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2章。聖騎士団との対決
24話。聖女シルヴィア、王子に無下にされる
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「ふざけるな!? お前ごときが、アルフィンの代わりになるモノか!」
「きゃあっ!?」
エルトシャン殿下は、私を乱暴に振り払った。
ダンスホールには音楽隊の演奏が響いていたが、私が転倒すると同時に、ピタリと鳴り止む。
夜会に集まった貴族たちの好奇の視線が、私に注がれた。
「エルトシャン殿下! 私はあなたの婚約者、聖女シルヴィアですのよ!? な、なぜ、私を拒絶されますの!?」
「黙れ! 我が妻となるべきは愛しきアルフィンをおいて他にいない!」
私が取りすがろうとするも、エルトシャン殿下は、取り付く島もなかった。
彼の頭の中は、憎きあの魔女アルフィンのことでいっぱいだった。
「ああっ、アルフィン! なんという美しさだ! シルヴィア、お前などアルフィンの美しさの足元にも及ばない!」
「い、今なんと、おっしゃいましたの……!?」
公衆の面前でのあまりの物言いに、私は愕然とした。
貴族たちは、この爆弾発言に騒然となる。
「殿下! シルヴィアとの婚約は、聖王陛下のご決定でありますぞ! 我が娘を無下されるとは、聖王陛下に弓引くと同じこと!」
勇者であるロイドお父様が、慌てて取りなそうとする。
「例え父上のご命令だろうと関係ない! 私は真実の愛を知ってしまったのだ。アルフィンの前では、すべてが霞む! アルフィン以外の娘と結婚するつもりなど、毛頭ない!」
「何をバカなことを!? アルフィンお姉様が、どうなったか殿下も良くご存知のハズでしょう!?」
アルフィンは魔王の血を引いていた。そんな娘と次期、聖王が結婚するなど天地がひっくり返ってもあり得ない。
エルトシャン殿下は、気が触れてしまったとしか思えなかった。
ああっ、私の愛しい殿下が、な、なぜ、一体、どうして……
「口を慎め! 私は必ずアルフィンを手に入れる! 異論は許さん! お前との婚約など破棄だ!」
「殿下!?」
エルトシャン殿下は、興奮した様子で言い放つとダンスホールを後にしていった。
私は大勢の前で、大恥をかかされる結果となった。
「あらまあ、シルヴィア様、おいたわしい……」
「エルトシャン殿下が、ここまでアルフィン様にご執心とは……いやはや存じませんでしたな」
「アルフィン様は、神聖魔法が使えなくなる外れスキルを得て、追放されたのでしょう? 今頃、どこでどうされているのか……」
「しかし、このままエルトシャン殿下のお相手が決まらぬと……下手をするば聖王家の存続に関わるのでは?」
噂好きの貴族たちが、さっそく今の一幕を肴に騒ぎ始める。
「あ、あなたたち、無礼ですわよ! 私を誰だ思っていますの!? 私は聖女シルヴィア・ヴェルトハイム。偉大なる神の代理人、この国の未来の国母ですわ!」
私はドレスの裾を払って立ち上がり、貴族たちを睨みつける。
コイツラにとって、他人の不幸は蜜の味なのだ。許せない。天使を召喚して、ことごとく断罪してやりたくなるわ。
「おおっ、これは失礼いたしました聖女様」
貴族たちはクスクス笑って、私から遠ざかる。
音楽隊による演奏が再開されて、みな私を尻目にダンスを踊り出した。
侯爵令嬢であり聖女でありながら、エルトシャン殿下にまったく相手にされない無様な娘、それが今の私だった。
「くぅ……何もかも、あの憎き魔女のせいですわ!」
私は唇を噛み締めて、屈辱に耐えた。
アルフィンが魔王の娘であったことは、秘密にされていた。このことを知っているのはエルトシャン殿下と、聖王陛下、ロイドお父様、それにお母様と私の5人だけだった。
『スキル発現式の日』に居合わせた司祭や騎士たちは、秘密を守るための口封じで処刑した。アルフィンの秘密を暴くために使った者たちも同様だ。
