう。
それに森や自然と共に生きるエルフなら、俺のスキルを活かす方法についてヒントをくれるのじゃないか? という思惑があった。
エルフは人間を嫌っているので、話すのは難しいかも知れないが……とにかく、やれることをやってみよう。
しばらくして、俺は腹が減っているのに気づいた。そう言えば、朝から何も食べていなかったな。
狩りでもするかと思ったが、俺のスキルは植物を召喚できるんだった。
「いでよ、リンゴ!」
試しにそう叫んでみると、俺の手の中に、真っ赤に熟したリンゴが出現した。
「おお……っ!?」
エリクサー草のような薬草だけでなく、【植物王(ドルイドキング)】は果物も召喚できるようだ。
食料を簡単にゲットできるとは。生活をする上で、とてつもなく便利なスキルだな。特に今は作物の不作が続いて、食料の値段が高騰している。
味はどうだろうか?
「へぇっ、割とうまいじゃないか……」
一口齧ってみると、シャリとした食感と共に甘さが広がる。質もそれなりに高いリンゴだった。
『スキル熟練度を獲得しました。
スキル【植物王(ドルイドキング)】、Lv2の解放条件を満たしました!
【植物を武器化できる】能力が使用可能になりました』
その時、無機質な声が頭の中に響いた。スキルの進化などを知らせる世界の声、システムボイスだ。
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【植物王(ドルイドキング)】
植物を支配するスキル。
代償として筋力ステータス80%低下。
Lv1⇒植物召喚(触れたことのある植物を召喚する)
Lv2⇒植物を武器化できる(NEW!)
Lv3⇒????
―――――――
「……植物を武器化できる?」
これって、どういうことだ?
植物を武器にしたところで、たいして強くはなさそうだが……
と、その時。
グルルルルル……!
獰猛な唸り声。
俺の行く手にブラックウルフの群れが、背を向けた状態で現れた。真っ黒な毛並みの狼型モンスターだ。
ヤツらは、傷だらけの白い子犬を包囲していた。どうやら、縄張りに侵入した子犬をよってたかって攻撃しているらしい。
犬同士の争いになど興味は無いが、かわいそうだな。
「いい機会だ。【植物王(ドルイドキング)】Lv2の能力を試してみるか」
俺は近くの木を両手で掴む。心の中で『武器になれ』と命じた。
すると根の抵抗が無くなり、スルリと木が抜けた。不思議なことに重さもあまり感じなかった。
木は枝葉が落ちて変形し、俺が欲しいと思った武器──ちょうど良い大きさの長剣の形状になった。しかも、長年使い慣れたかのように手に馴染む。
「はあああああっ!!」
俺は剣を振って、ブラックウルフをまとめてぶっ飛ばす。無論、死なない程度に加減してだ。
ドォオオオオン!
これだけの衝撃が加わっても木の剣は、凹んだりしなかった。意外と頑丈だな。
驚いたブラックウルフたちが、反撃に出る。だが、俺がいつも相手にしていたAランクの魔物に比べたら、まるで動きが鈍い。
俺は剣を縦横無尽に振るって、ブラックウルフたちを叩き潰す。
キャインッ!?
残った敵は明らかに怯えた様子で、後ずさった。
「その子を置いて立ち去れ」
俺が凄むとブラックウルフたちは、一斉に逃げ出した。
白い子犬は気が抜けたのか、その場にへたり込んだ。これは治療の必要があるな。
「いでよ【エリクサー草】!」
俺は最上級の薬草、エリクサー草を召喚した。それを子犬の口に寄せて食べさせる。
すると、子犬は元気になって跳ね起きた。傷が嘘のように消えて無くなっている。
「ありがとう、あるじ様!」
お、おい、コイツ。今、人語をしゃべらなかったか?
