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4章。ホムンクルスのルーチェ
41話。人造聖女
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炎に包まれた街路樹が倒れて、女性の悲鳴が響き渡った。
「ああっ! お母さんがぁ!?」
なんと、若い女性が街路樹の下敷きになっていた。聖竜機を近くで見ようと、不用意に歩み寄ってきたらしい。
「クソッ!」
俺はすぐに駆けつけて、燃える大木を掴んで押しのける。
腕が焼け、俺の正体がバレる危険もあったが、なにふり構っていられなかった。
気絶した女性と、その子供らしい小さな女の子を抱えて、炎上する街路樹から離れる。
「……大丈夫か!?」
「う、うん! ありがとうお兄ちゃん! でも、お母さんが……!」
女の子は無事なようだが、母親は頭から血を流している。意識もなく、危険な状態だった。
「ああっ、お兄ちゃん、手が……!」
シルヴィアが駆けつけてきて、火傷した俺の手を心配するが、それどころではない。
泣きじゃくる女の子が、8年前のシルヴィアに重なって見えた。
俺の家族が襲撃され、両親が亡くなった時、シルヴィアもこんな風に泣いていた。
この女の子に、俺たちと同じ思いをさせる訳にはいかない。
「ルーチェ、この女性に回復魔法を頼む!」
「了解しました」
やってきたルーチェは、静かに頷いた。
「えっ、回復魔法って。聖魔法? それって、聖女や聖者しか使えないハズじゃあ……!?」
「ちゃんと説明していなかったけど、ルーチェは聖魔法の使い手【人造聖女】なんだ」
「【人造聖女】!?」
ルーチェが手をかざすと、聖なる輝きが灯る。回復魔法の光だ。
それに当てられた女性の出血が止まり、何事も無かったように目を開けた。
「あっ……私は?」
「うわぁあああん、お母さん!」
女の子が母親の胸に飛び込んだ。
母親は何が起こったのかわからず、呆然としている。
「成功です。回復魔法は、問題なく使えるようです」
「良かった。ルーチェ、身体に異常はないか?」
「はい。少し倦怠感がありますが……活動に問題はありません。マスターの火傷も回復いたします」
ルーチェが手を触れると、俺の腕の痛みも取れていく。
その時、すさまじい歓声が上がった。
「傷が治った!? すごい、この娘は新たな聖女だ!」
「ヘルメス様が聖女を生み出した!?」
「ああっ! 聖女様、私を助けてくださったのですね。なんとお礼を申し上げたら良いか!?」
人々が大騒ぎとなり、母親はルーチェに深々と頭を下げた。
怪我や病気を治してくれる聖女は、敬われる存在だ。
「【人造聖女】って、ちょっと、どういうことなのお兄ちゃん……?」
シルヴィアが小声で尋ねてくる。
俺は一瞬、説明すべか迷った。だが、ルーチェの存在はシルヴィアにも関係があることだ。
ある程度、話しておくべきだと思った。
「あまり詳しくは言えないが……降霊術で天使を喚び出して、人造生命(ホムンクルス)の肉体と結合させた存在がルーチェなんだ。いわば受肉した天使だな」
「て、天使って……!?」
天使とは創造神にして最高神【父なる神】に仕える超次元の存在だ。
本来なら、人間が召喚できるような存在ではないが、ルーチェに宿った天使は例外だった。
善行を積んだ人間の魂は死後、天使に昇格することがある。
ルーチェに宿っている天使は、俺たちの死んだ母さんが天使へと昇格した存在だった。
「天使を降臨させるなんて、創造神に選ばれた人間にしかできないんじゃ……! 聖女や聖者にだって、無理だよね!?」
シルヴィアは俺を尊敬の目で見た。
タネを知らなけば、そう思うだろうな。母さんは俺とシルヴィアを助けるために、天の理を曲げて、降りてきてくれたんだ。
「……ルーチェを見て、何か感じないか?」
