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本編(表)
01 ファンクラブの会長をやってます!
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「幼馴染だからって、あんたみたいな子が、白兼様の側に居るなんて目障りなのよ!」
――と、冒頭から、いかにも負け犬の遠吠え的セリフを言っているのは、私、 玄田華澄。
この学園の生徒会長、 白兼聡様の非公認ファンクラブ会長をやっています。
まずは、白兼聡様の紹介をしますね。
某ベンチャ――企業代表のご子息。背は高く、少し長めの艶やかな黒髪はサラサラで、眼鏡の奥から覗く冷たい視線がたまらないという女子生徒続出のなんでも出来るス―パーイケメン。学園のアイドルです。
そして、目の前で俯いているのが、ヒロインこと白兼様の幼馴染、 桃園葵さん。
彼女は、白兼様が唯一、側に置いている女子生徒で学園の女子から嫉妬と羨望の眼差しを向けられています。
白兼様の隣に居ても遜色のない美少女で誰にでも優しく、ちょっと天然な所が隙をみせているのか、男子生徒に絶大な人気があるようです。
さて、舞台はここ体育館裏。
私の後ろには、同じ白兼会長のファンクラブのメンバー二人。
三対一
というなんとも卑怯な図式で、ヒロインを追い詰めています。
「桃園さん、なんとか言ったらどうなの?」
「何様のつもり?」
「そーよそーよ」
後ろ二人の合いの手を受けながら、両手を腰にあてて偉そうにふんぞり返ります。恥ずかしい。
それにしても『何様』って。ププププ。最強最高のヒロイン様に決まっているじゃない。と、内心ツッコミをいれているのですが、気取られてはいけません。
「私は誰にも迷惑をかけていないわ! 聡(会長の名前)が勝手に話しかけてくるから……」
いやいやいやいや。本当の事だからってファンクラブの人に、しかも今の状態で言っちゃだめでしょ?
ああ、もう、ほらぁ~。私の後ろのファンクラブ会員その一が顔を真っ赤にして右手を振り上げようとしているじゃないですか。まったく。
「やめなさい」
「だって、華澄さん!!」
「……やめなさい」
「……はい」
はいはい。どーどー。殴っちゃダメ。暴力反対。
とまぁ、頑張って他のメンバーをコントロールしながらもこうやって『誰の目でみても勝ち目のない“呼び出し”』をしているのにも訳があります。
実は、私。本当に、ちっとも、全然、まったく、これっぽっちも。――生徒会長 白兼聡 なんて好きじゃないんです。
恋愛小説を読むと、イケメンや学校のアイドルといい感じになっているヒロインを、勘違いの馬鹿女が嫉妬に狂って呼び出しをしたり攻撃をしかけたりしていますが、あれってハッキリいって逆効果ですよね? そんな事をするような女と誰が付き合いたいと思うのでしょうか? その辺のモブ男子もそんな女なんてお断りだと思います。
非公認ファンクラブに入ること自体、近いようで彼らイケメンたちと遠い位置にいるのです。
そして、その図式に当てはめると
非公認ファンクラブ+呼び出し=すごく嫌われるのです!! それ! それを今! 私が! やっているのです! しかも私『非公認ファンクラブ会長』!! トリプルで嫌われます!
唐突ですが、実はこの世界は『乙女ゲーム』の世界なのです。
そして、私は前世でそのゲームをやっていた転生者。ライトノベルで流行りの図式ですので、詳しくは省略いたしますね。普通の乙女ゲームでしたら、ヒロイン(私はモブです)を傍観しつつ、イケメンを目の保養に、ニヤニヤとした三年間を送るつもりでした。
でも、このゲームはヤンデレしか攻略対象者がいないという……現実問題としてそんなにヤンデレばかりの学園ってなんなの? イケメンは必ず病んでいるってありえないし逆に凄っ! な学園なのです。有難い(?)事に、『学園崩壊』『皆殺し』といったモブを巻き込む傍迷惑なエンドはないゲームだったのでお気の毒なヒロインに『お疲れ様です! ご愁傷様です! 私には関係ないので、どうかヤンデレにデレていて下さい!』と心の中で思っていたのがいけなかったのでしょうか……。
私が二年生に進級したゲーム開始時。
まだ生徒会長になっていない白兼聡と目が合ったのです。
ゾクゾクゾクゾク
悪寒が走りました。そして私も走りました。家に帰って自室のベッドの上でブルブル震えました。だって、なんだか、さっきの目つき。勘違いではなかったら“ロックオン”されたようで……。
