「私のために死ねるなら幸せよね!」と勇者姫の捨て駒にされたボクはお前の奴隷じゃねえんだよ!と変身スキルで反逆します。土下座されても、もう遅い

こはるんるん

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1章。偽勇者、本物に成り代わる

13話。妹に結婚して欲しいと言われる

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 城塞都市オーダンの南区画は、様々な個人商店が雑多に並ぶ場所だ。路上に敷物を広げて、そこで手作りアクセサリーを売っている老婆や、肉を焼く芳ばしい匂いを漂わせた屋台などが並んでいる。

 幻獣ユニコーンに乗ったボクらを見て、屋台の店主が目を丸くしていた。
 明らかに戦場帰りと思われるボロボロの鎧姿の美少女がやってきたのだから、当然だろう。

 もっとも今は北門近くで、勇者率いる聖騎士団の凱旋パレードが開かれていたため、多くの人はそちらに流れていってしまい、人影はまばらだ。

 目立つ格好をしたボクが、妹と一緒に過ごすのには好都合だった。

「コレット、誕生日プレゼントを買ってあげるよ。何が欲しい?」

 ボクに抱えられる形で、フェリオに跨がるコレットに朗らかに問いかけた。

「……お兄ちゃんとの結婚指輪が欲しい」

「はぁ!?」

 言葉を失う。
 振り返ってボクを見つめたコレットは、なにやら思いつめた顔をしていた。

 コレットとは実は血が繋がっていない。10年前、流行病で親を亡くし、神殿に預けられていた彼女をボクの両親が引き取ったのだ。

「いや、お前。さすがに14歳になってそれはないだろ……?」
 
 コレットは小さいころから、将来ボクのお嫁さんになりたいと言っていた。
 さすがに最近は、そんなことは言わなくなって、若干寂しさを感じていたのが……
 
 衝撃から立ち直るのには、数秒の時を要した。

「言ったもん。お兄ちゃんは、私をお嫁さんにしてくれるって言ったもん!」

 コレットがむくれ面をする。
 それでピンと来た。
 
「はっはーん。お前、もしかして甘えているのか。よしよし、わかった。お嫁さんごっこがしたいんだな?」

 ポンポン、妹の頭をなでてやる。
 ボクの妹は、やっぱりかわいいと思う。

 胸も膨らんできて、すっかり女らしくなったと思っていたけど、まだまだ子供だったんだな。
 たまには童心に返るのも悪くないか。

「ごっこじゃなくて、お兄ちゃんのホントのお嫁さんになりたいの!」

 思い切り真剣な目で返されて、ボクはたじろいだ。
 驚きのあまりコレットをなでる手が止まる。

 な、何に言ってんだ、この娘!?

「わ、わかった。それじゃ、二番目に欲しい物で!」

「お兄ちゃんとの子供が欲しい」

「ぶっ!?」
 
 話題をそらそうとしたら、真顔でとんでもないことを言われた。

「無理! せめてお金で買えるものにしろ!」

 妹のことは好きだが、この感情はラブではなくライクだ。
 額から、いやな汗が吹き出して来る。

「じゃ、やっぱり結婚指輪がいいな」

「最初に戻ってるし! なんで、いきなりそんなことを言い出すんだ!?」

 ボクはコレットの様子が、おかしいことに気づいて問いただす。

「だって。お兄ちゃんは、すごくキレイな王女様になっちゃって。この都市どころか国を救った英雄で。王家と戦うなんて言うし。なんか、このままドンドン、遠くに行っちゃいそうな気がしたから……」

 うつむいたコレットは、寂しそうな表情をしていた。

「ルカお兄ちゃんは、今でもやっぱり、私のお兄ちゃんだよね?」

「当たり前だろ?」

 妹を安心させるために、力強く頷く。
 とはいえ、コレットの不安も理解できた。

 ボクの身体は女神の眷属であるイルティア姫そのものになり、ルカの名で魔王軍相手に大勝利した。さらには聖騎士団の見ている前で、女神様から聖剣を授かり、真の勇者の称号を得た。

