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1章。偽勇者、本物に成り代わる
6話。幻獣ユニコーンから聖なる乙女と認められる
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「な、なに? ボク、何か変なことを言ったかな……?」
平民のボクには、王族や指揮官の常識などない。知らずしらずにおかしな言動をとってしまった可能性がある。
「いいのです! いいのです! ルカ姫様のおやさしい心は、しかと伝わりました。お説教などいたすつもりはありません!
しかし、肝心なことをお忘れではありませんか? 姫様は例え不死身であっても、馬の方はそうはまいりません」
「あっ……!」
しまった。妙案だと思ったが、そこまで計算に入れていなかった。
確かに集中砲火を浴びれば、ボクは大丈夫でも、馬はただの肉塊になってしまうだろう。
「本来なら、部下に死ねと命じるのも王者の務めなのですが……時間がありません。先駆けはエリザめが、早急に人選いたしましょう!」
その時、甲高い馬のいななきと共に、目の前の空間で紫電が弾けた。
一瞬、魔王軍の襲撃かと警戒したが……のたうつ雷光の中から、黄金の角をはやした白い馬が、悠然と歩み出てくる。
その圧倒的な存在感と神秘性に、ボクの目は釘付けになった。
「幻獣ユニコーン!? なぜ、この場に……」
ボクを背後にかばいながら、エリザが困惑の声を上げる。
ユニコーンは最上級の精霊で、人前に姿を見せることは滅多に無い。気位が高く、清らかな乙女にしか心を開かないと言われている。
その力は絶大であり、ユニコーンに主として認められた少女が、その力を借りて古竜を倒したなど。数々の伝説に彩られた存在だった。
このユニコーンには見覚えがあった。
イルティアが魔王討伐軍を興した際に現れて、彼女を背に乗せようとしていた馬に違いない。
イルティアはユニコーンを愛馬にできると、喜んで彼を受け入れようとした。だが、あえなく落馬して喚き散らすことになった。
その後、ユニコーンは一切、姿を見せなくなってしまった。
おそらくイルティアの傲慢な性格に気づいて、愛想を尽かしたのだろう。
ユニコーンはゆっくり近づいてくると、甘えるように鼻を、ボクの胸にこすりつけてきた。
「な、なんだよっ……くすぐったいなぁ!」
そのまま、ペロペロと顔をなめられる。
『たったひとりで、みんなを守ろうとあがく小さなキミ。その強さ、気高さを、どうかいつまでも失わないで。キミが絶望に落ちることがないよう、僕が守り抜きます』
ユニコーンが純朴な少年のような声で語りかけてきた。
「い、一緒に戦ってくれるのかい!?」
僕の質問に、ユニコーンは深くうなずいて答える。そして背中に乗るように、首を振ってうながした。
いや。ちょっと待て。
「キミはなにか勘違いをしているようだけれど……ボクは心の清らかな乙女なんかじゃないぞ?」
イルティアに変身しているだけで、本当は男だし。
それに心の中は、イルティアに対する怒りでいっぱいだ。
イルティアは仮にも女神様に選ばれた勇者。人々を守るために戦う意志が、その根底にあるものだと信じていたが、それは違うと痛烈に思い知らされた。
魔王領との国境に近い辺境に住むボクたちにとって、魔王の財宝目当てで戦争を起こす勇者など最悪な存在だ。
今回のように魔王の怒りを最初に受け止めるのは、ボクたちなのだ。
あんな娘が女王となれば、ボクの家族が平穏に暮らすことは不可能だろう。
この土地に生まれた者は、理不尽にも兵役の義務が課せられ、別の土地に移住する自由もない。
要は、魔物から王国を守るための防波堤にさせられるのだ。
ボクの家族が、妹のコレットが幸せに生きていけるようにするためには、この戦いに勝つだけではダメだ。
ボクたちを踏みつけにするような王家を倒さなければならない。