私は焦りました。だって、生徒会長って……攻略対象者の中で一番苦手なタイプの“ヤンデレ”だったからです。
ちょっと他のキャラと話をしただけで監禁されます。(その時、鎖はデフォルト)
自らを傷付けてヒロインが離れないようにします。(お前が裏切ったら死にます的な)
攻略対象者でもエロ描写が多く、殆ど十八禁でしょ? 的な行為を学園内で行います。
賢すぎる頭脳を活かしてどんどんヒロインを、追い詰めて精神崩壊までもっていきます。
自傷行為をして脅してくるくせに、ヒロインに対しても超サドです。
そう。クールな外見に反して、その内面はとても執着心の固まりでねちっこい人なんです。『君を鎖で繋ぎたい』という、ヒロインにとったらいい迷惑なキャッチコピーを背負った人なんです。
唯一の救いは『カニバリズム』キャラじゃなかったくらいでしょうか。ってどこが救いやねーん。おっと、いけません。話が脱線しました。白兼様の視線に恐怖した私は、考えたのです。徹底的に嫌われるキャラとはなんぞや? それは、ヒロインを虐めるファンクラブではないのでしょうか!? 一番近いようで一番遠い位置に属している存在……。
それに気付いた私は、早速ファンクラブに入りました。
そうしたら、なぜか会長にまで上り詰めてしまったのです。(全くの計算外です)私の白兼様に対しての一歩引いた態度が他のファンクラブメンバーにとって好ましく映ったのが敗因の様で。一歩どころか何万歩も引いているのに……つらい。
会長まで上り詰めた私の初仕事は、最近目に余るくらいに白兼様とベタベタしている幼馴染殿(桃園さん)に厳重注意する事でした。
桃園さんには、こんな不快な目にあわせて申し訳ないとは思っています。ゲーム終了時(二年のクリスマス)には、土下座をして謝るつもりです。なんて回想にはいっていたからでしょうか。桃園さんのとんでもない言葉に、反応が遅れてしまいました。
「玄田さんは、聡の事が好きなの?」
「……え?」
え? ええ? 意味がわかりません。
「そうに決まっているじゃない! 華澄さんほど白兼様に相応しい人はいないわ!」
「そーよそーよ」
私よりも先に外野の二人がまくしてるのだから堪ったものじゃありません。やめてください。勝手に煽らないでください。
ああ、もう、帰りたい。
「……玄田さん、本当? 聡の事、好き?」
「…………っ」
桃園さんの上目遣い。流石ヒロインんです。なんて、言葉に詰まっている場合じゃなありません。
ここで「いやいやいや、あなた様程お似合いな方はいませんゼ。いよ! バカップル! 永遠に爆発しろ!」
なんて、両手を揉みながら言えていたら! 私の今後の人生は、違うものになっていたかもしれないと、悔やむ日々を送る事になるだなんて、今の私に気付けるわけもなく。後ろの二人の手前、私は渋々ながらも返事をしました。
「…………好きです」
「それは嬉しいな」
はい?
私たちの後ろから、艶にとんだ色気たっぷりの幻聴が聞こえてきたのです。
「聡! 良かったね!」
「葵、協力を感謝するよ。やっと僕の恋が実った」
「……」
硬直している私の前でどんどん話が進められています。
「僕の愛しい人は、僕のファンクラブ会長をしているのに、全く僕に接触してくれないからね。葵に協力をしてもらって……やっと君の気持ちが聞けた」
道理でやけにここ数日の間、二人がベタベタしていると思いました。私は心の中で『やったぜ! 会長とヒロインのルート確定! あのロックオンは私の自意識過剰が起こした脳内妄想だったんだ! 乙女ゲーム脳でさーせん』と反省しつつ喜んでいたのです。
しかし、他のメンバーがその状態を許すわけがありません。会長として最後の仕上げに“呼び出し”を行う事になったのですが……。
「愛しているよ。華澄」
そう言って茫然自失している私に、ぶちゅ―と、それはそれは濃いキスをしてきました。
あ、舌をいれてきた。やめて。ファーストキスがディープキス(しかも人前)なんて濃すぎます。
「キャーキャー」
「華澄さんなら認めるわ!」
「そーよそーよ」
ギャラリーがうるさい。もう、黙っていて。
長いキスの後に、妖艶な笑顔で
「もう、逃げられると思わないでね」
なんて甘いお言葉をいただき、また永い永いキスをしてきました。腰が砕けて支えられて、身体が余計に密着する。その高い熱がべったりと身体に張り付いて簡単にはおとせない。眼鏡の奥の冷たい瞳に捕らえられて私は―逃げられない。
誰ですかっ!
呼び出しするような馬鹿女と付き合うはずはないって言った人は! 私? 私だったよ! 本当にもう! すいません。ごめんなさい。本気で謝りますから……だ、誰か!
