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3章。妹と合体する。風竜機神シルフィード

15話。幼馴染、余裕だったダンジョンでひどい目に合ってお漏らしする

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【聖女ティア視点】

3時間後──
 私たちは街の近くに現れたB級ダンジョンを攻略していた。
 ときどき魔物の巣窟であるダンジョンが自然発生し、そこから溢れ出した魔物が、街を襲うことがある。

 今回、私たちが冒険者ギルドから受けた依頼は、ここのボスモンスターの討伐よ。ダンジョンは最下層にいるボスモンスターを倒せば、消えるわ。
 だけど……

「ぎゃあぁぁぁああっ!? 痛い、痛い!? また、背中を撃たれた!?」
「おい聖女様よ! ダンジョン内でギャアギャア騒ぐな! 魔物が寄ってくるだろうが!? Aランクの癖に、ド素人かよアンタ!」

 背中をスケルトンの弓で撃たれて、私は悲鳴を上げた。
 奴らは骨しかない顔で、カラカラと笑い声を上げる。

 おかしいわ、こんなのあり得ない……!
 私は身体を聖なる魔法障壁で覆って、不意打ちに備えている。この自慢の守りを、雑魚モンスターごときが突破して、私にダメージを与えるなんて……
 まさか、こいつらの弓は特別製!?

「アンデッドモンスターの浄化は、聖女の十八番だろうが!? さっさと片付けろ!」

 ランディは巨大なオークと斬り合いながら、切羽詰まった様子で叫ぶ。

「ぐっ!? あんたこそ、そんなヤツ、サッサと倒しなさいよ!」
「コイツは上位モンスターのハイオークだ! んな、カンタンに倒せる相手じゃねぇだよ!」

 ランディが怒鳴り返す。
 私たちのチームワークは出だしから最悪だった。ロイとだったら、こんなお互いを非難し合いながら戦うなんてことはなかったわ。

 あいつはいつだって、私に合わせてくれたし……
 って、何、考えているのよ。
 あんな無能は、いなくなってせいせいしているんだからね!

 Aランク冒険者である私にふさわしいハイレベルな仲間と組めば、もっと上を目指せるわ。それで、ヘルメス様に私の存在を認めてもらうのよ。

「【ヒール】! 【エクソシズム】!」

 私は回復魔法で、まず自分の怪我を癒す。
 続いて浄化魔法で、スケルトンどもを天国に送ってやった。聖なる光に晒されたヤツらは、ただの白骨となって、崩れ落ちる。

「フンッ! 見なさい。これが、聖女の力よ!」

 だけど、その後ろから、今度は槍を持ったゴブリンたちが現れた。
 私は仰天して、後ずさった。

「ちょっ!? じょ、冗談じゃないわよ! いつの間にか、大量の魔物に囲まれているじゃないの!? あんた、ちゃんと索敵をやってんの!?」
「当たり前だろう!? 俺だって命がけだ! 索敵もしているし、一番敵の少ないルートを選んでいるぞ!」
「はぁ!? 荷物持ちのロイの方が、まだまともなルートを選んでいたわよ!?」

 ダンジョン攻略は、なるべく敵に遭遇しにくい安全なルートを選び、ボス戦まで力を温存することが重要よ。その危機察知能力こそ、レンジャーに要求されるわ。
 ランディの危機察知能力は、ロイより劣るとしか思えなかった。

「きゃあああっ!?」

 さらに横穴から現れたコウモリ型モンスターが、私に火の弾を浴びせた。
 くっ、痛いわね、コイツも私の魔法障壁を突破してくるし……! とてもB級ダンジョンの魔物とは思えない強さだわ。
 私は苛立って叫ぶ。
 
「私が襲われそうになったら、警告を発しなさいよ!? ロイはちゃんとやってくれていたわ! ランディ、あんたそれでもAランクのレンジャーなの!?」
 
 索敵担当は常に周囲を警戒して、魔物からの奇襲を防ぐ必要があるわ。
 この男、まさか手を抜いているんじゃないでしょうね?

「強敵と戦いながら索敵もやれって、無茶振りもたいがいにしろ!? お前こそ、回復魔法が足りねえぞ! 俺がダメージを受けたら、即座に癒せ!」
「回復魔法は……ぐぅううう! えっ、もうMP切れ!? ランディ、魔力回復薬(マジックポーション)をよこして!」

 回復魔法を発動しようとするも、軽い目眩を感じて失敗する。
 おかしいわ。私のMPが切れるのが、いつもより倍近く早い。
 ロイとコンビを組んでいた時は、こんなことは無かったわ。

