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5章。ルーチェと合体する

57話。機械仕掛けの神【アザゼル】

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「ところで教皇様は【薔薇十字団(ローゼンクロイツ)】については、ご存知ですか?」
「……知っておる。神の血を引く者を自称する異端者どもじゃろ? なに、奴らが関わっておるのか?」

 少女教皇グリゼルダは顔をしかめた。
 【薔薇十字団(ローゼンクロイツ)】については、あまり良い感情を抱いていないようだ。

「はい。悪魔のダンジョンが出現したのは、【薔薇十字団(ローゼンクロイツ)】の仕業ではないかと……」

 ドォゴォオオオオン!

 突如、壁を突き破って巨大な腕が現れた。腕が少女教皇グリゼルダを鷲掴みにする。

「なにぃいいいいいっ!?」
「アハヒャヒャヒャ! 何が救世主と大聖女だ! 異端者めがぁあああ!」

 憎悪をはらんだ爆笑が大気を震わせた。

「その声は、まさかラムザ枢機卿か!? その機体は?」

 外には輝く翼をはやした人型の巨大兵器が浮いていた。その姿は、壮麗かつ神聖な輝きで満ちている。

「ななはなな、なんなのよ!?」

 ティアが動転し、ジオス枢機卿たちは驚きのあまり声も出なかった。
 ここはエーリュシオン教会の総本山だ。警備体制は万全だったハズなのに、誰にも気づかれずにどうやって、こんな巨大兵器が現れたんだ?

「マスター、空間転移による時空の歪みも感知できませんでした。この敵は存在そのものが……希薄です」

 ルーチェが俺にそっと耳打ちする。
 確かに、その通りだ。幽霊のように身体が時折、透けて見える。

「これぞ【薔薇十字団(ローゼンクロイツ)】より与えられし機械仕掛けの神【アザゼル】! 人間を監視し、断罪すべく遣わさた天使を模した機体だ!」

 ラムザ枢機卿が自慢げに叫んだ。聖騎士団が彼を拘束できなかったとすると、アザゼルに乗っているのか。

「【薔薇十字団(ローゼンクロイツ)】じゃと?
ラムザよ! おぬし、あの連中と繋がっておったのか!?」

 アザゼルに掴まれたグリゼルダが、苦痛に顔を歪ませる。

「その通り! 誰よりも神を愛し、神敵を滅してきたこの私こそ、教皇にふさわしいぃいいい! なのに一世一代の大勝負だった教皇選挙(コンクラーベ)では、貴様のごとき小娘に負けた! こんなことが許されるかぁあああ! 否! 否! 否! その誤ちを是正する手伝いを【薔薇十字団(ローゼンクロイツ)】はしてくれたという訳だ!」
「わらわを毒殺しようとしたばかりか、異端者どもと手を結ぶとは……! おぬしの行動は、教会に対する明確な敵対じゃぞ!」
「黙れ黙れ! たまたま大聖女などに生まれただけの小娘が、偉そうにこの私に説教するなぁあああ!」

 アザゼルが教皇グリゼルダを掴んだ手に力を込めた。少女の身体から、ミシリと嫌な音がした。

「あぅうう……!?」
「「教皇聖下!?」

 ジオス枢機卿たちが、教皇の苦鳴に青ざめる。

「口の効き方に気をつけるのだな! 私こそ、父なる神の代理人。人間を裁き断罪する天使アザゼルそのものなのだぁああ! この私が認めた者が正しく、そうでない者は、すべて異端の神敵だぁああああ!」

 ラムザ枢機卿は勝ち誇って笑う。

「グリゼルダ! お前にも死の裁きを下してやる! まずはこの私の味わった屈辱の何百万分の一でも苦痛を味あわせ、生まれてきたことを後悔させてやるぞぉおおお!」
「なんたること! 聖騎士団よ、ヤツを撃つのだ!」
「はっ!」

 ジオス枢機卿の号令により聖騎士たちが攻撃魔法を放つ。火炎弾や雷撃、冷凍波がアザゼルに殺到した。
 だが……

「アヒャヒャヒャ! 地上の人間ごときに、天使を傷つけることなどできん!」

 アザゼルの身体が透けてブレる。すると、すべての攻撃が、その身を透過した。

「なにぃいいい!? ま、まさか本当に天使?」

 天使には人間のいかなる攻撃も効かないと聖書には謳われている。それを体現したかのような光景に、聖騎士たちは浮き足立った。

「……これはまさか、瞬間移動か!?」

 俺はアザゼルの能力の正体に気づいた。

「ほう、見破ったか、クハハハハハッ!、さすがだな錬金術師! そう天使とは、地上のあらゆる場所に遍在しながら、決して触れることの叶わぬ者! アザゼルにはその能力を模した瞬間移動能力が備わっているのだ! これぞまさしく神の権能なり!」

 空間転移は2箇所の離れた空間を繋げるが、瞬間移動はその必要なく、一瞬で短距離を移動できる。まさに【攻撃回避のための能力】だ。
 もし瞬間移動を無制限に使えるとしたら、いかなる攻撃も通じないことになる。

「貴様が倒したルドラなどより、圧倒的に格上の力! いかなるスピードでも、このアザゼルを捉えることはできん。天使には触れることさえ許されぬのだ! アヒャヒャヒャ!」
「へ、ヘルメス様! どうか教皇聖下を!」

 ジオス枢機卿が懇願してきた。
 アザゼルに捕まった教皇グリゼルダは、グッタリしていた。病み上がりの少女になんてことしやがる。

「もちろんです。機神ドラグーンは人間を脅かすいかなる敵をも打倒すべく、造り出された存在。例え相手が天使の力を模した存在であろと、天使そのものであろと、討伐します」
「ハッ、減らず口を叩くな! そんなことは不可能だぁあああ!」

 アザゼルが瞬間移動し、俺の頭上に拳を叩きつけた。

「なにぃいいい!?」

 そのアザゼルの拳を、部分召喚で出現させた機神ドラグーンの腕が掴んでいた。

「やっぱり攻撃した瞬間は、捕まえることができるみたいだ」

 ドラグーンはそのままアザゼルの拳を握り潰す。

「ギャアアアア! 神聖不可侵たる、天使の腕がぁあああ!?」

 ジオス枢機卿が苦痛の絶叫を上げた。
 竜機シリーズと同じく、彼は機体と感覚を共有しているようだ。機体を肉体の延長のごとく操るために背負った弱点だな。

「すごいわ! ヘルメス様!」
「どうやら、戦術に関してはマスターの方が圧倒的に上のようですね」

 ティアとルーチェが声援を送ってくれる。

「お、おのれぇえええ! 神罰を与えてくれるぞ、錬金術師ぃいいいい! 天使の力の前にひれ伏すがいぃいいい!」
「こちらこそ教皇様を返してもらうぞ! 来い、機神ドラグーン!」
『おう!』

 俺の叫びに機神ドラグーンが応えた。
 オリハルコン製ドラゴンの威容が、空間転移で目前に現れた。
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