聖王と聖女と勇者が口裏を合わせれば、都合の悪い人間を合法的に抹殺するなど容易い。
もし、アルフィンのことが公になれば、ヴェルトハイム侯爵家の名声は地に落ちる。
あの女は神聖魔法が使えなくなったので、侯爵家から追放したと公表した。
だから、私は建前上、未だにあの女を『アルフィンお姉様』と呼ばなくてはならない。
「シルヴィア、なんというざまだ! 王子殿下のお心をまったく引くことができぬとは!?」
ロイドお父様が憤慨する。
「わ、私だって、必死に一生懸命やっていますわ!」
「結果が出せなければ、何の意味もないわ! お前のその真珠をあしらったドレスと髪飾りに、一体いくらかかっていると思っている!?」
「知りませんわよ、そんなこと!? それより、あの女を抹殺する計画はどうなっていますの!?」
なんとか事が公になる前に、アルフィンを抹殺すること。それが、私とロイドお父様の悲願だった。
あの女がいなくなれば、エルトシャン殿下も聖女である私になびいてくれるハズ。
「ここで大声で、そんな話はするな!」
ロイドお父様は、声をひそめて私に耳打ちする。
「例の薬。エンジェル・ダストの実験がもうすぐ終わりそうだ。薬が完成次第、バルトラに命じて、魔王城に天兵の一団を突入させる。それで終わりにできるハズだ」
「お父様は前線で、指揮を取りませんの? 勇者なのに?」
私はそれが不満だった。部下に任せっきりで大丈夫だろうか?
「その必要はない。天使の力を降臨させるエンジェル・ダストは究極の強化薬だ。
天兵と化したエルフどもに任せれば、アルフィンとランギルスを討ち取るなど、たやすい」
ロイドお父様な傲然と言い放つ。
でも、実際のところは、歳を取ってもう魔王ランギルスに勝つ自信がないのじゃないかしら?
実際、この前の戦いでは、お父様はランギルスに押されていた。宮廷での処世術にばかりに長けて、もう勇者としての勇猛さなど、失われつつあるのだわ。
なんて情けない……こんな男が、お父様だなんて信じられませんわ。
ポンコツ勇者と、私は心の中で舌を出す。
「もし失敗したら、今度は私が直々に出陣して、アルフィンお姉様を討ち取ってやりますわ! 今度こそ、聖女の力を思い知らせてやりますの!」
私がこんなに苦しんでいるのは、すべてアルフィンのせい。
薄汚い魔王の血筋の癖に、エルトシャン殿下のお心を奪い、この私より美しいだなんて、絶対に許さない。
絶対に絶対に、この私の足元にひれ伏しさせてやりますわ。
「シルヴィア、良く聞け。お前の戦場はここだ。アルフィンの抹殺は俺に任せて、お前はとにかく、エルトシャン殿下のお心を射止めることに努めろ。
俺が手を回して、今後も夜会などをセッティングしてやる」
「夜会ですって!? また、大勢の前で、こんな恥をまた晒せとおっしゃるの!? そんな暇があるなら、私とエルトシャン殿下の結婚の日取りをお決めになって! お父様ならできるでしょう!?」
私は頭を掻きむしった。
「王子殿下が、お前を拒絶されている限りは結婚式など、不可能だ! できたとしても、各国からの来賓の前で、今の一幕を繰り返すことになるぞ!」
それは、ゾッとすることだった。
私が殿下から愛されていない事実を全世界に晒してしまう。
「とにかく、どんなに辛くてもエルトシャン殿下へのアプローチを続けろ! 万が一にも、他の令嬢に殿下を奪われるようなことがあっては一大事だ。ヴェルトハイムの浮沈は、お前にかかっているのだぞ!」
「くぅ……わかりましたわ。他の女に、エルトシャン殿下を取られる訳には参りませんものね……」
そんなことになったら、私はその女を殺しかねない。
「と、とにかく、アルフィンお姉様を消しさえすれば、殿下もお心変わりするハズですわ。お父様、頼みましたよ!」
「ああっ、任せておけ!」
ロイドお父様は自信ありげに頷いた。
あの女を15年間育ててきた愛情など、まったく持ち合わせていないようで、安心した。
