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5章。ルーチェと合体する

58話。機械仕掛け神【アザゼル】、第2形態、堕天使モード

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 俺はすぐさま機神ドラグーンのコックピットに空間転移した。
 システムオールグリーン、全兵装セーフティー解除の文字がスクリーンに流れる。

「アヒャヒャヒャ! なぶり殺してやる! そらぁああ、神罰っううう!」

 アザゼルが極大の火球を放ってきた。避ければ、ルーチェやティアたちのいる大聖堂に直撃するコースだ。
 ラムザ枢機卿は、よくよく性格が悪いらしい。

「【空間歪曲(ディストーション)コート】!」
『了解』

 俺はドラグーンの周囲の空間を歪めて、火球を空の彼方へ逸らす。

「そらそらぁあああ! いつまで保つかな!?」

 アザゼルはさらに調子に乗って、火球を撃ち込んできた。

「空間跳躍、【ドラゴン・バンカー】!」

 俺は機神ドラグーンの右腕のみを空間転移で、アザゼルの前に出現させた。
 腕に仕込まれたオリハルコン製の杭が、アザゼルの胴体に叩き込まれる。

 ズドォオオオオ──ン!

「はぎゃああああ!?」
「すごぃわああああ!」

 アザゼルからは悲鳴が、ティアたちからは歓声が上がった。

「やっぱり攻撃した瞬間は、瞬間移動は使えないようだな」
「一見、無敵の力に思えましたが、大きな弱点がありました。それを短時間で見抜くとは、さすがはマスターです」

 瞬間移動のような負荷の大きい魔法を、他の魔法と並列して使うことはできない。それはアザゼルも同じと踏んだのだが、正解だった。

「おぶぅうう! しゅ、出力が30パーセントも低下だと!? アザゼルは天使の力を模した究極の機体のハズだぁあああ!」

 胴体に大穴を空けられたアザゼルは、空中でよろめいている。どうやら、飛行に必要な風魔法の出力に異常が発生したらしい。

「そのダメージなら、もう瞬間移動は満足に使えないだろう。教皇様を今すぐ解放しろ!」
「素晴らしい、これが機神ドラグーン! まさに救世主の力ですな」

 ジオス枢機卿が、瞳を輝かせて喝采する。

「そうよ! これがヘルメス様よ! そして、私はヘルメス様の真の婚約者なのよぉおおお!」
「いや、元婚約者だろ?」

 はしゃぎまくるティアにツッコミを入れる。
 ……真の婚約者ってなんだ?

「アヒャヒャヒャッ! そ、そうだ。この私には、まだ人質がいる。貴様こそ降伏しろ錬金術師! 教皇グリゼルダがどうなっても良いのか!?」

 アザゼルは少女教皇グリゼルダを握る手に、再度、力を込めようとした。
 仮にも教皇を目指す男が、恥ずかしくないのか?

「こいつ……ッ!」
「そ、そんな卑怯なマネをして、教皇になれると思っているの!?」

 ティアたちが非難の声を上げるも、ラムザ枢機卿は意にも介しない。

「当然だとも! 【正義と力とは主にのみある】天使の力を振るう、私こそ神の代行者! 私こそ正義なのだぁ!」
「ヘルメスよ、構わぬ! わらわごとコヤツを討て! こんな男に教会を牛耳らせてはならぬ!」
「教皇様!?」

 教皇グリゼルダが、苦悶を浮かべながらも叫んだ。

「なんだと!? 死が恐ろしくないのか、グリゼルダ!?」
「ふんッ! ラムザよ、どうせおぬしは、わらわを生かしておく気はないのじゃろう? ならば、わらわは教皇としての使命をまっとうするのみじゃ。天使を騙る不埒者めが!」
「き、きさまぁ!」