私を!
“呼び出し”して下さ―い!
――と、冒頭から、いかにも負け犬の遠吠え的セリフを言っているのは、私、 玄田華澄。
この学園の生徒会長、 白兼聡様の非公認ファンクラブ会長をやっています。
まずは、白兼聡様の紹介をしますね。
某ベンチャ――企業代表のご子息。背は高く、少し長めの艶やかな黒髪はサラサラで、眼鏡の奥から覗く冷たい視線がたまらないという女子生徒続出のなんでも出来るス―パーイケメン。学園のアイドルです。
そして、目の前で俯いているのが、ヒロインこと白兼様の幼馴染、 桃園葵さん。
彼女は、白兼様が唯一、側に置いている女子生徒で学園の女子から嫉妬と羨望の眼差しを向けられています。
白兼様の隣に居ても遜色のない美少女で誰にでも優しく、ちょっと天然な所が隙をみせているのか、男子生徒に絶大な人気があるようです。
さて、舞台はここ体育館裏。
私の後ろには、同じ白兼会長のファンクラブのメンバー二人。
三対一
というなんとも卑怯な図式で、ヒロインを追い詰めています。
「桃園さん、なんとか言ったらどうなの?」
「何様のつもり?」
「そーよそーよ」
後ろ二人の合いの手を受けながら、両手を腰にあてて偉そうにふんぞり返ります。恥ずかしい。
それにしても『何様』って。ププププ。最強最高のヒロイン様に決まっているじゃない。と、内心ツッコミをいれているのですが、気取られてはいけません。
「私は誰にも迷惑をかけていないわ! 聡(会長の名前)が勝手に話しかけてくるから……」
いやいやいやいや。本当の事だからってファンクラブの人に、しかも今の状態で言っちゃだめでしょ?
ああ、もう、ほらぁ~。私の後ろのファンクラブ会員その一が顔を真っ赤にして右手を振り上げようとしているじゃないですか。まったく。
「やめなさい」
「だって、華澄さん!!」
「……やめなさい」
「……はい」
はいはい。どーどー。殴っちゃダメ。暴力反対。
とまぁ、頑張って他のメンバーをコントロールしながらもこうやって『誰の目でみても勝ち目のない“呼び出し”』をしているのにも訳があります。
実は、私。本当に、ちっとも、全然、まったく、これっぽっちも。――生徒会長 白兼聡 なんて好きじゃないんです。
恋愛小説を読むと、イケメンや学校のアイドルといい感じになっているヒロインを、勘違いの馬鹿女が嫉妬に狂って呼び出しをしたり攻撃をしかけたりしていますが、あれってハッキリいって逆効果ですよね? そんな事をするような女と誰が付き合いたいと思うのでしょうか? その辺のモブ男子もそんな女なんてお断りだと思います。
非公認ファンクラブに入ること自体、近いようで彼らイケメンたちと遠い位置にいるのです。
そして、その図式に当てはめると
非公認ファンクラブ+呼び出し=すごく嫌われるのです!! それ! それを今! 私が! やっているのです! しかも私『非公認ファンクラブ会長』!! トリプルで嫌われます!
唐突ですが、実はこの世界は『乙女ゲーム』の世界なのです。
そして、私は前世でそのゲームをやっていた転生者。ライトノベルで流行りの図式ですので、詳しくは省略いたしますね。普通の乙女ゲームでしたら、ヒロイン(私はモブです)を傍観しつつ、イケメンを目の保養に、ニヤニヤとした三年間を送るつもりでした。
でも、このゲームはヤンデレしか攻略対象者がいないという……現実問題としてそんなにヤンデレばかりの学園ってなんなの? イケメンは必ず病んでいるってありえないし逆に凄っ! な学園なのです。有難い(?)事に、『学園崩壊』『皆殺し』といったモブを巻き込む傍迷惑なエンドはないゲームだったのでお気の毒なヒロインに『お疲れ様です! ご愁傷様です! 私には関係ないので、どうかヤンデレにデレていて下さい!』と心の中で思っていたのがいけなかったのでしょうか……。
私が二年生に進級したゲーム開始時。
まだ生徒会長になっていない白兼聡と目が合ったのです。
ゾクゾクゾクゾク
悪寒が走りました。そして私も走りました。家に帰って自室のベッドの上でブルブル震えました。だって、なんだか、さっきの目つき。勘違いではなかったら“ロックオン”されたようで……。
私は焦りました。だって、生徒会長って……攻略対象者の中で一番苦手なタイプの“ヤンデレ”だったからです。
ちょっと他のキャラと話をしただけで監禁されます。(その時、鎖はデフォルト)
自らを傷付けてヒロインが離れないようにします。(お前が裏切ったら死にます的な)