「えっ、どういうこと?」
シルヴィアは俺の質問の意図がわからず、戸惑っている。
さすがにルーチェの中に、母さんを感じ取ることなどできないか……
ルーチェの意識が母さんのモノではないか、俺は何度も話かけてみたが、ルーチェは母さんとは別人だった。
転生したようなモノで、前世の記憶は忘れているようだった。天使としての自覚も無い。
天使の魂に、人造生命(ホムンクルス)の至高の肉体。ルーチェは、世界で唯一無二のユニークな存在だ。
「……人を助けて感謝されると、何か温かい気持ちになれますね、マスター」
みんなから賞賛されて、ルーチェがわずかばかりにはにかむ。
かつて母さんを救えなかった俺だが、この女の子の母親は助けることができた。
母さんは、そんな俺を誇らしく思ってくれたのだろうか。
「その調子でドンドン聖魔法を極めてくれルーチェ。シルヴィアの足の呪いを解くのが、目標だぞ」
「了解しました」
ルーチェは抑揚の無い声で頷いた。
「うはっ! お兄ちゃん、うれしすぎる! ルーチェの正体が天使なら、いずれできちゃうかもね!」
シルヴィアは感激している。彼女にかけられた呪いは強力で、高名な聖者でも手に負えなかった。
だが、ルーチェが無事に成長すれば、いずれシルヴィアは呪いから解放されるだろう。
「……うっ、倦怠感が強くなってきました」
「ルーチェ、大丈夫か!?」
俺はふらつくルーチェを支える。
たった2回、回復魔法を使っただけで疲れるのは、やはりまだ生後5日だからか? それとも神の摂理に反した生命だからか……?
いずれにしても、あまり無理はさせられないな。
「わかった。すぐに帰って休もう」
「はい」
その時、俺の【クリティオス】に通信が入った。
タブレットの画面に表示される名前は、ティアだ。
……一体、何事だろうか?
無視すべきか迷ったが、俺は通話に出ることにした。
『ロイ、お願い助けて! ラクス村に悪魔の群れが押し寄せてきていて、私たちだけじゃ、どうにもできないの!』
幼馴染の切羽詰まった声が響いた。
「ああっ! お母さんがぁ!?」
なんと、若い女性が街路樹の下敷きになっていた。聖竜機を近くで見ようと、不用意に歩み寄ってきたらしい。
「クソッ!」
俺はすぐに駆けつけて、燃える大木を掴んで押しのける。
腕が焼け、俺の正体がバレる危険もあったが、なにふり構っていられなかった。
気絶した女性と、その子供らしい小さな女の子を抱えて、炎上する街路樹から離れる。
「……大丈夫か!?」
「う、うん! ありがとうお兄ちゃん! でも、お母さんが……!」
女の子は無事なようだが、母親は頭から血を流している。意識もなく、危険な状態だった。
「ああっ、お兄ちゃん、手が……!」
シルヴィアが駆けつけてきて、火傷した俺の手を心配するが、それどころではない。
泣きじゃくる女の子が、8年前のシルヴィアに重なって見えた。
俺の家族が襲撃され、両親が亡くなった時、シルヴィアもこんな風に泣いていた。
この女の子に、俺たちと同じ思いをさせる訳にはいかない。
「ルーチェ、この女性に回復魔法を頼む!」
「了解しました」
やってきたルーチェは、静かに頷いた。
「えっ、回復魔法って。聖魔法? それって、聖女や聖者しか使えないハズじゃあ……!?」
「ちゃんと説明していなかったけど、ルーチェは聖魔法の使い手【人造聖女】なんだ」
「【人造聖女】!?」
ルーチェが手をかざすと、聖なる輝きが灯る。回復魔法の光だ。
それに当てられた女性の出血が止まり、何事も無かったように目を開けた。
「あっ……私は?」
「うわぁあああん、お母さん!」
女の子が母親の胸に飛び込んだ。
母親は何が起こったのかわからず、呆然としている。
「成功です。回復魔法は、問題なく使えるようです」
「良かった。ルーチェ、身体に異常はないか?」