 怒りに駆られたラムザ枢機卿が、今度こそグリゼルダの息の根を止めようとする。

「指輪よ、【聖壁(ホーリーウォール)】!」

 だが、ルーチェの聖魔法が蛮行を阻んだ。
 魔法効果を一度だけ5倍に高める【ドラウプニルの指輪】を使って強化した【聖壁(ホーリーウォール)】で、グリゼルダを覆ったのだ。

「なにぃいいい!? なんだ、この強固な聖壁は!?」

 グリゼルダを握り潰すことができずに、ラムザ枢機卿は驚きの声を上げる。

「助かったルーチェ!」

 ラムザ枢機卿が困惑している今こそ、チャンスだ。俺は一気にアザゼルとの距離を詰める。

「はぁあああああーッ! 【ホーリー・ファング】!」

 機神ドラグーンの左手から伸びた爪で、教皇グリゼルダを掴むアザゼルの腕を引き裂く。
 俺は空中に投げ出されたグリゼルダをキャッチ。彼女を機神ドラグーンのコクピットまで、空間転移させた。

「ぬきゃ!? ここは……? へ、ヘルメスか!?」
「ここは機神の中です。もう大丈夫ですよ、教皇様」
「あ、ああっ……助かったのじゃ!」

 グリゼルダはよほど恐ろしかったのか、俺にギュッとしがみついてきた。
 やはり、無理をしていたんだな。
 教皇といえど、まだ幼さの残る少女だ。俺はグリゼルダを安心させるために、彼女の頭を撫でてやった。

「ぐぁああああ……ッ!」

 一方、ラムザ枢機卿は戦意喪失したかのようだった。満身創痍な上に、切り札の人質まで奪われてしまったのだ。

「ルドラのように機体の復元まではできないみたいだな」

 アザゼルは瞬間移動に特化した機体のようだ。もう、ラムザ枢機卿に手は残されていないだろう。

「ラムザ枢機卿、降伏してください。あなたには聞きたいことがあります。【薔薇十字団(ローゼンクロイツ)】について、話してもらえますか?」
「……ぐっ、あ。や、奴らについて話したら。死刑は……異端審問は免除してもらえるのか?」

 憔悴した様子で、ラムザ枢機卿は尋ねてきた。
 自らが断罪した者たちにしてきたことが、己の身に降り注ぐことを恐れたのだろう。

「俺は一応、救世主のようです。奴らの情報をくれるなら、教皇様に減刑のお願いくらいはします。よろしいですよね?」
「……ぬぅっ」

 教皇グリゼルダは一瞬、顔をしかめたが反対はしなかった。
 彼女としては納得できないだろうが、俺は両親の仇を探し出したい。

「……まぁ、良い。ヘルメスがそう言うなら、死刑だけは免除してやるのじゃ」

 グリゼルダの一言に、ラムザ枢機卿はほっとしたようだった。

「そ、そうか……なら、私の知っていることを話そう。何が聞きたい?」
「では右腕に薔薇の紋章がある男について、教えていただけますか?」
「なに? それは【薔薇の騎士】(ローゼン・ナイツ)の……」

 ラムザ枢機卿の声が、不自然に止まった。
 アザゼルから、黒いオーラが吹き上がる。
 なんだ、これは……?

『ヘルメス様、大変です! 敵機に高エネルギー反応!』

 ドラグニルの作戦司令室より、少女オペレーターの警告が届いた。

『これは……外部から膨大な魔力が、敵機に注がれています! 一体、どこから!?』
「こ、これはまさか……っ! アザゼルが私の命令を、受け付けないだと!?」

 ラムザ枢機卿にとっても予想外のことだったらしく、動転した声が響いた。
 機械的な音声が、アザゼルより放たれる。

「機械仕掛けの神【アザゼル】、第2形態、堕天使モード」

 アザゼルの破損箇所がみるみる復元し、輝く光の翼が、漆黒の翼へと変化した。
 アザゼルの全身が黒いオーラに包まれる。見る者を畏怖させる禍々しい姿だ。

「神の如き強者【堕天使アザゼル】の名の元に。目前の敵をすべて殲滅します」
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