 昨日までのボクとは、完全に違う自分になってしまい、自分でもわけがわからないくらいだ。
 この先、ボクがどのような運命をたどっていくのか、想像もつかない。

「不安になって、ボクとの結びつきが欲しくて、結婚指輪が欲しいとか言ったのか?」

「……うん。結婚したら。女神様の前で愛を誓い合ったら。この先もお兄ちゃんと、ずっと一緒にいられるでしょ? お兄ちゃんだって、わ、私と一緒にいたいよね?」

 ボクは安堵の息をもらす。
 コレットが思い悩んでいたのは、ボクと一緒にいられなくなるという不安が、その本質だったのだ。

「もちろん。大丈夫だって。ボクが帰ってくる場所は、コレットや父さんと母さんが待っている家だけだから」

 王家と戦うのもボクたちの生活が、不当に脅かされないようにするためだ。
 
「ありがとうお兄ちゃん。私、世界で一番お兄ちゃんが好きだよ」
 
 上目遣いで言われて、胸がドキッとする。
 うぉおお! やっぱりボクの妹はかわいい。

「ボクもコレットが好きだよ! じゃ、何か屋台でおいしいものでも買って食べようか?」

 激戦をくぐり抜けたせいで、実は腹ペコだった。

「その前に、キスして欲しいな」

「うぉ!? ……あ、いや。ほっぺにチューとかか?」

 カウンター気味にとんでもないことを言われて、一瞬、焦った。

「……ううん。唇に」

「お前、正気か!?」
 
 ボクは衝撃のあまり、後ろに仰け反って危うく落馬しそうになった。
 妹を性の対象になど、できる訳がない。

 同時に、会心の断り文句を思いつく。

「ボクは女神様から、勇者の力を失わないよう唇を許してはならないと言われているんだ。だから絶対に無理! そもそもボクたち兄妹でしょうが!?」

 女神を使っての必死の反論に、コレットは残念そうに息を吐いた。

「じゃあ、ほっぺたでいいよ」

 はにかむ妹が小悪魔っぽく思えた。
 ゴクリと生唾を飲み込む。

「お、お前が変なことを言うから、意識しちゃうじゃないか」 

 親愛のキスなら何も思うところなく、ほっぺたにできただろうが。
 今はコレットのことを女の子として見てしまっている。心臓がうるさいくらい早鐘を打っていた。

「私のこと女の子として、魅力的だと思ってくれるの?」

「うっ! コレットはかわいいと思うよ。で、でも好きだからこそ、欲望の対象になんて絶対にできないんだ!」

 ボクの額に大量の脂汗が浮ぶ。
 女の子の身体になったというのに、下腹部から熱い衝動が込み上げてくる。
 しかも義妹に対してなど、我ながら自己嫌悪に陥った。

 お、お兄ちゃん、失格じゃないか……

「……わかった。ごめんね、お兄ちゃん。じゃあ、キスしなくて良いから。絶対に私のところに帰ってくるって約束して」

「う、うん。約束する」

 妹からの助け舟に、胸を撫でおろして頷く。
 ああっ、ヤバかった……

 ボクは女の子の身体になったのだし、キスは道徳的に何の問題もなかったかも知れないが。それでも越えてはならない一線があると思う。

 その時、肉を焼くジューシーな匂いが、鼻孔をくすぐった。
 顔見知りのおっちゃんがやっている串焼きの屋台が、目に飛び込んできた。

「あっ、おっちゃん、久しぶり! 焼き鳥2本ちょうだい!」

「はえ!?」

 いつもの気安さで注文したら、目玉が飛び出るほど驚かれた。

 あっ、しまった。ボクは王女の姿になっていたんだ。
 コレットと一緒のこともあって、つい素の自分が出てしまった。

 さらに懐に手を伸ばして気づく。

「……お金、持ってなかった」

 勇者が無銭飲食など、最悪である。

「はえ? じゃ、お兄ちゃん、ここは私が出すよ」

「わ、悪い」

 思わず縮こまって答える。
 コレットは笑いながら、小銭を出してくれた。

 ふたりで幻獣フェリオの上で、焼き鳥に舌鼓を打つ。
 
「くぅ! お兄ちゃんと一緒に食べると、いつもの何倍もおいしい!」

 コレットが、花がほころぶような笑顔を見せた。
 ボクも同意だった。妹と一緒にする食事は最高だ。

 イルティア姫の護衛をしていた時は、いつ何時、呼び出されるかわからず、食事の時間も気が抜けなかったからな。
 
「こんな時間が、ずっと続けば良いのにな」

 妹が過ぎゆく時を、噛みしめるようにつぶやいた。
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