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 買うのはいいが程々にしよう、とソランツェに言われたが相手の出方次第だしと考えていたら、現地の港に到着した模様。磯の香りが強くなったと思う。早くのんびりしたい。

 いつもの様にライアスが外から開けてくれ、もう相手方はいると教えてくれた。

「ライアス、他の皆に相手が何言おうが手出し厳禁だよって言っておいて」
「……何かされるのでしょうか?」
「陳列してる商品買おうかと」

 俺がニッコリ笑って言い放つと、ライアスはソランツェの方をチラッと確認している。ソランツェが頷いたのを見ると承知しました、と言って受けてくれる。

「では、お手を」








++++++







 ライアスに手を取ってもらって外に出ると、いつも賑わっているだろう港周辺は人がいないという寂しい光景だった。近付かない様にトゥアンニコの警備兵によって規制線が張られているので近付きたくとも無理なだけだが。
 そんな中、五十メートル先くらいの位置に二十人くらいの集団がいて、あれが例の特別部隊だなとすぐに判る。そのもっと後方の海に目を向けると何やらデカい物体が海にいるのが確認出来た。目標確認OK。
 早く倒したい所だけど、一応あっちも確認。遠くても判る派手な服を着ている人物が第三王子で、その横のプロレスラーみたいに体のデカい人物が騎士団長の様だ。その横にいるおじさんはトゥアンニコの領主かな?あとは鎧を着けた兵士達。

 先方は俺達の隊形が整った所でこちらへ近付いて来たが、なんて言ったらいいんだろうか纏う雰囲気が不快だ。

「(内心ニヤついてんのが隠せてなくね?)」
「(呆れるな)」

 裏を知らなかったとしてもこの雰囲気でやって来られてたら不快に思うだろうなってくらいの感じ。あー、やだやだ。



「ようこそ、おいで下さいました。愛し子様。」

 そう言いながら、こちらへ近付いて来た第三王子と騎士団長は遠くから見ればこやかに見えるかもしれない。が、実際は失礼なくらいの視線で俺を探ってきていて呆れてしまう。騎士団長は犯罪者を見る様な視線だし、第三王子は熱と湿度の篭ったねっとりとした視線とでも言えばいいのか……不快度がすごい。

 第三王子の名前はファルレイ・エストブ・ガルゴドラ。俺より少しだけ背が高くブルネットに青っぽいグレーの瞳。濃い眉毛と睫毛が特徴的な濃い顔立ち。そして、それに負けてないくらいの真っ赤な派手な服。闘牛士の衣装を品悪く最上級にゴテゴテに装飾した感じ。よく素面で着れるよなって思う。
 騎士団長の名前はゴイド・タデンリグ。赤髪短髪筋肉達磨だるまで全てが説明出来る。

 お目にかかれて光栄です、レイと呼んで欲しい、なんて言われながら第三王子と握手をしたが、手が離れる時に一瞬だが手のひらを指でくるっと撫でられて鳥肌が立ってしまった。最悪……。

「……突然の申し出を受けて下さった事、感謝します」

 俺の顔引き攣ってそうだな頑張れ俺の顔って思いながら謝意を伝えるが、エロ王子の舐め回すような視線に吐き気がする。さっさと倒してこの人達と離れたい、喧嘩とかどうでもいいかもしれんと思っていたが……

「いやいや、手が増えるのは有り難い事です。たとえ木剣さえ持てぬ様なだろうとも、がこの上なく最上の戦力ですからね。ああ、最上と言えば絵姿でも拝見しておりましたがに注いだ様なその最上のお姿には感嘆の声しか上げられませんな」

 筋肉達磨がフルスロットルでディスって来る。即行過ぎだし思ったよりガンガン来るのに吃驚だよ。

 その場に下品に響くガハハッという笑い声に聖騎士達が苛立っているのが判ったが、皆俺の言う通りに何もせずにいてくれている。うーん……買う気だったけど……でも、これと同じレベルになるのもなあ……?


「それにしても、ルーダル殿ともあろうお方が――」
「その言葉に何が続くか知らないが、俺の何を知っていて話そうというのだ?」
「え?」

 俺が喧嘩を買うか躊躇している間に騎士団長は調子に乗ったのかソランツェへ言葉を向けるが、ソランツェは最後まで言わせず言葉を遮る。あ、待って待って。無表情だけどめちゃくちゃ怒ってる。

に教えておくが、愛し子に武器など必要のない事を知っておくがいい。ドラゴンを殺せる俺でも愛し子に傷一つ付けられない、という事も併せてな」
「は?」

 騎士団長や第三王子、領主や兵士達もソランツェの言葉の意味が呑み込めないのか、ポカンとしている。

「判らないか?それだけの力があり、本当は護衛すら要らぬのだぞ」

 聖騎士団が護衛として付くのは名目上必要なだけであるし、自分は護衛騎士ではあるが『愛し子の伴侶』として横にいるという事を是非とも思い出して頂きたいものだと続け、第三王子に見せつける様に俺の肩を抱く。

「彼は俺の最愛で、俺は彼の最愛だ」

 そして、ソランツェは先程第三王子に撫でられた方の俺の手を取り、手の甲に軽くキスをしてくれた。
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