人語を操るモンスターというのは、かなり珍しい。高い知能を持つ証拠だ。
子犬は俺の周りをクルクル嬉しそうに回って、飛びかかってきた。
「おっと!」
俺が抱きとめると、子犬はつぶらな瞳を向けながら語りかけてくる。
「やっぱり、あるじ様は。フェンリルとの戦いの最中、手を抜いていた」
「フェンリル?」
よく見れば子犬は、俺が死ぬ思いで討伐した神獣フェンリルに似ていた。
あの人間をひと飲みにできてしまいそうな巨大な狼──神獣フェンリルを子犬にしたら、きっとこんな感じだろう……と、そんな突拍子もない連想をする。
すると、子犬の小さな身体から圧倒的な魔力が溢れ出した。
その魔力の質と強大さは、あの時、肌で感じた神獣フェンリルそのものだ。
ギョッとして、俺は思わず子犬を地面に落としてしまいそうになる。
「フェンリル、お礼、言う。あるじ様のおかげで、生き延びることができた。フェンリル、あるじ様を追ってやって来た」
子犬はペコリと頭を下げた。
「……お前、神獣フェンリルなのか?」
「うん。ホントなら滅びるところだった。だけど、子犬に擬態して、なんとか死なずに済んだ。途中から、あるじ様が手加減してくれた、おかげ」
手加減なんてした覚えはないぞ? コイツ、何を言っているんだ?
……あっ、もしかして、俺が【植物王(ドルイドキング)】のスキルに覚醒して、攻撃力が激減したのを、手心を加えたと勘違いしているのか?
そういえばダメージを与えたフェンリルが突然消えて、何となく、おかしい感じがしたんだよな。神獣は死ねば塵となると聞いていたが……
まさか子犬に変身して、俺たちの目を欺いていたとは驚きだ。
「あるじ様はフェンリルの元のあるじ様と同じ匂いがする。フェンリル、あるじ様の配下になる!」
「は? 同じ匂いって何だ? それに、さっきから俺をあるじ様って。俺の配下になりたいって本気か……!?」
「うん」
予想外の申し出に面食らってしまう。
神話によると神獣フェンリルは、悪神ロキに仕えていた。だが、主人を敵対する神々に殺されたため、怒って暴れまわり、神々に封印された伝説の魔狼だ。
実際、復活したコイツは、好戦的な非常にヤバい奴だった。
あれ? だとすると疑問がわくな……
「ひとつ聞きたいんだが。なぜ、ブラックウルフどもに反撃しなかったんだ? お前の力なら瞬殺だろう?」
「ブラックウルフ、フェンリルの眷属。話をしようとした」
「何?」
意外な言葉だった。
「お前は暴れるのが大好きな戦闘狂じゃなかったのか? お前のせいで、都市がひとつ壊滅したんだぞ?」
「それ違う。目が覚めたら、なぜかフェンリル、人間への怒りでいっぱいだった。めちゃくちゃ暴れたの。反省している」
フェンリルは、シュンとなった。
本当に悪いと思っているようだった。
それに目が覚めたら、人間への怒りでいっぱいだった?
「フェンリルを封じたのは神々だろう? 封印される前に、人間に何かされたのか?」
「人間には特に恨み、ない。でも目覚めたら、なぜか人間に怒った。潰したいと思った。自分でもわからない……」
フェンリルは困惑している様子だった。
そもそも、なぜコイツは復活したんだ? 神々の封印はそう簡単には外れないと思う。
【神喰らう蛇】では、フェンリルの封印を解いた者がいるのではないか? という噂が上がっていた。だとすると……
「お前、もしかして、何者かに操られていたのか?」
魔法の中には精神に作用し、怒りや憎悪を増幅するモノもある。
フェンリルの原因不明の怒りは、魔法によるものだと考えれば説明がつく。もっとも、神獣の精神に影響を及ぼすことができる魔法使いなど、実在するかわからないが。
「……よくわからない。フェンリル、怒り、抑えられなかった。でも、あるじ様に殴られたら怒りが消えた。あるじ様のおかげで、正気に戻れた。あるじ様はやっぱり、あるじ様!」
嘘をついている感じはしなかった。
もし本当に、フェンリルを復活させて王国を攻撃させた黒幕がいるなら、悪いのはソイツだ。
ここでフェンリルを下手に追い詰めて、敵に回すのは得策じゃない。
万が一、フェンリルが暴れ出したら今の俺ひとりでは、どうにもならない。王国が再び、壊滅の危機にさらされることになる。ここは相手の言葉に乗るべきだ。
俺はゴクリと唾を飲み込みながら、語りかけた。
「よし。フェンリルは今日から俺の配下だ。その代わり、約束してくれ。もう人間を殺したり街を破壊したりするなよ? 絶対だぞ」
フェンリルはコクコクと頷く。
「うん。わかった。あるじ様」
意外と素直に俺の言うことを聞いてくれた。信じられないが、本気で俺の配下になりたいようだ。
ならばと、俺は緊張しつつ続けてリクエストする。
「それと、そんな強大な魔力を振りまいていると、トラブルの元だ。みんなを怖がらせてしまうから、普段は抑えてくれないか?」
「うん。抑える」
すると、フェンリルの身体から強い光が発せられた。その体毛がドンドン抜けていき、手足がすらりと伸びて、銀髪の美少女の姿になった。
「どわっ!?」
俺はバランスを崩して、少女にのしかかられる形で地面に押し倒された。
少女は腰から生えた尻尾をフリフリさせながら告げる。
「人間に擬態した。この姿なら、魔力を抑えられる」
「ダァーッ!? ちょっ! 女の子!? お、お前、メスだったのか!?」
目と鼻の先に、美しい少女の顔のドアップがあった。俺は慌てて離れようとするが予想以上の力で上から押さえられて、ビクともしない。