『キミほど高潔な心を持った少女に、僕は出会ったことがない。聖なる乙女よ。僕はフェリオ。どうか友として共に戦わせて欲しい』
「……高潔って。ボクの心に王家と勇者への怒りが渦巻いていたとしてもかい?」
他の者に聞こえないように、ボクはフェリオに小声で伝える。
戦場で突然、聖なる乙女の資格なしなどと思われて、振り落とされでもしたら、目も当てられない。
『キミが復讐だけを考えていたら、この娘たちを盾として使って、力を温存して戦っただろう。わざわざ自分が盾となってイバラの道を行くなんて愚か者さ。でも、そんな愚か者だから、ボクは力を貸したくなったんだ』
フェリオはみんなに聞こえるように大きな声で断言した。
『キミはボクの乗り手となるべき立派な勇者さ!』
「なんとっ!? 古竜をもしのぐ力を持った、かの幻獣ユニコーンが、ルカ姫様を乗り手に選ばれましたわ!」
「やはりルカ様こそ、真の勇者にして救世主!」
「ルカ王女殿下バンザーイ! 我らが勇者! 星屑の聖女さまぁあああ!」
聖騎士団の女の子たちが、何やらすごいテンションで盛り上がっている。
この士気の高さを保つためにも、ボクはユニコーンにまたがった。
それにしても、やっぱり慣れ親しんだルカの名前で呼ばれるのは良いなあ。
ルカ姫様なんて敬称をつけられると、すごい違和感があるけれど……イルティア様などと呼ばれるより一兆倍マシだ。
「エリザ。ユニコーンは不滅の幻獣。例え、万の矢弾を受けても倒れはしないはずだ。これならボクが先頭を駆けても問題ないよね?
なにより、この戦いは突破力が命。王女であり勇者であるボクが先頭に立ってこそ、みなが奮い立ち、爆発的な突破力が生まれるんだ」
「……ルカ姫様。本当にお人が変わったように気高くなられて……!」
エリザが感極まって涙をぬぐった。
「開門せよ! これより聖騎士団は炎の化身となって魔竜王ヴァルヴァドスに向かって突撃する! アルビオンに光を!」
ボクは聖剣を抜き放つ。
偽物ではあるが、剣は太陽のきらめきを受けて、ボクたちを祝福するかのような輝きを放った。
「「アルビオンに光を!」」
大勢の唱和がそれに続いた。
平民のボクには、王族や指揮官の常識などない。知らずしらずにおかしな言動をとってしまった可能性がある。
「いいのです! いいのです! ルカ姫様のおやさしい心は、しかと伝わりました。お説教などいたすつもりはありません!
しかし、肝心なことをお忘れではありませんか? 姫様は例え不死身であっても、馬の方はそうはまいりません」
「あっ……!」
しまった。妙案だと思ったが、そこまで計算に入れていなかった。
確かに集中砲火を浴びれば、ボクは大丈夫でも、馬はただの肉塊になってしまうだろう。
「本来なら、部下に死ねと命じるのも王者の務めなのですが……時間がありません。先駆けはエリザめが、早急に人選いたしましょう!」
その時、甲高い馬のいななきと共に、目の前の空間で紫電が弾けた。
一瞬、魔王軍の襲撃かと警戒したが……のたうつ雷光の中から、黄金の角をはやした白い馬が、悠然と歩み出てくる。
その圧倒的な存在感と神秘性に、ボクの目は釘付けになった。
「幻獣ユニコーン!? なぜ、この場に……」
ボクを背後にかばいながら、エリザが困惑の声を上げる。
ユニコーンは最上級の精霊で、人前に姿を見せることは滅多に無い。気位が高く、清らかな乙女にしか心を開かないと言われている。
その力は絶大であり、ユニコーンに主として認められた少女が、その力を借りて古竜を倒したなど。数々の伝説に彩られた存在だった。
このユニコーンには見覚えがあった。
イルティアが魔王討伐軍を興した際に現れて、彼女を背に乗せようとしていた馬に違いない。
イルティアはユニコーンを愛馬にできると、喜んで彼を受け入れようとした。だが、あえなく落馬して喚き散らすことになった。
その後、ユニコーンは一切、姿を見せなくなってしまった。
おそらくイルティアの傲慢な性格に気づいて、愛想を尽かしたのだろう。
