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3章。国王との決戦
50話。アナスタシア姫
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「ま、まさか六つの翼だと……その姿、もはや女神そのものではないか……」
倒れ伏したシュナイゼルが、息も絶え絶えの様子でボクを見上げる。
聖剣で斬られたその身体は、浄化の光に焼かれ、徐々に消滅していた。
シュナイゼルは魔王となったが故に、聖剣に滅ぼされる肉体となってしまったのだ。
「女神そのもの……?」
ボクの背中の【光翼(シャイニング・フェザー)】は、イルティアのおかげで進化し、六つの翼になっていた。
女神ネーノイスは六つの翼を持っており、確かにそこだけは女神と同じと言える。
「これはイルティアの力を得て、一時的に進化したものに過ぎない」
「なに……? そうか。余が、愛することのできなかった娘のな……」
シュナイゼルは自嘲気味につぶやく。
「シュナイゼル!」
アナスタシアが国王にすがりついて、その手を握った。
「アナスタシア。良かったな。これで、そなたを苦しめる者は、すべていなくなった」
「やはり、あなたは最初から死ぬつもりだったのですね!」
その時、空中都市の床が立っていられないほど揺れ、天井から破片が降ってきた。
「な、なんだ!?」
「……どうやら、今の攻防で、アルフヘイムの動力部がやられたようだな」
シュナイゼルの指摘にボクは驚愕する。
それはつまり、この空中都市が落ちるということか?
「なんと!? ルカ様、姉上! すぐに脱出を!」
エリザがアナスタシア姫の腕を掴むが、姫はそれを振り払った。
「わたくしはシュナイゼルと共にここに残ります。アルフヘイムは、オーダンの近くにあり、このまま落下すれば、かの都市にそれなりの被害が出るでしょう。わたくしが制御して遠くに落下させます」
「な、なにをバカなことを!? そんなことをしたら、姉上が死んでしまいます!」
「そうです! アナスタシア姫。ボクが何とかしますから、まずは脱出を!」
ボクも一緒になってアナスタシア姫を説得する。
オーダンの被害は何としても防がなくてはならないが、それは姫を助けてからだ。
「……ルディア。最後の命令だ。アナスタシアを安全な場所まで送り届けろ」
「御意にございます。お父様」
ルディア姫が胸に手を当てて承諾する。
意外な命令に、ボクは耳を疑った。
「シュナイゼル! 教え下さい! あなたは、なぜ女神に反逆しようなどとしたのですか? 神になり代わる。そんな野望に、どうして取り憑かれたのですか!?」
「……そうだな。最後にそなたにだけは、話しておきたい」
シュナイゼルは憑き物が落ちたような顔をアナスタシアに向けた。
「勇者となった余は、女神と対話した。もし魔王の討伐に成功したら、アナスタシアとの婚姻を許して欲しいとな。だが、許されなかった。
エルフ王家は、魔族に対抗するために純血を保てねばならん。例え、勇者と言えど、人間と交わることは、まかりならんとな」
アナスタシアの目が大きく見開かれた。
「姫が余に想いを寄せてくれたように。余もまたそなたを愛していた。だが、余はアルビオン王国の王子。勇者の血筋を残すために愛してもいない妻を娶らねばならなかった。それが口惜しかったのだ」
「……あなたがエルフ王国に侵攻したのは、わたくしの婚姻の話が浮上したからですね? あなたへの未練をにじませた、わたくしの愚かな手紙を受け取ったから」
アナスタシアは苦悶を浮かべた。
「エリザ、わかったでしょう? わたくしはエルフの王女として犯してはならない罪を犯したのです。国よりも、この人を愛してしまった。それが悲劇を招いたのです」