こんなシチュエーション、彼女いない歴イコール年齢の俺には、刺激が強すぎだ。
「あるじ様? 顔が赤い。病気? 熱がある?」
コン、とフェンリル少女が、オデコを俺の額に押し付けてくる。体温を計ってくれているのだろうが、唇が俺の顔に触れそうな距離だった。
「どわぁあああっ!? だ、大丈夫だから、いったん離れろぉおおッ!」
「うん?」
フェンリル少女は不思議そうな顔をして、俺の上から降りる。
よく見ると彼女は、素っ裸だった。
「ぶっ!? と、とにかく、これを着ろ! 女の子が人前で肌をさらすな!」
俺は上着を脱いで、フェンリル少女に無理矢理、被せる。ブカブカの服を着せられて、彼女はキョトンとしていた。
「人間の服? 動きづらい。フェンリル、裸の方がイイ……」
「絶対にやめろぉ! 絶対だ! これからはその姿で、服を着て生活しろ! いいな?」
「うん、うん」
フェンリルは素直に頷く。
「あーっ、もう、何が何やら……だけどフェンリルと呼ぶのは、ちょっとマズイな。女の子だし、リルで良いか?」
神獣フェンリルが生きているとバレたら、大パニックだ。人々は恐れ慄き、【神喰らう蛇】から、再び討伐隊が出されるに違いない。
万が一、闘神の親父が出てきたりしたら、ヤバい。黒幕がいると訴えても、あの親父なら問答無用でリルを殺すだろう。
リルは本当は悪いヤツじゃなさそうだし、それはかわいそうだ。
フェンリルが女の子の姿で名前も変えていれば、まず誰かに勘付かれる心配はないだろう。
「リル? うん、リル、リル。あるじ様につけてもらった名前、気に入った!」
リルは尻尾を振って、嬉しそうに飛び跳ねる。そのたびに服がめくれてヤバいことになっているので、俺は慌てて視線を反らした。
「くっ……と、とにかく、街に行ってリルの服を買わないとな」
早急に手を打たないと、俺は変質者として、後ろ指をさされかねない。
美少女にあるじ様と呼ばせて、下着も身に着けさせてないなんて……
どれだけ変態なんだよ! と、血の気が引く思いだった。
「あるじ様。リル、お腹空いた。ずっと、何も食べていない」
リルのお腹が、きゅーっと盛大に鳴った。瀕死の重傷を負って食事どころではなかったらしい。
「あっー、とりあえずリンゴとバナナ、食べるか?」
俺が【植物王(ドルイドキング)】のスキルで、適当にフルーツを出現させると、リルは目を輝かせた。
「すごい。あるじ様! 全部、リルの大好物!」
リルは飢えた野獣のように俺から果物をひったくると、そのままガツガツと頬張り出した。
フェンリルって狼だから肉食かと思ったが、果物もイケるようだ。
「甘い! おいしい! あるじ様、大好きぃ!」
「お、おうっ……」
神獣フェンリルが、こんなに簡単に餌付けできてしまうとは。
まあ、いいか。俺もそういえば腹が減っていたし。トマトでも出現させて食べるかな。
疲れたし、ちょっと休憩しよう。
そう思った時だった。
「いやぁぁあああっ!」
森に女の子の悲鳴が響き渡った。
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冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )
S級冒険者の子どもが進む道
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【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~
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勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......?
お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
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主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
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主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
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成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
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期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
料理の上手さを見込まれてモフモフ聖獣に育てられた俺は、剣も魔法も使えず、一人ではドラゴンくらいしか倒せないのに、聖女や剣聖たちから溺愛される
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※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
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