「はぁあああ!? 使えねぇ聖女様だな! MP管理すらまともにできねぇのかよ!? そもそも俺の手がふさがっているのが見えねえのか!」

 ランディはハイオークから叩き込まれる大剣を、懸命に弾く。まるで余裕が無さそうだった。

「ロイなら敵と戦いながらも、私の欲しいアイテムをすぐに出してくれたわよ!?」
「どんな手練れだそりゃ!? ホントに、そのロイってヤツはEランクの荷物持ちなのか!?」
「はぁあああ!? それくらい荷物持ちなら、できて当然でしょ!?」

 MPが切れた私にできるのは、護身用の杖を振り回すことくらいだ。
 いつだって私を助けてくれた自慢の聖魔法は、もう打ち止めだった。

「くるな! 来ないでよぉ!」

 私は半狂乱になりながら、懸命に杖を振ってゴブリンどもの接近を防ぐ。奴らはニヤニヤ笑っていた。
 こいつら、私をなぶって楽しんでいるの……!? こ、こんな雑魚モンスターごときが?
 怒りと屈辱に全身が熱くなる。 

「バカか!? どんだけ世間知らずっていうか……まさか、あんた、ロイ以外とパーティーを組んだことが無いのか!?」
「そうよ! それが、どうかしたの? 痛ぁあああ! それより早く魔力回復薬(マジックポーション)を!? もう限界よぉおおお!」

 ゴブリンの槍に右肩を刺されて、私は恐怖に震えた。このままだと殺される。
 その時、ロイの言葉が、私の脳裏によみがえった。

『それに俺は、ティアの能力をバフ魔法で底上げしていたんだ。俺抜きにダンジョン攻略なんかしたら、ティアはトンデモナイ目に合うぞ』

 ま、まさかロイの言っていたことは本当だったの……?

「ちくしょおおお! そういうことかよ! なにがAランクの聖女だ! あんたの冒険者としての功績は、全部ロイのおかげじゃねぇか! クソッ、とんだハズレを引かされたぜ!」

 ランディは懐から【脱出クリスタル】を取り出すと、それを地面に叩きつけた。
 クリスタルが割れると同時に視界がグニャリと歪む。次の瞬間には、私たちふたりはダンジョンの入口前に立っていた。

「ヘルメスの開発した【脱出クリスタル】を用意しておいて助かったぜ……」

 【脱出クリスタル】は、ダンジョン入口まで空間転移できるアイテムよ。

「はぁはぁ、危なかった……!」

 九死に一生を得た安堵感で、私は地面にへたり込む。
 心の中で、ヘルメス様に感謝を捧げた。
 下半身が生温かい。くっ、恐怖でオシッコを漏らしちゃったわ。

「ちっ! この【脱出クリスタル】が、いくらすると思っていやがるんだ? 足手まといの聖女様のせいで、こちとら大赤字だぜ」
「ぐっ、あんたが、まともに働かないからでしょ? ハイオークごときに手間取って。ロイなら前衛だって、しっかりこなしたわよ!」

 Aランクのベテランレンジャーだと聞いていたのに、とんだ役立たずだわ。

「……はぁ? まさかロイは、ハイオークと接近戦で、押し勝っていたのか?」
「前衛なら、できて当然じゃないの?」
「き、聞けば聞くほど、スーパーマンだなロイってヤツは。あんた、そんなヤツを追放したのかよ」

 ランディは呆れ返った様子だった。

「俺の見立てでは、ロイは間違いなくSランク冒険者級……下手すりゃそれ以上の実力者だ。ロイの正体が【機神の錬金術師】ヘルメスってのも与太じゃねぇかもな」
「えっ……?」

 私は愕然として固まった。
 ロイの実力が、Sランク以上ですって?

「って、あんた漏らしているのかよ。汚ぇな」

 ランディが私の濡れたスカートを指差して顔をしかめた。

「う、ううっ、うるさい! そんなのどうだっていいでしょ!? それより、おかしいわよ! ロイは鈍臭いタダの陰キャで、私はいつもあいつに足を引っ張られていたのよ!」

 私は恥ずかしさのあまり、絶叫してランディに詰め寄った。
 
「なぜロイが自分の功績を主張せず、手柄を全部あんたに譲っていたのか……ヤツが自分の正体を隠すためだとすれば、辻褄が合うな」
「ちょ、ちょ、ちょっと! どういうことよ!? さっきから、訳がわからないわよ!?」
「理解できねぇか……はぁ、とにかく帰るぞ。ロイの正体について探るのもあんたから受けた依頼だからな。俺が今回の件で気付いたことを話してやる。とりあえず、逃した魚のデカさを後悔するなよ?」

 私は言葉に詰まった。
 バフ魔法で、私のステータスを強化していたというロイの言葉は嘘じゃなかった。
 だ、だとしたら……自分がヘルメスだと名乗ったのも嘘じゃ無かったってこと?

 そのことに思い至って、私は縮み上がった。私を取り巻く世界のすべてが崩壊しようとしていた。
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