「あ、姉上! 誰かを愛することが罪であるなど、そんなことは有り得ません!」
エリザが血を吐くような叫びを上げる。
「いいえ。個人的な願望のために、多くの人を犠牲にすることは許されません。わたくしは罪を償わなければならないのです」
空中都市を貫く激震が、さらに激しさを増してきた。
もうこれ以上、ここに踏みとどまるのは無理だ。
「シュナイゼル。わたくしが、これからはずっとそばにいます」
アナスタシアは驚くべき一言を告げた。
「エリザ、エルフ王家はあなたが継ぎなさい」
姫はエリザに向きなおると王笏を渡す。神話を描いた壁画の中で、女神がエルフ王に授けていたものた。
「そんな。無理です、姉上!」
エリザは涙で顔をグシャグシャにしていた。
「シュナイゼルのおかげで、純血を信奉するエルフの長老はすべて粛清されました。あなたが王位につけば、異種族の血が混じっているからと不当な扱いをされる者は、いなくなるでしょう」
「……良いのかアナスタシア?」
「もちろんです、シュナイゼル。これからは、わたくしと共に永劫を過ごしましょう」
アナスタシアは、花がほころぶような笑顔を見せた。
「お父様……?」
「……ルディアよ。余の妄執に付き合わせてすまなかったな。もう眠るが良い」
「はい、ルディアはお父様と一緒に眠ります」
ルディア姫は父の膝元に寝転んで、動かなくなった。その身から放たれていた邪悪な波動が消える。
アンデットの呪縛から解き放たれ、彼女は天に召されたのだろう。
父王に利用されていたにも関わらず、ルディア姫の顔は安らかだった。
「ルカ殿、こちらへ。わたくしの最後の力で、あなたの【変身】スキルを進化させます。あなたが運命に翻弄されることなく、愛する人と共に生きていけますように」
ボクの右手をアナスタシア姫が握った。そこらから、何か温かい波動が流れ込んで来るのを感じる。
「心強き真の勇者殿。妹を、そして、この世界を頼みます」
アナスタシアが目尻に涙を滲ませて、別れを告げた。
彼女はシュナイゼルの顔を胸に抱く。
「ルカよ。いまさらこのようなことを頼めた義理ではないが……イルティアを頼む」
シュナイゼルの言葉に、ボクは頷きを返した。
「エリザ! これ以上は無理だ、行くぞれ!」
「……はっ!」
エリザは一瞬、葛藤を浮かべた後、ボクに付き従った。
ボクたちは急いで来た道を引き返す。
天井の崩落が勢いを増し、床が波打って崩れる。
空中都市アルフヘイムは崩壊していった。
倒れ伏したシュナイゼルが、息も絶え絶えの様子でボクを見上げる。
聖剣で斬られたその身体は、浄化の光に焼かれ、徐々に消滅していた。
シュナイゼルは魔王となったが故に、聖剣に滅ぼされる肉体となってしまったのだ。
「女神そのもの……?」
ボクの背中の【光翼(シャイニング・フェザー)】は、イルティアのおかげで進化し、六つの翼になっていた。
女神ネーノイスは六つの翼を持っており、確かにそこだけは女神と同じと言える。
「これはイルティアの力を得て、一時的に進化したものに過ぎない」
「なに……? そうか。余が、愛することのできなかった娘のな……」
シュナイゼルは自嘲気味につぶやく。
「シュナイゼル!」
アナスタシアが国王にすがりついて、その手を握った。
「アナスタシア。良かったな。これで、そなたを苦しめる者は、すべていなくなった」
「やはり、あなたは最初から死ぬつもりだったのですね!」
その時、空中都市の床が立っていられないほど揺れ、天井から破片が降ってきた。
「な、なんだ!?」
「……どうやら、今の攻防で、アルフヘイムの動力部がやられたようだな」
シュナイゼルの指摘にボクは驚愕する。
それはつまり、この空中都市が落ちるということか?