攻略対象者でもエロ描写が多く、殆ど十八禁でしょ? 的な行為を学園内で行います。
賢すぎる頭脳を活かしてどんどんヒロインを、追い詰めて精神崩壊までもっていきます。
自傷行為をして脅してくるくせに、ヒロインに対しても超サドです。
そう。クールな外見に反して、その内面はとても執着心の固まりでねちっこい人なんです。『君を鎖で繋ぎたい』という、ヒロインにとったらいい迷惑なキャッチコピーを背負った人なんです。
唯一の救いは『カニバリズム』キャラじゃなかったくらいでしょうか。ってどこが救いやねーん。おっと、いけません。話が脱線しました。白兼様の視線に恐怖した私は、考えたのです。徹底的に嫌われるキャラとはなんぞや? それは、ヒロインを虐めるファンクラブではないのでしょうか!? 一番近いようで一番遠い位置に属している存在……。
それに気付いた私は、早速ファンクラブに入りました。
そうしたら、なぜか会長にまで上り詰めてしまったのです。(全くの計算外です)私の白兼様に対しての一歩引いた態度が他のファンクラブメンバーにとって好ましく映ったのが敗因の様で。一歩どころか何万歩も引いているのに……つらい。
会長まで上り詰めた私の初仕事は、最近目に余るくらいに白兼様とベタベタしている幼馴染殿(桃園さん)に厳重注意する事でした。
桃園さんには、こんな不快な目にあわせて申し訳ないとは思っています。ゲーム終了時(二年のクリスマス)には、土下座をして謝るつもりです。なんて回想にはいっていたからでしょうか。桃園さんのとんでもない言葉に、反応が遅れてしまいました。
「玄田さんは、聡の事が好きなの?」
「……え?」
え? ええ? 意味がわかりません。
「そうに決まっているじゃない! 華澄さんほど白兼様に相応しい人はいないわ!」
「そーよそーよ」
私よりも先に外野の二人がまくしてるのだから堪ったものじゃありません。やめてください。勝手に煽らないでください。
ああ、もう、帰りたい。
「……玄田さん、本当? 聡の事、好き?」
「…………っ」
桃園さんの上目遣い。流石ヒロインんです。なんて、言葉に詰まっている場合じゃなありません。
ここで「いやいやいや、あなた様程お似合いな方はいませんゼ。いよ! バカップル! 永遠に爆発しろ!」
なんて、両手を揉みながら言えていたら! 私の今後の人生は、違うものになっていたかもしれないと、悔やむ日々を送る事になるだなんて、今の私に気付けるわけもなく。後ろの二人の手前、私は渋々ながらも返事をしました。
「…………好きです」
「それは嬉しいな」
はい?
私たちの後ろから、艶にとんだ色気たっぷりの幻聴が聞こえてきたのです。
「聡! 良かったね!」
「葵、協力を感謝するよ。やっと僕の恋が実った」
「……」
硬直している私の前でどんどん話が進められています。
「僕の愛しい人は、僕のファンクラブ会長をしているのに、全く僕に接触してくれないからね。葵に協力をしてもらって……やっと君の気持ちが聞けた」
道理でやけにここ数日の間、二人がベタベタしていると思いました。私は心の中で『やったぜ! 会長とヒロインのルート確定! あのロックオンは私の自意識過剰が起こした脳内妄想だったんだ! 乙女ゲーム脳でさーせん』と反省しつつ喜んでいたのです。
しかし、他のメンバーがその状態を許すわけがありません。会長として最後の仕上げに“呼び出し”を行う事になったのですが……。
「愛しているよ。華澄」
そう言って茫然自失している私に、ぶちゅ―と、それはそれは濃いキスをしてきました。
あ、舌をいれてきた。やめて。ファーストキスがディープキス(しかも人前)なんて濃すぎます。
「キャーキャー」
「華澄さんなら認めるわ!」
「そーよそーよ」
ギャラリーがうるさい。もう、黙っていて。
長いキスの後に、妖艶な笑顔で
「もう、逃げられると思わないでね」
なんて甘いお言葉をいただき、また永い永いキスをしてきました。腰が砕けて支えられて、身体が余計に密着する。その高い熱がべったりと身体に張り付いて簡単にはおとせない。眼鏡の奥の冷たい瞳に捕らえられて私は―逃げられない。
誰ですかっ!
呼び出しするような馬鹿女と付き合うはずはないって言った人は! 私? 私だったよ! 本当にもう! すいません。ごめんなさい。本気で謝りますから……だ、誰か!
私を!
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