ユニコーンはゆっくり近づいてくると、甘えるように鼻を、ボクの胸にこすりつけてきた。
「な、なんだよっ……くすぐったいなぁ!」
そのまま、ペロペロと顔をなめられる。
『たったひとりで、みんなを守ろうとあがく小さなキミ。その強さ、気高さを、どうかいつまでも失わないで。キミが絶望に落ちることがないよう、僕が守り抜きます』
ユニコーンが純朴な少年のような声で語りかけてきた。
「い、一緒に戦ってくれるのかい!?」
僕の質問に、ユニコーンは深くうなずいて答える。そして背中に乗るように、首を振ってうながした。
いや。ちょっと待て。
「キミはなにか勘違いをしているようだけれど……ボクは心の清らかな乙女なんかじゃないぞ?」
イルティアに変身しているだけで、本当は男だし。
それに心の中は、イルティアに対する怒りでいっぱいだ。
イルティアは仮にも女神様に選ばれた勇者。人々を守るために戦う意志が、その根底にあるものだと信じていたが、それは違うと痛烈に思い知らされた。
魔王領との国境に近い辺境に住むボクたちにとって、魔王の財宝目当てで戦争を起こす勇者など最悪な存在だ。
今回のように魔王の怒りを最初に受け止めるのは、ボクたちなのだ。
あんな娘が女王となれば、ボクの家族が平穏に暮らすことは不可能だろう。
この土地に生まれた者は、理不尽にも兵役の義務が課せられ、別の土地に移住する自由もない。
要は、魔物から王国を守るための防波堤にさせられるのだ。
ボクの家族が、妹のコレットが幸せに生きていけるようにするためには、この戦いに勝つだけではダメだ。
ボクたちを踏みつけにするような王家を倒さなければならない。
『キミほど高潔な心を持った少女に、僕は出会ったことがない。聖なる乙女よ。僕はフェリオ。どうか友として共に戦わせて欲しい』
「……高潔って。ボクの心に王家と勇者への怒りが渦巻いていたとしてもかい?」
他の者に聞こえないように、ボクはフェリオに小声で伝える。
戦場で突然、聖なる乙女の資格なしなどと思われて、振り落とされでもしたら、目も当てられない。
『キミが復讐だけを考えていたら、この娘たちを盾として使って、力を温存して戦っただろう。わざわざ自分が盾となってイバラの道を行くなんて愚か者さ。でも、そんな愚か者だから、ボクは力を貸したくなったんだ』
フェリオはみんなに聞こえるように大きな声で断言した。
『キミはボクの乗り手となるべき立派な勇者さ!』
「なんとっ!? 古竜をもしのぐ力を持った、かの幻獣ユニコーンが、ルカ姫様を乗り手に選ばれましたわ!」
「やはりルカ様こそ、真の勇者にして救世主!」
「ルカ王女殿下バンザーイ! 我らが勇者! 星屑の聖女さまぁあああ!」
聖騎士団の女の子たちが、何やらすごいテンションで盛り上がっている。
この士気の高さを保つためにも、ボクはユニコーンにまたがった。
それにしても、やっぱり慣れ親しんだルカの名前で呼ばれるのは良いなあ。
ルカ姫様なんて敬称をつけられると、すごい違和感があるけれど……イルティア様などと呼ばれるより一兆倍マシだ。
「エリザ。ユニコーンは不滅の幻獣。例え、万の矢弾を受けても倒れはしないはずだ。これならボクが先頭を駆けても問題ないよね?
なにより、この戦いは突破力が命。王女であり勇者であるボクが先頭に立ってこそ、みなが奮い立ち、爆発的な突破力が生まれるんだ」
「……ルカ姫様。本当にお人が変わったように気高くなられて……!」
エリザが感極まって涙をぬぐった。
「開門せよ! これより聖騎士団は炎の化身となって魔竜王ヴァルヴァドスに向かって突撃する! アルビオンに光を!」
ボクは聖剣を抜き放つ。
偽物ではあるが、剣は太陽のきらめきを受けて、ボクたちを祝福するかのような輝きを放った。
「「アルビオンに光を!」」
大勢の唱和がそれに続いた。
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