ロイドお父様はポンコツだけど。権力に病的に執着する心だけは、信頼できますわ。
この人は、私を王妃にするために、あらゆる手を打ってくれるでしょう。
そう思うと笑いが込み上げてきた。
「きゃあっ!?」
エルトシャン殿下は、私を乱暴に振り払った。
ダンスホールには音楽隊の演奏が響いていたが、私が転倒すると同時に、ピタリと鳴り止む。
夜会に集まった貴族たちの好奇の視線が、私に注がれた。
「エルトシャン殿下! 私はあなたの婚約者、聖女シルヴィアですのよ!? な、なぜ、私を拒絶されますの!?」
「黙れ! 我が妻となるべきは愛しきアルフィンをおいて他にいない!」
私が取りすがろうとするも、エルトシャン殿下は、取り付く島もなかった。
彼の頭の中は、憎きあの魔女アルフィンのことでいっぱいだった。
「ああっ、アルフィン! なんという美しさだ! シルヴィア、お前などアルフィンの美しさの足元にも及ばない!」
「い、今なんと、おっしゃいましたの……!?」
公衆の面前でのあまりの物言いに、私は愕然とした。
貴族たちは、この爆弾発言に騒然となる。
「殿下! シルヴィアとの婚約は、聖王陛下のご決定でありますぞ! 我が娘を無下されるとは、聖王陛下に弓引くと同じこと!」
勇者であるロイドお父様が、慌てて取りなそうとする。
「例え父上のご命令だろうと関係ない! 私は真実の愛を知ってしまったのだ。アルフィンの前では、すべてが霞む! アルフィン以外の娘と結婚するつもりなど、毛頭ない!」
「何をバカなことを!? アルフィンお姉様が、どうなったか殿下も良くご存知のハズでしょう!?」
アルフィンは魔王の血を引いていた。そんな娘と次期、聖王が結婚するなど天地がひっくり返ってもあり得ない。
エルトシャン殿下は、気が触れてしまったとしか思えなかった。
ああっ、私の愛しい殿下が、な、なぜ、一体、どうして……
「口を慎め! 私は必ずアルフィンを手に入れる! 異論は許さん! お前との婚約など破棄だ!」
「殿下!?」
エルトシャン殿下は、興奮した様子で言い放つとダンスホールを後にしていった。
私は大勢の前で、大恥をかかされる結果となった。
「あらまあ、シルヴィア様、おいたわしい……」
「エルトシャン殿下が、ここまでアルフィン様にご執心とは……いやはや存じませんでしたな」
「アルフィン様は、神聖魔法が使えなくなる外れスキルを得て、追放されたのでしょう? 今頃、どこでどうされているのか……」
「しかし、このままエルトシャン殿下のお相手が決まらぬと……下手をするば聖王家の存続に関わるのでは?」
噂好きの貴族たちが、さっそく今の一幕を肴に騒ぎ始める。
「あ、あなたたち、無礼ですわよ! 私を誰だ思っていますの!? 私は聖女シルヴィア・ヴェルトハイム。偉大なる神の代理人、この国の未来の国母ですわ!」
私はドレスの裾を払って立ち上がり、貴族たちを睨みつける。
コイツラにとって、他人の不幸は蜜の味なのだ。許せない。天使を召喚して、ことごとく断罪してやりたくなるわ。
「おおっ、これは失礼いたしました聖女様」
貴族たちはクスクス笑って、私から遠ざかる。
音楽隊による演奏が再開されて、みな私を尻目にダンスを踊り出した。
侯爵令嬢であり聖女でありながら、エルトシャン殿下にまったく相手にされない無様な娘、それが今の私だった。
「くぅ……何もかも、あの憎き魔女のせいですわ!」
私は唇を噛み締めて、屈辱に耐えた。
アルフィンが魔王の娘であったことは、秘密にされていた。このことを知っているのはエルトシャン殿下と、聖王陛下、ロイドお父様、それにお母様と私の5人だけだった。
『スキル発現式の日』に居合わせた司祭や騎士たちは、秘密を守るための口封じで処刑した。アルフィンの秘密を暴くために使った者たちも同様だ。
聖王と聖女と勇者が口裏を合わせれば、都合の悪い人間を合法的に抹殺するなど容易い。
もし、アルフィンのことが公になれば、ヴェルトハイム侯爵家の名声は地に落ちる。