「はい。少し倦怠感がありますが……活動に問題はありません。マスターの火傷も回復いたします」
ルーチェが手を触れると、俺の腕の痛みも取れていく。
その時、すさまじい歓声が上がった。
「傷が治った!? すごい、この娘は新たな聖女だ!」
「ヘルメス様が聖女を生み出した!?」
「ああっ! 聖女様、私を助けてくださったのですね。なんとお礼を申し上げたら良いか!?」
人々が大騒ぎとなり、母親はルーチェに深々と頭を下げた。
怪我や病気を治してくれる聖女は、敬われる存在だ。
「【人造聖女】って、ちょっと、どういうことなのお兄ちゃん……?」
シルヴィアが小声で尋ねてくる。
俺は一瞬、説明すべか迷った。だが、ルーチェの存在はシルヴィアにも関係があることだ。
ある程度、話しておくべきだと思った。
「あまり詳しくは言えないが……降霊術で天使を喚び出して、人造生命(ホムンクルス)の肉体と結合させた存在がルーチェなんだ。いわば受肉した天使だな」
「て、天使って……!?」
天使とは創造神にして最高神【父なる神】に仕える超次元の存在だ。
本来なら、人間が召喚できるような存在ではないが、ルーチェに宿った天使は例外だった。
善行を積んだ人間の魂は死後、天使に昇格することがある。
ルーチェに宿っている天使は、俺たちの死んだ母さんが天使へと昇格した存在だった。
「天使を降臨させるなんて、創造神に選ばれた人間にしかできないんじゃ……! 聖女や聖者にだって、無理だよね!?」
シルヴィアは俺を尊敬の目で見た。
タネを知らなけば、そう思うだろうな。母さんは俺とシルヴィアを助けるために、天の理を曲げて、降りてきてくれたんだ。
「……ルーチェを見て、何か感じないか?」
「えっ、どういうこと?」
シルヴィアは俺の質問の意図がわからず、戸惑っている。
さすがにルーチェの中に、母さんを感じ取ることなどできないか……
ルーチェの意識が母さんのモノではないか、俺は何度も話かけてみたが、ルーチェは母さんとは別人だった。
転生したようなモノで、前世の記憶は忘れているようだった。天使としての自覚も無い。
天使の魂に、人造生命(ホムンクルス)の至高の肉体。ルーチェは、世界で唯一無二のユニークな存在だ。
「……人を助けて感謝されると、何か温かい気持ちになれますね、マスター」
みんなから賞賛されて、ルーチェがわずかばかりにはにかむ。
かつて母さんを救えなかった俺だが、この女の子の母親は助けることができた。
母さんは、そんな俺を誇らしく思ってくれたのだろうか。
「その調子でドンドン聖魔法を極めてくれルーチェ。シルヴィアの足の呪いを解くのが、目標だぞ」
「了解しました」
ルーチェは抑揚の無い声で頷いた。
「うはっ! お兄ちゃん、うれしすぎる! ルーチェの正体が天使なら、いずれできちゃうかもね!」
シルヴィアは感激している。彼女にかけられた呪いは強力で、高名な聖者でも手に負えなかった。
だが、ルーチェが無事に成長すれば、いずれシルヴィアは呪いから解放されるだろう。
「……うっ、倦怠感が強くなってきました」
「ルーチェ、大丈夫か!?」
俺はふらつくルーチェを支える。
たった2回、回復魔法を使っただけで疲れるのは、やはりまだ生後5日だからか? それとも神の摂理に反した生命だからか……?
いずれにしても、あまり無理はさせられないな。
「わかった。すぐに帰って休もう」
「はい」
その時、俺の【クリティオス】に通信が入った。
タブレットの画面に表示される名前は、ティアだ。
……一体、何事だろうか?
無視すべきか迷ったが、俺は通話に出ることにした。
『ロイ、お願い助けて! ラクス村に悪魔の群れが押し寄せてきていて、私たちだけじゃ、どうにもできないの!』
幼馴染の切羽詰まった声が響いた。
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