「なんと!? ルカ様、姉上! すぐに脱出を!」
エリザがアナスタシア姫の腕を掴むが、姫はそれを振り払った。
「わたくしはシュナイゼルと共にここに残ります。アルフヘイムは、オーダンの近くにあり、このまま落下すれば、かの都市にそれなりの被害が出るでしょう。わたくしが制御して遠くに落下させます」
「な、なにをバカなことを!? そんなことをしたら、姉上が死んでしまいます!」
「そうです! アナスタシア姫。ボクが何とかしますから、まずは脱出を!」
ボクも一緒になってアナスタシア姫を説得する。
オーダンの被害は何としても防がなくてはならないが、それは姫を助けてからだ。
「……ルディア。最後の命令だ。アナスタシアを安全な場所まで送り届けろ」
「御意にございます。お父様」
ルディア姫が胸に手を当てて承諾する。
意外な命令に、ボクは耳を疑った。
「シュナイゼル! 教え下さい! あなたは、なぜ女神に反逆しようなどとしたのですか? 神になり代わる。そんな野望に、どうして取り憑かれたのですか!?」
「……そうだな。最後にそなたにだけは、話しておきたい」
シュナイゼルは憑き物が落ちたような顔をアナスタシアに向けた。
「勇者となった余は、女神と対話した。もし魔王の討伐に成功したら、アナスタシアとの婚姻を許して欲しいとな。だが、許されなかった。
エルフ王家は、魔族に対抗するために純血を保てねばならん。例え、勇者と言えど、人間と交わることは、まかりならんとな」
アナスタシアの目が大きく見開かれた。
「姫が余に想いを寄せてくれたように。余もまたそなたを愛していた。だが、余はアルビオン王国の王子。勇者の血筋を残すために愛してもいない妻を娶らねばならなかった。それが口惜しかったのだ」
「……あなたがエルフ王国に侵攻したのは、わたくしの婚姻の話が浮上したからですね? あなたへの未練をにじませた、わたくしの愚かな手紙を受け取ったから」
アナスタシアは苦悶を浮かべた。
「エリザ、わかったでしょう? わたくしはエルフの王女として犯してはならない罪を犯したのです。国よりも、この人を愛してしまった。それが悲劇を招いたのです」
「あ、姉上! 誰かを愛することが罪であるなど、そんなことは有り得ません!」
エリザが血を吐くような叫びを上げる。
「いいえ。個人的な願望のために、多くの人を犠牲にすることは許されません。わたくしは罪を償わなければならないのです」
空中都市を貫く激震が、さらに激しさを増してきた。
もうこれ以上、ここに踏みとどまるのは無理だ。
「シュナイゼル。わたくしが、これからはずっとそばにいます」
アナスタシアは驚くべき一言を告げた。
「エリザ、エルフ王家はあなたが継ぎなさい」
姫はエリザに向きなおると王笏を渡す。神話を描いた壁画の中で、女神がエルフ王に授けていたものた。
「そんな。無理です、姉上!」
エリザは涙で顔をグシャグシャにしていた。
「シュナイゼルのおかげで、純血を信奉するエルフの長老はすべて粛清されました。あなたが王位につけば、異種族の血が混じっているからと不当な扱いをされる者は、いなくなるでしょう」
「……良いのかアナスタシア?」
「もちろんです、シュナイゼル。これからは、わたくしと共に永劫を過ごしましょう」
アナスタシアは、花がほころぶような笑顔を見せた。
「お父様……?」
「……ルディアよ。余の妄執に付き合わせてすまなかったな。もう眠るが良い」
「はい、ルディアはお父様と一緒に眠ります」
ルディア姫は父の膝元に寝転んで、動かなくなった。その身から放たれていた邪悪な波動が消える。
アンデットの呪縛から解き放たれ、彼女は天に召されたのだろう。
父王に利用されていたにも関わらず、ルディア姫の顔は安らかだった。
「ルカ殿、こちらへ。わたくしの最後の力で、あなたの【変身】スキルを進化させます。あなたが運命に翻弄されることなく、愛する人と共に生きていけますように」
ボクの右手をアナスタシア姫が握った。そこらから、何か温かい波動が流れ込んで来るのを感じる。
「心強き真の勇者殿。妹を、そして、この世界を頼みます」
アナスタシアが目尻に涙を滲ませて、別れを告げた。
彼女はシュナイゼルの顔を胸に抱く。
「ルカよ。いまさらこのようなことを頼めた義理ではないが……イルティアを頼む」
シュナイゼルの言葉に、ボクは頷きを返した。
「エリザ! これ以上は無理だ、行くぞれ!」
「……はっ!」
エリザは一瞬、葛藤を浮かべた後、ボクに付き従った。
ボクたちは急いで来た道を引き返す。
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