あの女は神聖魔法が使えなくなったので、侯爵家から追放したと公表した。
だから、私は建前上、未だにあの女を『アルフィンお姉様』と呼ばなくてはならない。
「シルヴィア、なんというざまだ! 王子殿下のお心をまったく引くことができぬとは!?」
ロイドお父様が憤慨する。
「わ、私だって、必死に一生懸命やっていますわ!」
「結果が出せなければ、何の意味もないわ! お前のその真珠をあしらったドレスと髪飾りに、一体いくらかかっていると思っている!?」
「知りませんわよ、そんなこと!? それより、あの女を抹殺する計画はどうなっていますの!?」
なんとか事が公になる前に、アルフィンを抹殺すること。それが、私とロイドお父様の悲願だった。
あの女がいなくなれば、エルトシャン殿下も聖女である私になびいてくれるハズ。
「ここで大声で、そんな話はするな!」
ロイドお父様は、声をひそめて私に耳打ちする。
「例の薬。エンジェル・ダストの実験がもうすぐ終わりそうだ。薬が完成次第、バルトラに命じて、魔王城に天兵の一団を突入させる。それで終わりにできるハズだ」
「お父様は前線で、指揮を取りませんの? 勇者なのに?」
私はそれが不満だった。部下に任せっきりで大丈夫だろうか?
「その必要はない。天使の力を降臨させるエンジェル・ダストは究極の強化薬だ。
天兵と化したエルフどもに任せれば、アルフィンとランギルスを討ち取るなど、たやすい」
ロイドお父様な傲然と言い放つ。
でも、実際のところは、歳を取ってもう魔王ランギルスに勝つ自信がないのじゃないかしら?
実際、この前の戦いでは、お父様はランギルスに押されていた。宮廷での処世術にばかりに長けて、もう勇者としての勇猛さなど、失われつつあるのだわ。
なんて情けない……こんな男が、お父様だなんて信じられませんわ。
ポンコツ勇者と、私は心の中で舌を出す。
「もし失敗したら、今度は私が直々に出陣して、アルフィンお姉様を討ち取ってやりますわ! 今度こそ、聖女の力を思い知らせてやりますの!」
私がこんなに苦しんでいるのは、すべてアルフィンのせい。
薄汚い魔王の血筋の癖に、エルトシャン殿下のお心を奪い、この私より美しいだなんて、絶対に許さない。
絶対に絶対に、この私の足元にひれ伏しさせてやりますわ。
「シルヴィア、良く聞け。お前の戦場はここだ。アルフィンの抹殺は俺に任せて、お前はとにかく、エルトシャン殿下のお心を射止めることに努めろ。
俺が手を回して、今後も夜会などをセッティングしてやる」
「夜会ですって!? また、大勢の前で、こんな恥をまた晒せとおっしゃるの!? そんな暇があるなら、私とエルトシャン殿下の結婚の日取りをお決めになって! お父様ならできるでしょう!?」
私は頭を掻きむしった。
「王子殿下が、お前を拒絶されている限りは結婚式など、不可能だ! できたとしても、各国からの来賓の前で、今の一幕を繰り返すことになるぞ!」
それは、ゾッとすることだった。
私が殿下から愛されていない事実を全世界に晒してしまう。
「とにかく、どんなに辛くてもエルトシャン殿下へのアプローチを続けろ! 万が一にも、他の令嬢に殿下を奪われるようなことがあっては一大事だ。ヴェルトハイムの浮沈は、お前にかかっているのだぞ!」
「くぅ……わかりましたわ。他の女に、エルトシャン殿下を取られる訳には参りませんものね……」
そんなことになったら、私はその女を殺しかねない。
「と、とにかく、アルフィンお姉様を消しさえすれば、殿下もお心変わりするハズですわ。お父様、頼みましたよ!」
「ああっ、任せておけ!」
ロイドお父様は自信ありげに頷いた。
あの女を15年間育ててきた愛情など、まったく持ち合わせていないようで、安心した。
ロイドお父様はポンコツだけど。権力に病的に執着する心だけは、信頼できますわ。
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